5:吾輩はギルドに行く!


僕は旅に出ることに決めた。旅は、僕も知っていた。

あれだよね、発情期に自分の陣地から出るのに似ているみたいだ。
だけど人間になった僕には、何が必要なのかちょっとわからない。

毛皮がないから、まず毛布は借りて行こう。あと服も必要だ。僕みたいな初心者魔獣ーー魔猫使いは、ローブっていうフード付きの格好をするんだって。練習ように沢山もらったから、これも借りて行こう。食べ物は、きっとその辺で取れるからいいや。だけど水が無いのは困っちゃうよね。都合良く川があるかわからないし。
でもコップを持って行ったらこぼれちゃう。
外に出る時ウィズはどうしていたっけ?

あ。皮でできた袋に入れていた!

部屋の中を見回すとちょうどいいのがあったので、僕はそれに水を入れることにしたんだ。大きなコップにお水はたくさん入っていたから、そこから貰った。
僕はローブを着込んでから、背中に吊り下げている杖用の紐との間にクルクル巻いた毛布を挟んだ。お水の入った袋は、ローブの下に履いているなんか紐みたいなやつにくっつけた。

よし! これで準備は完了だ!

問題はーー……
お部屋の外に人間の気配がするんだよね。僕はここしばらくの間に、この体でも気配をうかがえるようになったんだ。

どうやって外に出よう?

そこで僕は窓の存在を思い出した。ここ一階だし、飛び降りられる。
決意し、音を立てないように窓を開け、僕は外へと出た。
一人で外に出るのは初めてだけど、道順は覚えていたし、今は夜だから僕の部屋のお外には誰もいなかった。

あれ、でも僕はどこに行けばいいんだろう?

騎士団長さんは、ギルドって言っていた気がする。
ということはギルドに行けばいいのかな?
ギルドってどこにあるんだろう。よく分からなかったから、とりあえず僕は街へと出た。すると一軒だけ、明るく光っているお店を見つけた。
看板には麦の穂を丸くしたような紋章と、ギルドって書いてあった。きっとあそこだ。だけど人の気配がいっぱいするからちょっと怖い。

でも、これもご主人に会うためだ!




僕は意を決して扉を開けた。フードのせいで中はちょっと見づらい。
するとそこにはゲームで見たことのあるおじいさんが座っていて、パイプをふかしていた。

「今夜の依頼はもう締め切ってんぞ」
「あ、あの、僕旅に出たいんです」

僕は必死でここ数日で覚えた敬語で言った。
するとおじいさんが目を細めた。

「未登録か。じゃあ登録しないとろくに酒場にも行けないから、それだけやってやるよ。手を出しな」

僕が素直に手を出すと、左手の上にポンとおじいさんが大きなスタンプを押してくれた。白色の麦でできた輪みたいだった。

「初心者ーーEランクが白、Dが橙、Cが緑、Bが紫、Aが金、Sが黒だ。Cで中堅クラス、Bが上級、Aは滅多にいない。Sはこのスノーブランシェ大陸には五人しかいない。手袋は持ってきたか?」
「手袋?」
「……普通は自分のランクを隠すんだよ。仕方が無いな、サービスで一つやる。左手に手袋をしていたら、まず間違いなく冒険者だ。Aクラスになるとわざと見せてる奴もいるけどな。ちょっとマークに触ってみな」

するとおじいさんが僕の左手に手袋をはめてくれた。指が出てるけど、これはご主人が持っていた手袋とちょっと違うみたいだ。
僕はその通りにした。
途端に透明な板が現れて、そこには巨大なお星様が書いてあった。


名前:アサヒ
種族:猫(人間)
年齢:不詳
使用魔獣:猫
冒険者ランク:白(E)
所持金:0G


「種族が猫で、年齢不詳だと? 失敗したのかもしれん……スタンプは押し直せないからお詫びに金をやるから諦めてくれ」
「?」

僕は猫だし、自分でも正確な年齢(人間換算)は分からないから、別に問題ない気がする。だけどお金ってなんだろう? まぁ、ウィズがいつもお財布から出していたやつかな。僕が死ぬ前も、よくご主人が、ぅああああああWebマネー尽きた、って言っていたからそれかもしれない。

その時僕の所持金が、三十万Gになった。

「安心しろ、このプロフィールラベルはギルドマスターしか閲覧不可だから、何とか猫でもやっていける……」

そっか、僕でもこれで旅に出られるんだ!
嬉しくなって何度も何度も頷いた。

「ま、健闘を祈る。それにしてもこの時間にくるなんて家出か? それならさっさと、隣の“暁の都市”にでも、行くんだな。これが地図だ。まぁまっすぐ川沿いに進めば、3日もあればつく」

手渡された紙をじっと見て、僕は考えた。地図って初めて見た。
……よく分からない。
だけど川に沿って歩けばいいんだってことは分かった。

「有難うございます!」

こうして僕は早速旅に出ることにしたのだった。