7:吾輩は依頼を受ける!


目が覚めると僕は、寝台に横になっていた。
「!」
そして、すぐ隣の椅子にアクアが座っているのを見てびっくりした。
僕がひっそりと寝台から立ち上がろうとした瞬間、途端に鋭い目つきになったアクアに気がつくと押し倒されていた。
「君何者だよ? 俺に気づかれないように起きるなんて……暗殺者か?」
「?」
そして真横にグサリと先端が丸い杖を突き刺された。本当に杖なのかなーー柄の下の部分が、短剣になってるけど。
だけど暗殺者ってなんだろう?
「酔ったのも全部フリで、色仕掛けでもする気だったのか? 俺は君を親切から部屋に運んだし、手を出さないで横に寝たんだぞ。その報いがこれか」
その時、アクアの頭にシルクハット(?)が現れた。
ご主人がいつも欲しがっていたアイテムだ。
僕が手を伸ばそうとすると、片手で首を締められた。息苦しくて声が出ない。
なんだか目が潤んだら、ハッとしたようにアクアが手を離してくれた。
「わ、悪い……つい、その……疑心暗鬼というか……いや、そうだ、寝ぼけていたんだよ!」
そう言って、杖を布団から引き抜き、アクアが僕の体から離れた。
「……朝食でも行くか?」
「うん。お顔を洗ってから」
僕は毎朝顔を洗わなきゃならないって覚えたんだ。
それから顔を洗って戻ると(手袋をしているから不便だった)、アクアがイライラするように片足で貧乏ゆすりをしていた。何か怒らせちゃったのかな……?

とりあえずそんなこんなで、僕らは一階の、昨日とはちょっと雰囲気が違う酒場に降りた。今日のご飯は、スクランブルエッグとソーセージだった。あとは玉ねぎ入りのスープとパンだ。もぐもぐ食べていると、再びアクアに謝られた。

「ーー朝は悪かったな」
「ううん」
「君はここに何泊するんだ?」
「何泊?」
「別に変な意味で聞いたんじゃないから。決してその間に仲良くなって、ヤろうとか考えてないから!」

何をヤるというのだろう?

「何泊って何?」
「いやだから、いつまでいるのかと思ってな」
「ずっとここにいてもいいの?」
「まぁ金さえ払えばな」

そうだったんだ。僕、宿を見つけたよ。ご主人に褒めてもらいたいな。
頭を撫でて欲しい。だけど僕は今深々とローブのフードをかぶってるんだよね。
アクアがそうしろって言ったんだ。

「昨日着いたのか? 見かけない顔だし」
「うん。三日ーー四日前に冒険者になったんだよ」
「本当に初心者なんだな……そういう個人情報を言うとカモられるから気をつけた方がいい。じゃあなに紋章白のEランク?」

僕はフォークをおいて、手袋を外して見た。すると、白かった麦みたいな丸が、緑色になっていた。

「初心者にしては上がりが早いな。パーティを組んで魔獣退治をしながら来たのか?」
「違うよ」

パーティっていうのはご主人がよく口走っていたから知ってる。
魔獣退治は、あのカエルのことかな?

「まぁ……何にしろ、しばらくこの都に滞在するんなら、ギルドには挨拶しておけよ。君も冒険者なら、これからそこで依頼を引き受けるんだからな。そうすれば、レベルも上がって、スタンプの色も変わる。それに報酬も出るからここに定住もできるだろうし」
「ギルドはどこにあるの?」
「え、いや、普通にどこの街でも大通りにあるだろ」
「大通り?」
「本当に初心者なんだな……普通冒険者になる気なら、下調べくらいするだろ」

そういえば、ご主人様も良くwikiって奴を見ていたなぁ。
この世界にもwikiってあるのかな?
後はGoogleとかBlogとかっていう奴も見ていたよね。

「連れて行ってやろうか?」
「お願いします」

誰かにものを頼む時は敬語だって習ったんだ。
ウィズ、有難う! と今更ながらに思った。

「ここに泊まる気なら、杖と水と金だけ持って、降りてきな。今日の宿泊手続きはやっておくから」
「わかった!」

二十二歳って言ってたウィズと同じくらいの歳に見えるアクアは、やっぱりご主人とも同じくらいの歳だと思う。ご主人は大学生だったんだよね。元々は冒険者じゃないんだ。

その後僕は、邪魔だけど杖を背中にくくりつけて、水を持って一階へと引き返した。すると玄関のところで、やっぱりアクアは貧乏揺すりをしていた。なんだか怖い。しかし僕を見るとそれが止まって、笑顔になった。

「じゃ、行くか」

こうして僕は、暁の都市のギルドまで連れて行ってもらった。
最初の街のギルドよりもずっと大きい。人間もたくさんいた。
石畳は白くて、様々な家屋は、木製だった。所々にある大きな建物だけ、大理石でできているみたい。ギルドもそうだった。

「アクアか……昨日、別嬪連れて帰ったんだってなァ……」

受付にいたのは気だるそうな瞳をした、金髪の青年だった。アクアと僕の中間くらいの歳に見える。

「部屋まで送っただけだ。もうそんな噂になってるのか」
「あんたは身持ちが固いから特別だろうけどな」
「それより依頼書を見せてくれ」
「この街にSランクの依頼書なんてもうねェよ」
「いや、EかD……やっぱりCで頼む」

アクアの言葉に受付の青年が僕を見た。切れ長の眼差しをしている。

「アクアが初心者の手伝いだなんて珍しいなァ。もしかして例の?」
「うるさい。君いつもはそんなこと聞かないだろ」
「はいはい。じゃ、魔狼の捕縛はどうだ? 欲しがってる中堅多いから、この捕縛玉にいれて持ってきてくれよォ」
「ああ。俺には不要だしな」
「そりゃそうだろ。大陸に五人しかいないんだからなァ」
「余計なことを言うな」
「で、後ろの初心者は、どんな魔獣使いで名前は?」

その時僕へと視線が向いた。目が合うと、僕猫だから硬直しちゃうんだよね。

「猫です。名前はアサヒ」

あれ、だけど最初にあったおじいさん、ギルドマスターなら閲覧できるって言ってなかったっけ? だとするとこの人は、ギルドマスターじゃないのかな。

「魔猫……Cいけるのか?」
「暫く暁の森にこもるから、何とかする」
「まァ……頑張れ」

こうして僕は、初めて依頼を受けることになったんだ。