4:吾輩はご主人様と再会する!
翌日から、僕は騎士団の訓練をさせられることになった。
訓練って多分遊びのことだと思うんだ。
巨大なネズミや鳥が出てきたから、僕は迷いなく追いかけて切り裂いたんだよね。
ちょっと大きさが大きい気がするけど、人間は大きいからこのくらいのサイズなのかもしれない。そのうちに、誰も僕と遊んでくれなくなった。爪から雷が出るのが悪いのかな。なんだか悲しいよ。
そんなある日のことだった。
「今日はこの騎士団最強のウィズと戦ってもらう」
騎士団長さんという顎髭が長い人に言われた。
やったぁ、今度はウィズが遊んでくれるんだ!
「宿れ我が聖剣にーーグリフォン!」
ウィズが変なことを言った。だけど僕もこれを聞いたら、渡された杖で言わなきゃならないことがあるんだ。
「宿れ我が杖にーー癒しの尻尾!」
僕の尻尾は別に癒したりしないんだけど、そう言えと言われていて、邪魔なので紐で後ろにかけてある。大きくて邪魔なんだよね、本当。
こうして、僕はウィズの剣を爪で受け止めた。鉄でできた爪なんだ。
剣をかわしいて、僕はウィズの胸元へと間合いを詰めたーーだけど、グリフォンって言う鳥みたいものが出現して、剣に絡みつき、僕の攻撃を阻止した。負けるもんか! 僕はご主人に褒めてもらわなきゃならないんだから!
するとバチバチと爪を雷が覆い、なんだかいけそうな気がして、僕は剣ごとグリフォンって奴を切り裂いたんだ。剣は折れちゃった……。オモチャを壊すとご主人怒るんだよね……!
「まさか最強と名高く大陸一のクラン・ミラルダの、その中でも最強のジェファードにも匹敵する使い手のウィズが負けるだなんて……!」
その場が静まり返った。
やっぱりおもちゃを壊したから怒っちゃったのかな……。
僕がしゅんとしていると歩み寄ってきたウィズが撫でてくれた。
「綺麗だった」
するとウィズは嬉しそうな顔をしたんだ。よかった、怒ってない!
そう思って安堵した時だった。
「敵襲です! 魔竜が十体! ギルド所属クラン全てと、騎士団に召集がかかりました!」
「なんでそんな数……!」
ウィズが険しい顔になった。するとそこへ、騎士団長さんが歩み寄ってきた。
「急で悪いんだがウィズーーそれにアサヒも出てくれないか」
「団長! アサヒはまだ来たばかりです!」
「しかし素性がわからないにしろ、多大な戦力となることはわかっている。頼む」
そう言うと騎士団長さんが頭を下げた。どういう意味だろう。僕は会釈っていう概念を知らなかったんだ。だってご主人、お部屋から出ないでずっと僕と二人だったし。だけど、魔竜ってことは、またあのトカゲと遊べるんだと思った。
「行く!」
「アサヒ……」
ウィズは何か言いたそうだったけど、僕の頭の中はもうトカゲでいっぱいだった。
魔竜が出たという場所に向かうと、沢山の人がいた。
なんでも住民は避難済みらしい。
目の前には巨大なトカゲがいた。
十匹いる。やったー! これだけ持って帰ったらきっとご主人にあった時褒めてくれると思うんだ。
だから僕は、片っ端から切り裂いて行った。
雷がバチバチしたけど気にしないで、右に左に爪を振るう。
その度にトカゲは倒れて行った。そして僕は全部倒した。爽快感でいっぱいだった。尻尾が蠢いていたのが楽しくて、飛び出したくなったけど、今の僕は二足歩行なんだよね……。
「んだよ、もう終わってんじゃねぇか」
その時懐かしい声が聞こえてきた。
僕は体を硬直させた。
この声はーーご主人!
