16:吾輩は宿をとる!
まず僕とアスカはギルドへと行くことになった。
見守っていた村の人々が、そこに行くように僕たちを先導してくれたからだ。
みんな、何かざわざわボソボソ言っていたけど、よく聞こえなかったし、聞こえても意味がわからなかった。アスカは相変わらず黙ったままだ。僕嫌われちゃったのかな。確かに僕も猫だったから前足とか掴まれると嫌だった。手をつないで走っちゃったのが悪かったのかな。
「ギルマスのクェイクだ。よろしくな」
入るとすぐに、ご主人が前に止まっていたホテルみたいに豪華なお部屋に通された。アスカと一緒にフカフカのソファに座る。
「この短期間に……その上、こんな僻地でSランクの初確認ができるとは……」
「え? 僕、Sランクになれたんですか??」
「ああ。カードの履歴から、風竜・水竜の討伐も確認した。普通は名称魔竜を一人で一匹倒せるようになればSランクだよ。誰が何と言おうともな」
「やったあ! これでご主人に会いに行ける!」
「主人? 誰かに仕えているのか?」
「僕のご主人はジェフだよ! ジェフより強くなりたいんだ!」
「それは流石に……大陸一の称号は、竜の住処を討伐するくらいじゃないとなぁ」
「竜の住処……?」
「ここから南に進んだ崖にある。まぁ、焦るな、後でゆっくり話そう。今日はこの村でゆっくり休んでくれ。上の客室を二人分用意しておいたし、お祝いにギルドの酒場を解放したからな。思う存分食べてくれ!」
「ありがとうございます!」
確かに、僕はフカフカのお布団の上で丸くなりたい。
眠くて眠くて仕方がないんだ。なんでなのかな? 杖を使ったりすると眠気が来るんだ。それに正直お腹も空いてる。
ご主人に近づくためにも、体力を取り戻した方がいいよね!
それから僕とアスカは別々のお部屋に通された。
荷物をおいて、ベッドに僕は飛び込んだ。
フカフカだから僕のお顔がズボッと音を立てて飲み込まれて行ったんだ。すごく気持ちがいい。アスカとは、三十分したら一緒に酒場に行く約束をしているから、それまで丸くなろう。
だけどーー竜の住処。
きっとご主人はそこでがんばったから大陸最強なんだと思う。
よくスノブラをやりながら、竜の住処のクエストまじ鬼、と言っていたし。
この世界のご主人もがんばっているんだと思う。
やっぱりご主人はご主人なんだ!
僕はやる気がいっぱいになった、うん。気合いを入れ直して、お部屋にあったシャワーを浴びる。久しぶりに浴びたからすごく気持ちよかった。猫だった頃はお水が嫌いだったのになぁ。
アスカと二人で食堂へと向かうと、そこにはたくさんの料理が並んでいて、いっぱい人間がいた。一気にたくさん話しかけられたけど、食べるのに夢中で、僕はあんまり聞いていなかった。
ただあのトカゲっぽい生き物が、水竜とか風竜とかだったんだなっていうのは分かった。ああいうのは、魔竜の中でも強いから、名称魔竜って呼ばれて、それぞれに水とか風とか名前がついているんだって。
ご主人は、火竜を倒したんだって。火竜は確認されていた中で一番強かったらしい。さすがご主人! そういえばご主人は、画面の前で、次は魔竜の長、闇竜だって言ってた気がする。それはこれから倒すのかな?
とにかく僕はその日たくさん食べた。
アスカはなんだか緊張しているようで恐る恐る食べていて、ずっと僕から離れなかった。アスカは人間が嫌いみたいだから、それでなのかな?
そして夜は、丸くなって僕は眠ったんだ。
丸くなる以外にもダラーっと体を伸ばして横になって伸びをしたりして見た。
ご主人が寝ている布団の上で、よくこういうことをしたなぁ。
寒い日の夜は、ご主人の布団の中に入って腕枕をして眠ったんだよね。
ご主人は寝相だけは良かったから、朝までスポット腕と肩の間にズボッと顔を預けて眠ったりしたんだ。そんなことを考えていたらひとりぼっちの布団が寂しくなってきちゃったよ……。ご主人は僕がいなくても平気なのかな……。
次の日。
僕はアスカと一緒に朝ごはんを食べることにした。
するとなぜなのかアスカが泣きはじめた。ポロポロと滴が頬を伝って行く。
「どうしたの? どこか痛いの?」
慌てて僕が言うと、アスカが腕で涙を拭った。
「こんな……こんなッ、普通の一日、初めてなんだ、よっ」
「え?」
「有難うな……っ……っっっ」
僕にお礼を言いながらもアスカは泣いている。僕本当は何かひどいことをしちゃったのかな?
僕はどうしていいのかわからなかったから、朝ごはんを食べることに集中した。
アスカも泣きながらもちゃんとご飯を食べている。
それから食べ終わる頃には、ようやくアスカが泣き止んだ。
だから僕は聞くことにした。
「僕はこれから、竜の住処に行くよ。アスカは猫獣人の国に行くんだよね?」
「……ああ。その、昨日一晩考えたんだけど」
「?」
「着いて行っちゃダメか? 俺、アサヒともっと一緒にいたい」
小さな声でボソッとアスカが言った。だけどしっかり聞こえていたので僕は飛び上がって喜んだ。天井に頭をぶつけていたかった。
「良いの?? 一緒に行ってくれるの?? 僕も二人で旅をする方が好きになったから、すごく嬉しい!」
「……よかった。そっか、そう思ってもらえて。断られると思ってた」
「どうして? 竜の住処に行ったあと、僕はご主人のところに行くけど、その前にアスカの行きたいところにも行こう!」
「ーーおう!」
こうして僕には、旅の仲間ができたのだった!