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僕は、それ以後の日々考えることになった。

――そもそも何で海神は、僕と同じ顔だったんだろう?

それに、暗号……リンゴの種の数とアステリカ。
アステリカは、分からないでもないのだ。古代語だ。
宝玉を使う呪文にも、”アテスレイカ”と出てくる。同じような意味だ。どちらも、勇者の子孫の事で、”救世主”というような意味合いだ。だから今でも、救世主だと言いたいときは、『流石は僕のアステリカ!』なんて言ったりもする。
だが、だから何だろう?
それに、リンゴの種?

「陛下、心ここにあらずですね」

そんなことを考えていたとき、サイトに言われた。

「え、あ……」
「僕のこと以外考えられなくさせてやりたくなる」

ギュッと抱きしめられる。その温もりがちょっとだけ気持ちいい。
深くキスをされ、満たされた気分になる。この満たされた気分が、力が入ってくるって言うことなんだよね。

今日は後ろから抱きしめるようにされ、ずっとゆるゆると前を扱かれている。
四本の指で覆われる感覚に、いちいちビクリとしてしまう。
親指では雁首を撫でられ、その腹がもたらす繊細な刺激に思わずきつく目を伏せた。
一度意識がこちらへと移ってしまえば、熱い中心のことしか考えられなくなる。

「っ、ふァ。だ、出したい」
「まだたりないな。陛下、僕は嫉妬深いんだ」
「やだぁ」

最近では、勝手に出すと怒られる。許可制だ。そんなことを言われても体の生理現象なんだから無理があると思うんだけどね。解放を求めて腰が無意識に震えた。

「あ、あっ、うッン……サイト……ぁ……お願いだ」
「こらえ性がないな」
「ッ」

そう言ったサイトに根本を握られた。同時に手の動きが止まる。

「や、やめ――」
「僕のこと以外考えられなくしてやると言いましたよね、陛下」
「え、え?」

すると太股の間に膝を押し込まれ、強制的に足を広げられた。そしてもう一方の手が、僕の中へと入ってくる。慣らされるでもなかったから、その強い刺激に思わず足を閉じようとした。しかしサイトの膝にそれを阻止される。

「あ、あ、嫌だっ、ね、ねぇ」
「陛下は中がお好きでしょう?」
「ンあ――!!」

一気に感じる場所を押し上げられて、それまでよりも大きく僕は声を上げた。コリコリと刺激され、一気に射精感に襲われる。肩で息をしたが足りなくて、舌を出して酸素を求めた。自分の吐いた吐息にすら感じてしまいそうになる。それくらい強い快楽に僕は絡め取られそうになっていた。

「ひうッ、や、あ、サイト、イかせ……――うあああ!!」
「此処をもっと弄って欲しいのではありませんか?」
「いや、いや、いや、もう、いやだ――っ、おかしくなる、あ、アア!!」

中を激しく突かれ、僕の視界はチカチカと白く染まった。だけど根本をもたれているせいで出せない。限界を訴えた腰から力が抜けていく。

「や、あ、あ、あああっ、うあ、怖っ――!!」

そのまま一際中を激しく突かれ、僕は悦楽に飲まれた。中だけで果てた僕は、ぐったりと力が抜けた体をサイトに預ける。

「ひゃッ!!」

すると途端に前を刺激され、強制的に僕は再び絶頂を迎えさせられた。
体がガクガクと震えて、もう何も考えられなくなる。
頭が真っ白になった。
もう何も考えられない。
そうして僕の理性はとんだ。



――ああ、腰が痛い。
こればっかりは、何度やっても慣れない。じくじくと鈍く痛む腰に辟易しながら僕は玉座に座っている。手にはクリプテックスを持ち、深々と溜息をついた。

そもそも、そもそもだ。

この前のアレは、ただの夢と言うことはないのか?
仮にそうじゃないとしても、それにこのクリプテックスが、”赤の世界”とやらに必ずしも関わっているとは限らない。

それはそうと、今日は先の戦争で奪い取ったエルダレイド王国から、珈琲が届いた。この世界では、珈琲を産出しているのはエルダレイドだけなんだよね。

「陛下、お味はいかがですか?」
「悪くない」

サイトに対してそう答えながら、内心では、苦いと思っていた。正直苦い。砂糖とミルクが欲しい。だけどなんとなく国王の威厳的に言いづらい。僕は外見は子供でも中身は大人であるていでいたいのだ。ブラックで飲めないのって、なんだか格好悪い気がするんだ。そんなことを思う方が子供っぽいのかも知れないけどね。
兎に角僕は、敵はおろか味方すらも蹴散らし蹂躙していく、冷徹な国王でありたいのだ。

「次はナナリレルイ皇国のココアが欲しいところだな」
「――進軍の準備は整っております」

クルスの声に、僕は、手の中でクリプテックスを弄びながら、もう一方の手で頬杖を突いた。本当は、戦争ってあんまりやりたくないんだよね。どちらの国にも被害があるわけだし。だけど僕はすす見続けなければならない国で暮らしている。この大陸では少しでも隙や弱さを見せれば、すぐに侵略される。だから父さんが亡くなってから僕は、冷酷であることを心がけて生きてきたんだよね。それが国を、国民を守ることに繋がるからね。

「けれど隣国、ガルディギア共和国も現在は随分と、”古害磊”の被害で疲弊しているようだから救援の手をさしのべるべきか」

勿論僕が言った”救援”とは、”侵略”の事である。
このようにして僕は次世代へと続く礎を築いていかなければならないのだ。

「――恐れながら陛下、ガルディギア共和国には、これといった特産はございません。陛下にご満足頂けるような品は見受けられません」

サイトの声に、僕は緩慢に視線を向けた。別に嗜好品なんてただの理由付けだ。
様子を見る限りサイトの表情は変わらないけれど、彼がガルディギアをひいきしているのは間違いない。考えても見れば、王子の来訪からして、そうだった。確実に便宜を図っていたと思う。”青の申し子”だという点を差し引いても、一国の宰相が特定の他国をひいきするってどうなんだろう。そう言う意味では、サイトを首にしても良いと思う。だけどサイトと同じくらい仕事が出来る人なんているのだろうか……クルスは武力面を任せているから論外として……宮廷魔術師のナイルとか? うん、良い仕事をしてくれそうだ。今ならば、僕に指図したとして首を切る絶好のチャンスだ。

よし! クビにしよう! これで少なくとも、一人分夜の行為が減るぞ!
僕は、生BLは隙だ好きが、自分でやるのは好きじゃないんだからね!

「僕に指図するのか? サイト、今日付で君を罷免す――」
「陛下、これを」
「ッ」

その時、サイトが僕の真正面に、一枚の羊皮紙を差し出した。
そこには魔術がかかっていて、映像が流れている。音は出ないように魔術がかかっているようだった。僕の腐男子知識で言うところの動画に似ている。
――そこには、僕がサイトの指で悶えて、泣いている姿が映っていた。

「此処を押すと、音声が――」
「結構。概要は分かった。すぐに消去せよ」
「仰せながらそれは国政に関わります故――して、なんと仰ろうとなさったのですか?」
「別に何も。有益な助言を貰ったと言おうとしただけだ」

こんなの脅しじゃないか。僕は泣きそうだったが、必死で無表情を保った。
確かにあんな動画が公表されたら国政に関わっちゃうよ! 宰相罷免も関わるけどさ!
もう僕は、なんだか嫌気がさしてしまったのだった。