「ミラルダ全員で来る必要なんてなかったな」
「遅れてきた言い訳か、ジェフ」
「うるせぇウィズ」
「尻尾を巻いて逃げたのかと思っていた」
「んだと、殺んのかコラ」
振り返った僕は、嫌そうに目を細めているご主人を確かに見た。
嬉しくて嬉しくて、僕は気がつくと目からなぜなのかポロポロと水が出てきた。
「ご主人様!」
慌ててかけよると、ご主人が虚をつかれたような顔をした。
「会いたかったです、ご主人!」
思わず抱っこを期待して走る。
だがご主人は、手で僕のことを追い払った。
これはあっちに行ってろのサインだ。
「なんだよ急に」
「嬉しくて……!」
「つぅか、お前誰?」
響いた声に僕は目を見開いた。
ご主人は……僕のことを覚えていないのかな?
嘘だよね……?
「まさか奴隷売買に手を染めていたなんて……」
「んなわけねぇだろうが、ウィズ」
「でも、アサヒはずっと主人に会いたがっていたんだ」
「他人の空似だろ。変な言いがかりつけんなよウィズ」
ウィズとご主人は睨み合っていて、僕のことなんて眼中に無いみたいだった。
だから僕はただ、空っぽになってしまった心で、ご主人を見る。
ーーそういえば、ゲームの中でもご主人は、ジェフと言われていた。
あのゲームの世界には、僕はいなかったんだ。
「気がそがれた。帰るわ」
あ、ご主人様が帰っちゃう……!
「ま、待って! 僕も一緒にーー」
「俺は面倒ごとが嫌いなんだよ。大体、お前みたいなのは足手まといなんだよはっきり言って」
「っ」
「俺より強くなって出直すんだな」
それって、ご主人より強くなったら、一緒にいられるってことなのかな?
僕はご主人と一緒にいたい!
帰って行くご主人を見ながら僕は、また目からボロボロと水がこぼれてきたのを自覚した。するとウィズが僕の肩を手で叩いた。
「あんな性格悪いやつはやめておけ。それより俺とーー」
「ご主人のことを悪く言うな!」
「……あいつはギルド認定最強クランの中でも最強のSランク不動の一位の剣士なんだぞ? ジャバウォックの使い手だ。あいつより強くなるってことは要するに、ギルド認定の最強の魔獣使いになるってことなんだ。いくらアサヒが強くてもそれは無理だ」
「無理じゃない! ご主人様はそうしたら会いにきてもいいって……」
「だからあれは要するに断りの言葉なんだ」
「違うよ! ご主人は確かにダメダメな人間だけど、一日に一回はトイレ掃除をするっていう約束は守ってくれた!」
「トイレ掃除……?」
ウィズが怪訝そうな顔で首を傾げた時だった。
「騎士団に入らないか?」
そこには団長さんが立っていた。
「騎士団は大陸各地にある統一ギルドの直轄機関だ。クランよりも上位に値する存在だ。各街にあるギルドから、依頼書経由ではなく直接依頼される。まぁ自警団みたいなものだな。そうすれば、そのなんていうかーークラン・ミラルダよりも上位階級になるから、大規模討伐の時は、何があったのかはよく知らんが、ジェフに会えるぞ」
「そこに入ると、ご主人様より強くなれますか?」
「いや、それはその……やっぱり旅をして経験を積んだ魔獣使いの方が強くなるだろうが……」
「旅?」
「ギルドで証明書を発行してもらって、大陸中を旅するんだ。要するに移動するんだよ」
「じゃあ僕、そっちの方がいいです!」
しかしその時、ウィズに強く腕を引かれた。転びそうになると抱きとめられていた。
「俺はお前と離れるのが嫌だ。お前が危険な目にあうのも嫌だ。ずっとそばにいたいんだよ。そんなにジェフがいいのかよ? 俺ならもっと、優しくしてやるから。だから旅に出るなんて言わないでくれ」
確かにウィズは優しいけどーーそれでも僕の一番は、やっぱりご主人なんだ。
僕は旅に出る決意をしたのだった。