08



やけになったものの、だよね。
今目の前に膝を突いている二人を見て、僕は続ける言葉に迷った。
どちらも端正な顔で目を伏せて、床を向いている。僕は彼らになんて声をかければ良いんだろう。そのまま暫くの間、僕の私室には沈黙が横たわった。

「……陛下?」

しかしそれを、クルスが破った。思わず硬直して、僕は息を飲んだ。
するとサイトが吹き出すように笑って、僕を優しく見た(いつも通り優しく見えた)。

「罪に問わず、暗示をかけないと言うことは、暗示をかけずに続きをさせて頂いて良いと言うことですよね?」
「……え?」
「なるほど。そう言うことになるな」

クルスがポンと手を打った。僕は目を見開くしかない。それから瞬時に、逃げなければと、後退った。しかし、詰め寄ってきたクルスに腕を掴まれ、強制的に後ろから抱きすくめられた。僕の正面にまわったサイトに、両手を頬に添えられ上を向かせられる。

「陛下、ご安心下さい。陛下の体はもう、気持ちの良いことに慣れきっております」
「な」
「そうです、陛下。身も心も委ねて下さい」

クルスが喉で笑いながら同意した。しかし僕は硬直した体を弛緩させることが出来ない。この二人は一体何を言っているんだろう。
サイトの綺麗な手が僕の胸元のリボンへと伸びてきて、あっさりとほどいた。
呆然としていると、前のボタンを外されて、鎖骨を撫でられた。その指の腹の感触に、体の奥で何かがザワリと騒いだ。何かがこみ上げてくる気がした。思わず唾液を嚥下していると、クルスに下衣を降ろされた。

「僕は前から入れる」
「ああ。俺は中から直接吸う」
「勿論指でだろうな?」
「っ、ま、まだな。俺は、体を繋ぐときは同意が欲しいんだ」
「無理に同意を取ったりしないだろうなお前は」
「散々無理矢理政治的要求をのませてきた貴様に言われたくないぞ宰相閣下」

二人は僕を挟んでそんなやりとりをした。僕は呆然とするしかなかった。
え? え? 危機的状況は回避できたんじゃないの?
驚いていると、後ろからクルスに体重をかけられて、僕は寝台の上で転んだ。底をクルスに抱き留められて、片方の太股をもたれた。

「な、何を……」
「力を入れても抜いても罪に問わないと仰せになったじゃありませんか」

そう言ってサイトが、正面から、僕の足の間に体を進めた。
そしてクルスが持っていない方の太股を掴んだ。
二人がそろって別々の温度で僕の太股を撫でた。

「ああっ、く……っ……」

思わずその感触に声が漏れてしまったのだが、必死で僕は声を噛み殺す。

「ひ!!」

するとサイトが僕のものを咥えて、深々と奥まで含んだ。温かいその感触に息を飲んでいると、クルスの指が伸びてきて、僕の後孔の入り口をつついた。

「あ、ちょっ、や、待って、待て、ぼ、僕の話を聞――ッ!!」

必死で二人の行為を止めようとしたときだった。
クルスの指が中へと入ってきて、しびれるような一点を的確に刺激した。声が凍り付いて、僕は背を撓らせる。目を見開いた。それを見計らうかのように、一度根本から先端まで吸い上げたサイトが、鈴口を舌で嬲り始めた。

「え、あ?」

僕は走馬燈のように嫌な記憶が甦ってきたように思った。
これ、は。
二人にされるとても辛い、快楽が強すぎて辛い、そんな刺激に繋がる。前からは力を流し込まれ、生きっぱなしの感覚になり、中では前立腺をずっと疲れ、体から力が抜けてどんどんその指に突き上げられる感覚が酷くなる形になる。
前と後ろから、同時に前立腺を刺激されると言うことだ。僕は想像して恐怖で目を見開いた。しかしその時には既に遅かった。

「あ、あ、あ、ア――!! ア、――、――!!」

瞬間的に声を上げたが、すぐにそれすら出なくなった。
陰茎から、サイトの舌を通して、まるで一本の円筒でも差し込まれているかのように、細い棒が入ってくる感覚がした。それが、僕の陰茎の中を暴いた。
ほぼ同時に、クルスに前立腺を二本の指で突き上げられ、僕はガクガクと震えた。
太股を必死に閉じようとしたが、サイトの体があることと、二人の手のせいでそれが出来ない。

「や、やだ、やだやだやだっ!!」

漸く声が出たとき僕は、必死で頭を振りながら、泣いた。
怖い、怖かった。
前と後ろから前立腺を刺激された瞬間、背骨を電流が走った気がして、視界が真っ白に染まった。

「うあ、うあああああああ!!」

何かが体の中に入ってくる。そして力が抜き取られていく。
そんな感覚と、生々しい二人の手の動きが、どこか乖離して思えた。
理性と感情と体と感覚の全てがバラバラになったように思えた。

「こ、怖いよっ、あああああ!!」

何度も頭を振ると、涙がボロボロと頬を濡らした。

「でも気持ちいいだろう? 陛下。こんなに張りつめさせて、反り返っている」

サイトが口を離し、指先で僕の陰茎をなで上げた。出てしまうと思ったが、相変わらず先端からは何かが入ってきている感覚がした上、撫でられたところ全てから快感がしみこんでくる。

「中の方が好きなんじゃないのか?」

クルスはそう言うと指の数を三本に増やして、グチャグチャと僕の内部を突き始めた。

「あっ、ああっ、ん、あ」

反論する暇がなかった。淫靡で卑猥な水音があたりに響き始める。それが恥ずかしくて僕はきつく目を伏せた。すると骨を伝うようにまるで体の奥から水音が聞こえてくるような気分になった。

「ふ――ッ、あ、ああン、あ」

息をするのが精一杯で、前後から前立腺を刺激され、僕は泣きじゃくった。

「嫌だ、嫌だ、もう嫌だ!! やめ、あ、こ、これは命令――」
「その命令は聞けないな。さっきに罪に問わないと言っただろう?」

サイトが僕の正面で口角を持ち上げて笑った。
そして舌先で、僕の乳頭を舐めた。直後、カリと噛まれた。

「――!!」

目を見開き、僕は先ほどまでよりも大きく涙をこぼした。
もう――全身が性感帯になってしまったかのようだった。どこを触られても、イきたいのにイけない感覚がもたらされている上、道の刺激を与え続けられている前立腺の訴える激情に直結していった。

「や、やぁ、も、もう、あ、ああっ」
「陛下は本当にこらえしょうがない」

サイトが笑う。すると背後でクルスが僕の方に顎を乗せ、吐息に笑みを乗せた。その刺激だけでも僕は果てそうになった。しかし前に何かが入り込んでいるから無理だ。髪の毛が頬に当たっているというただそれだけでも、気が狂いそうに気持ち良く思える。

「おねが、おねがっ、ねが、あ、あ……あああああ!!」

再びサイトの唇が陰茎に降ってきて、内部を犯すクルスの指の動きはさらに強まった。
――気持ち良かった。怖いくらいに気持ち良かった。
そう思ったのを最後に、僕の意識は暗転した。