07
とりあえず僕は、シーツを被り、その場から逃げた。
すると宮廷魔術師のナイルと遭遇した。
「陛下!? いかがなさったのですか!?」
「……ちょっとな。それよりも勅命だ。今夜僕をかくまってくれ」
「――!? 御意……」
ナイルが僕に手を差し出した。ナイルほどの魔術師の部屋なら、流石にあの二人も入ってこないと思いたい。
ナイルの部屋は、お香の良い匂いがした。
「陛下、事情を……」
「……疲れているんだ。明日も早くから謁見がある。ベッドを貸してくれないか」
「――承知しました」
そして僕は眠った。
翌朝。
正直僕は、玉座の間で二人に会うのが怖かった。二人はどんな顔をして訪れるのだろう? 来なかったりして……。それはそれで困るんだけど、僕はどうしたらいいのかな?
だが――二人ともいつもの通りにやってきた。
何もかもがいつも通りだった。あれ? もしかして全部僕の夢? そんな気分になったが、まさかね! とりあえず日中は何とか乗り切れそうだ。
――さて本日の大きな仕事は謁見だ。
弟のユノスが来ているのである。
「兄さん、さっさと俺様に王位を譲って、遺物使いに専念しろよ」
十二歳なのに170cmも身長があり(僕と30cmも違う)のぞき込まれるように見られると怖い。僕とユノスは仲がすごく悪い。いつもユノスが王位を欲しているからだ。そして勇者の遺物は確かに僕しか使えないから、僕には討伐に専念するべきだという人も多い。だけど僕は王位を継ぐ第一王子として常々ユノスと争いながら育ったから(一歳しか違わないしね)、一応プライドみたいなものもある。ちなみにユノスは、こう見えて気の強い受けだったら良いのにな。開いては誰が良いかな?
「――兄さん。聞いているのか?」
「……聞く価値もない」
「は? こっちが心配してやってるって言うのに!」
「心配? 何の?」
「だーかーら! 最近顔色が悪いだろう? 折角この俺様が……」
「王位を代わりにやりに来たと?」
「何でそう捻くれてるんだよ!!」
あれ、ちょっと言い過ぎちゃったかな。ただ、僕は中身は前世の記憶分で少し大きいけど、子供の一歳差って越えられない壁だから、ついつい構っちゃうんだよね。弄っちゃうと言うか。
「もう良い。バーカバーカ! 兄さんなんて”月神の子達”の餌になれ!!」
――それは、ありきたりな悪口だった。
しかし僕は凍り付いてしまった。気づくと、反射的に首筋に手で触れ、クルスを素早く一瞥していた。場の空気も張りつめた気がする。
「兄さん……?」
「用件はそれだけか? これでも多忙なんだ。帰ってくれ」
僕がそう告げた声は、自分でも分かるほど、震えていた。――これから僕は、どうすれば良いんだろう。
「……兄さん……本当に平気か? 顔が真っ青だぞ。いつもはどちらかと言えば赤いのに」
それは腐妄想の結果だね……。しかしなんて答えればいいのだろう? 変な話しだが巻き込みたくもない。
「誰に物を言っているんだ。僕は平気だ」
そう告げ立ち上がろうとして――僕の視界は暗転した。まずい、貧血だ。気持ち悪い。
「「陛下!!」」
クルスとサイトの声がそろって聞こえた気がした。本能的に逃げようとしたのだが、その前に僕の意識は闇に飲まれた。
目を覚ますと僕は自室で眠っていた。
横にはサイトとクルスの姿がある。通常通りだ。通常通りなのだが、今だけは怖すぎる。
「陛下……」
「……近寄るな」
まずは声をかけてきたクルスに告げた。ついでサイトを見る。
「君もだ、サイト」
声が震えそうになったが、必死で頑張った。両腕で体を抱く。
「話を聞いて下さい」
「……」
サイトの言葉に、シーツを被りながら僕は悩んだ。どうしよう? 聞くべき?
「陛下!! 聞いてくれ!!」
するとクルスにシーツを奪われた。
「あ……ちょっと……待……」
ついに僕の声は震えてしまった。そんな僕をクルスが抱きしめた。
「陛下、俺は陛下を愛しているんだ!」
「……」
僕は思う。クルスは堅物ではないのかも知れない。……それにしても愛って……?
「僕の方が陛下を愛している。離れろ」
サイトがそう言うと、僕の腕を引いた。
今度はサイトの方に倒れ込む形になった。
――僕の気持ちとか、二人には関係ないのだろうか……。僕は、この二人で妄想するのが好きなだけだったのに……! どうしてこんな事になってしまったのだろう?
頭痛がしてきた。
いや――実は互いを思い合っているが故の照れ隠しに僕が利用されているんだったりして……? そうであってくれ!
そんなことを考えていたら、サイトに急に両脇をもたれた。そして。
「あ、あ、あ、っ――ああ!!」
急に脇の下からしびれるような快楽が流れ込んできた。
「やっ、あ、な、何!? あっ……!!」
僕は口調を取り繕うことも忘れて、情けなく涙を浮かべた。腰から力が抜けていき、全身が震える。すると正面からは、クルスにキスをされた。――気持ちいい。舌を絡め取られるたびに、ゾクゾクとした。水音が響くたび、急激に力が抜けていく。
そのまま暫く、サイトに脇を撫でられ、クルスにはキスをされた。何かが出て行き、同時に入ってくる感覚にグラグラした。気づけば僕の陰茎は、触られたわけでもないのに勃ちあがっていた。
「やっあっ……ッ……」
息継ぎの合間に拒絶の声を上げるも、二人が聞いてくれる様子はなく、僕の体にはもう力が入らない。
「あっ……も……ヤ……助け……」
ついに僕は泣いた。
「――どちらが暗示をかけ直す?」
クルスの声がした。
「お前に任せたら失敗されそうだから僕がやろう」
「大丈夫なんだろうな? 俺の陛下に何かあったら――」
「僕の陛下には何もない。安全になるように万全を尽くす」
二人のやりとりに、また記憶を消されるのだろうと悟った。それで楽になれるのならいい気もした。だが――腐っても(腐男子でも)僕は国王だ!! もう二人の好き勝手にされるわけにはいかない。
「は、はなせ……こ、これは、命令だ……っ!」
僕が必死に言うと、二人が虚を突かれたような顔でこちらを見た。
「あ、暗示は禁止だ!! そ、それ以外は……その……罪には問わない……だから……だから、僕に従え!!」
僕はやけになった。
「「御意」」
すると反射的になのだろう、二人が床に膝を突いた。それを見たら一気に気が抜けた。
――ここから、僕らの新しい関係が始まった。