9:吾輩は装備を揃える!
ーー翌日。
僕が顔を洗って下に降りると、朝食の席(2人がけ)で、またアクアが貧乏ゆすりをしていた。イライラしてるんじゃなくて、クセなのかな?
僕が席を探して周囲を見回すと、アクアが満面の笑みになって手招きをした。
あれは座っていいってことだよね。ご主人も僕によくあれをした。
近づいてみると、アクアは朝食定食を食べていた。
僕も鮭が食べたかったので、それを頼む。
「おはよう。昨日はお疲れ様」
「うん。有難う」
お礼を言ってから、ご主人の真似をして、いただきますと手を揃えた。
するとアクアが不思議そうに僕を見る。
「それは国の挨拶か?」
「そうだよ。食べる前に言うんだ」
猫は言わないんだけどね。そこは気分の問題なんだ。
何せ僕はご主人に一歩でも早く追いつかなきゃならないし。
「今日はどうするんだ?」
「昨日のところに行って、Bランクを目指すよ」
「……そうか。気をつけろよ。あの森の再奥には、風竜がいるからな。Aランクでも、一人じゃ倒せない脅威だ」
「わかった!」
「それと……Bランクを目指すなら、装備も整えた方がいい」
「装備?」
「今は癒しの杖くらいしかまともなものを持っていないだろう、君は」
癒しの杖が装備ということは、服とか靴とか水袋とかも邪魔だし、装備なのかな?
だけど装備を変えると、何が変わるんだろう?
「そのーー良かったら、俺が持ってる余りをやるし、露店や武器屋回りも付き合うけど」
なんだかアクアが赤くなった。ウィズも良くこんな顔をしていたから、この世界の人間には赤くなる習性があるのかもしれない。だけど僕一人じゃわからないから、とっても助かる。
このようにして朝食後、僕らは、アクアが荷物を預けているというギルドへと向かった。
「まずはローブだな。これからも雷を使うのか?」
「分からないんだ。勝手にバチバチいうから」
「じゃあとりあえず、闇魔導師のローブをやる。あとは手袋も、冒険者だとばれないように両手があるといいな。これは黄金の手袋だ」
「? 顔を洗う時はどうするの?」
「……外せ!」
「なるほど!」
そうすれば良かったのか。てっきり外しちゃダメだと思ってたんだ。
「次、下衣は聖職者のボトムス、靴は火炎のブーツ、後はーーフード付きマントは雷竜のマント。インナーは水流のハイネックーーま、こんなところか」
上からしたまで着替えさせられた僕は、一人で着られるか不安になった。
名前は違うのに、全部黒色で、金縁だし。
それから装飾品を買うことになって、僕らは受付の前を通過しようとした。
するとそこにはフェニルがいた。
「すごい装備だなァ、おい」
「そうなの?」
「余計なことを言うなフェニル」
「レベルはともかく初心者に甘くしてるところなんて始めて見た」
よくわからなかったがアクアに手を繋がれて、僕はそのまま外へと出た。
まだ朝が早いせいか、ひと気がない。
「ここでピアスと指輪と首飾りと足首飾りと腕輪を買うから」
「うん」
「金の心配はするな……直感で気に入ったものを選ぶといいから。それが一番効果を発揮するんだ」
そういうものなんだと考えながら、僕らは装飾具専門店に入った。
僕は元々が猫だからなのか、カンはいい気がする。
そこで僕はーー……ご主人が、全部金にも銀にも見えるアクセサリーをつけていたことを思い出して、全部その色のものにしたんだ。アクアはまだ色々と見ているみたいだったから、僕はレジにそれを預け、ちょっと外の空気を吸いに出た。お店の中が埃っぽかったから。それから適当に歩いていたら、建物と建物の間の細い路地を見つけたんだ。僕は狭いところが好きなんだよね。
「ほぅ、異世界から来た……猫か」
「っ」
そこには、僕と同じくローブを深々とかぶったオジサンがいた。
僕よりは深くないから、顔は見える。
始めて僕のことを猫だってわかってくれた!
「珍しい客人だからーーこれをやろう」
すると、オジサンは、僕に一つのカバンをくれた。
横にかける白いカバンだ。
「これは無限鞄。なんでも、どんな大きさでも、好きなだけ入る上に、好きな時に取り出すことができる。中には筒型脇水という、飲んでも飲んでも水が無くならない水筒と……あー、缶詰を入れておいた。人間用だけどな。スプーンつき。あとは毛布でも入れて旅に出るといい。そうそう、火打の魔石もいれて置いたから、好きな時に火が起こせるぞ」
すごく便利そうだなと思っていたんだけど、よくわからない。
その時だった。
「おい、アサヒ! どこだ??」
叫ぶようなアクアの声が聞こえてきた。
振り返ってから視線を戻すと、もうオジサンはそこにはいなかった。
その後僕は、アクアに買ってもらったアクセサリーを身につけたのだった。
ちょっと面倒くさかった。