12:吾輩は風竜を倒す!



アクアはお部屋に鍵をかけて行ってしまった。
ここで待っていて欲しいと言われたのだけれど、僕はお腹が減ってきた。
部屋から外にでなければご飯は食べられない。
僕は外に出なきゃ餓死しちゃうと思ったので、何度か扉を叩いて見た。
最初は弱く叩いていたんだけど、全然開かないから、次に全力で何度も叩いた。
「誰か開けて!」
しかし反応はない。どうしよう。僕はすごく迷ったけど、気づけばつぶやいていた。

「我が爪に宿れーーチェシャキャット!!」

我に返った時には、木製の扉は幾つもの板になってしまっていた。
ものを壊すと、よくご主人が怖い顔をしていたから、僕は真っ青になった。悪いことをしてしまった。どうしよう。宿のワスにも迷惑をかけることになっちゃう。
ーーそうだ、癒しの杖!
これは、人間の体が怪我をした時は、念じれば直してもくれるって覚えた。
きっと扉も直してくれるよね。
僕は急いで杖を取りに戻り、部屋から出て扉の前で小さく言った。

「我が杖に宿れーー癒しの尻尾!」

すると扉が元の通りに戻った。本当に良かった。僕は思わず安堵して吐息した。
それから、僕はちょっと考えた。
ここの食堂の朝ごはんは美味しいけど、ここで食べたらお部屋から出たってばれてしまう。ギルドまで我慢して行って、そこで食べてから、ご主人に追いつけるようにランクをあげよう! 早くBランクになりたいし。


ギルドに行くと、何時もの通りフェニルが最高級幕の内をくれた。
同時に驚かれた。

「アクアが鍵かけてきたって言ってたけど、よく部屋を出られたな。宿屋の従業員にも開けるなって厳命して行ったらしいのにァ。ギルド中の噂になってる」
「僕、頑張ったんだ! あの……それでお願いがあるんだ」
「ああ、よく頑張ってると思うぞ、さっさとアクアからは逃げた方がいいだろうなァーーって、お願い?」
「このお弁当、もう一つ欲しいんだ」
「いいけど、今日は誰と依頼に行くんだ?」
「一人だけど、ご飯が食べられなくて」
「ああ……宿屋も秘密で抜け出してきたのか……分かったよ。特別だからな。アサヒだからだぞ?」
「有難う!」
「……な、なんならさ、アクアがいないことだし今日は俺が着いて行こうか?」
「一人で平気だよ。有難う」
「そ、そっか」

なんだかフェニルが寂しそうな顔をした。ご主人がスノブラの中で結婚相手に、実はネカマなのと言われていた時の顔に似ている。振られた時の顔だ。

それから僕は、何時もの森へと向かった。
いつもはあんまり奥に行っちゃダメだってアクアに言われるんだけど、今日は行っちゃおうかな。やっぱり縄張り意識はあんまりないけど、全部見て回りたくなっちゃうんだよね。宿もギルドも街ももう全部見て回った。残っているのはここの奥だけだ。

「あ」

そこにはこれまで見た中で一番巨大なトカゲがいた。しかもトカゲなのに、背中にコウモリみたいな羽がついている。全身が黄緑色で、蛇みたいな鱗が皮膚にはついていた。僕が知らない生き物なのかな?
よし今日はこれを倒そう。
僕がそう決意した瞬間ギョロりと目が広いて、大きな口もまた開いた。
白い牙がたくさんあって、左右の犬歯が一番大きい。不思議な生き物でも犬歯っていうのかな?その口のしたも緑色だった。僕の全身よりも、舌だけでも大きい。
その口が大きく息を吸い始めた。
ひゅうひゅうと音がする。
そして方向すると同時に巨大な竜巻が出現して、僕に襲いかかってこようとした。
これって多分魔法ってやつだと思う。人間じゃなくても魔獣の力が使えるんだ!
僕は竜巻を鉄爪で切り裂き、間合いを詰めた。
そして全力で二度三度ーーーー五度くらい全力で切り裂いた。ちょっとこれまでのトカゲよりも皮膚が硬かったけど、喉のところを何度も引っ掻いたら、雷がバチバチと散って、直後お空からズドンと雷が落ちてきた。
すると、ドシンと音を立てて、そのトカゲは横たわった。
これを持って行ったらご主人は喜んでくれるかな?
だけど大きすぎて僕は運べそうにない。
無限鞄には入るかな?
そんなことを考えていた時僕は気づいた。
周囲の森がなくなっちゃった!
僕を襲ってきた他の竜巻が木々をなぎ倒したみたいで、上から勝手に降ってきたーーいや僕が降らせたのかはわからないけど雷で、森の木々は俺、草木もへにゃへにゃになってしまっている。どうしよう! どどどうしよう! 絶対に怒られる。
僕は反射的に背中にかけていた杖を握った。
宿の扉も木製だったし、木々もーー森も治るかもしれない。

「我が杖の宿れーー癒しの尻尾!」

僕は願うように全力で叫んで森のことを念じた。怖くなってきつく目を伏せる。
すると……良かった! 森が元の通りに戻った。
じわじわとさっきから手の甲が熱いけど、そんなことを気にしている場合じゃない。怒られる前に帰ろう。

それから僕は宿に帰って考えた。
だけど絶対、森が一瞬消えちゃったのを見ていた人は大勢いると思うんだ。
僕は捕まっちゃうかもしれない。
そうしたらご主人に会えなくなっちゃう。そんなの嫌だ!
だから僕は宿に戻って荷物をまとめた。
僕は旅をするっていうことを覚えたから、怒られる前に旅にでよう。
アクアは待ってろって言ってたけど、待ってたら僕は捕まっちゃうんだきっと。
優しくしてくれたのに悪いけど、僕は再びひっそりと宿を出た。
最初の街でもらった地図を眺めながら、次はどこに行こうかなって考える。
そうしていたら、声が聞こえてきた。

「風竜が倒されたらしいぞ!」
「しかも被害ゼロ!」
「もしや誰も顔を知らない、Sランクが来ていたのか?」
「それはない。ギルドに顔を出してない」

だがそれらはあんまりよく僕は理解できなかったので、ただ必死に次の場所へと旅立つことにしたのだった!