09


目を覚ました僕は寝台の上で横になっていた。部屋は暗い。月明かりが差し込んでいて、全体が青く見える。天井を見上げたまま僕は、気づくと一人で、涙がこめかみから横に伝っていくのを感じていた。どうしてこんな事になってしまったのだろう。空しさに涙が溢れた気がした。何が空しいかといわれたら――『陛下の体はもう、気持ちの良いことに慣れきっております』? 嘘だと思いたかった。だけど僕は意識を飛ばす前、確かに気持ち良かった。気持ち良すぎて気が狂うかと思ったのだ。

そんなことを考えてから、ハッとした。

な、なんと、僕の左右ではクルスとサイトがそれぞれ僕の方を見て横になり目を伏せていたのだ。二人の寝顔なんて初めて見た。
……真ん中に僕が寝ていなければ、非常に萌える構図だ。って、そういう事を考えて現実逃避をしている場合じゃない。

「ん……陛下、起きたのか」

クルスの声に、僕はビクリとしてしまった。するともう片側では、サイトがあくびをしながら瞬きをした。

「おはようございます」
「あ、ああ……」

二人はほぼ同時に起きあがると、ベッドサイドにそれぞれ座った。

「これからは、陛下のお具合が悪くならないよう、配慮させて頂きます」

サイトの声に、僕は意味を思案しながら視線を向けた。しかし答えは、逆側にいたクルスから返ってきた。

「俺が抜く分を、宰相閣下が入れる。これで力量は陛下の中では変わりません。ですが、陛下の体を一度通して変換しているので、抜くときに俺は陛下のお力を今まで通り頂くことが出来ます」

僕は最初その意味がよく分からなかった。しかし、先ほどまでの行為を考えてハッとした。
まさか……三人で、あのように、すると言うことなのだろうか? 僕にはもう無理だ。刺激が強すぎる。だって僕はまだ十三歳なんだよ? あんな尋常ではない快楽なんて辛いだけだ。とても体がたえられるとは思えない。

「た、頼むから……一人ずつにしてくれ」

気づけば情けなく僕は、起きあがりながら懇願するような声で言っていた。
すると僕越しに、クルスとサイトが視線を交わした。

「その方が僕としては都合が良いな。僕は陛下を愛しているからな。お前が触れている所など見たくもない」
「同感だ。そっくりそのまま、その言葉を返す。陛下を真に愛しているのはこの俺だ」

愛。愛?
僕の意志はどこに行った。そして僕は、愛という概念がよく分からなくなりつつあるぞ!
だが……二人に一気に何かされるよりは、まだ一人ずつの方がいい気がする。

「では、陛下、日替わりでいきましょう」
「明日は俺で」
「いや僕だ」
「いいや、俺が」
「ふざけるな。また抜きすぎて陛下を倒れさせる気か?」
「貴様こそ不純物を混ぜすぎて、陛下の思考を不明瞭にするだろうが!」

二人が口論を始めてしまったので、慌てて僕は手を二度叩いた。

「みっともない。僕の前で喧嘩なんてするな。それは罪に問うぞ」
「「……御意」」
「そ、そうだ、じゃんけんだ……!」

この大陸にいにしえより伝わる勝負方法を伝えると、二人が睨み合いながら頷いた。
そしてじゃんけんが行われた。
三回勝負で、勝者はクルスだった。ガッツポーズで喜び天井を仰いでいる。一方のサイトは床に膝を突き頭を抱えた。

だが、どちら勝とうと僕にとっては、明日も性的に辛い現実が待っているという事に代わりはない。心底憂鬱になってしまったのだった。

それから一晩寝てよく考えた。

僕はやっぱりノーマルだと思うのだ。それが何でこんなおかしな事になっているのだろうか。大体僕は国王なのだから、今後婚姻だってするし、王位継承者だって生まれてこなければならないのだ。そう言った理由もあるし、これ以上好きにさせるわけにはいかないよね。ここは一人ずつ説得してみよう。それが良い。

朝が来たので着替えて僕は玉座の間へと向かった。
すると謁見待ちをしているという知らせが入った。また、ユノスだった。
何をしに来たんだろう、この弟は。僕は今僕のことで手一杯だ。

「兄さん!」
「なんだ?」
「……まぁ昨日よりは顔色が良いな」
「……」

それは、そうなのだろうか? 入れられつつ抜かれつつだからか?
それとも腐妄想がまだ足りないから、普段の赤い顔とのギャップがあるのだろうか。
そうだなぁ、ユノス×ナイルとかどうだろうか。
年下攻め! 12歳なのに自分より大人っぽい攻め! 多分ユノスはもうすぐナイルの身長を追い越すしね。

「それで用件は?」
「兄さんの顔色を見に来ただけだ。だからそんなに疲れるくらいならさっさと俺様に王位を譲れ」
「黙れ」
「働き過ぎなんだろう?」

ユノスは幸せな誤解をしている。残念ながら国を回しているのは国王の僕じゃなく、サイトやクルスだ。

「手伝ってやらないことはないぞ」
「結構だ。離している時間がもったいない。帰ってくれ」
「なっ、なんだと!?」

ユノスが真っ赤になった。ユノスは怒ったときに赤くなる。あれ、赤面症ってこういう意味でも使うのかな。僕もユノスも遺伝的に赤面症だったりして。

「俺様だってもう子供じゃないんだよ。兄さんにもそれを分からせてやる」
「へぇ? 僕に分からせる? 精々やってみることだな」

僕が失笑すると、ユノスが玉座へと歩み寄ってきた。
そして、僕が許可をする前に階段を上り、僕の真正面に立った。

「な、なにを――いくら弟でもわきまえろ、無礼者!」
「大人だって分からせてやるよ」
「は? っ、ン――!!」

その時不意に顎を掴まれ、唇で唇をふさがれた。

「あ」

驚いて息継ぎと共に声を上げると、今度は中へと舌が入り込んできた。
水音が直接響いてくる気がする。舌を追いつめられ、絡め取られ、次第に僕の息は上がり苦しくなっていった。それから暫くの間唇を貪られた。

「どうだ?」

そして力の抜けた僕が玉座の背もたれに体を預けたとき、満面の笑みでユノスが言った。

「最悪だ。何をするんだ! 急に!」
「急じゃなくてもさせてくれるのか?」
「な」
「俺様、大人だろ?」
「大人って……そう言う意味じゃな――」
「どうせ兄さんなんてこういうの何にも知らないんだろ」
「……」

知っている。知っているのだ。知らぬ間に知ってしまったのだ。しかしそんなことは口が裂けても言えない。

「兎に角俺様が大人だって事は証明したからな。兄さん、覚悟をしていろ!」
「な、なんの証明だ! こういう事は意中の相手としろ!」
「それくらい分かってる」
「だったら、大人だって証明するからなんていってこんな――」
「兄さんて鈍いよな!」
「は?」
「じゃ、帰る。またな」

ユノスはそう言うと帰っていった。一体何だったんだよ、全く。
そう思って溜息をついたときになってやっと僕は、サイトとクルスが怖い顔で笑いながらこちらを見ていることに気づいたのだった。そんな、僕を睨まれても困るというものである。大体なんで睨まれなければならないのだ。
このようにしてその日は始まったのだった。