17:吾輩は竜の住処へ行く!



よくした村の人々に別れを告げて、僕は明日かと一緒に右手の崖を目指すことにしたんだ。竜の住処がある場所だ。
食べ物も沢山もらったから、無限鞄に入れて出発した。テントっていうものももらったんだ。これで野宿が凄く楽になるんだって。

「どうなってんだよその鞄……」

アスカが驚いていた。そういえばアクアも驚いていたっけ。
僕はあのおじさんに感謝しないといけないよね!
それから一週間ほどかけて、僕たちは竜の住処に向かった。
ちょっと遠かったけど、これもご主人に会うためだと思ったら全然苦にならなかったし、今までと違って一人じゃないからなのか、なんだか楽しかった。
だけどアスカの尻尾がピコピコ動くたびに遊びたくなっちゃって困った。
僕がつい手を伸ばすと、アスカがいうんだ。

「犯すぞ」

って。ご主人もそんなことを言っていたっけ。
僕は今年中発情期みたいだから、そういうのは困る。だから頑張っておとなしくしていたんだよ。ちょっと鼻が高い。
今度の旅では、毛布はそれぞれがかけて眠った。それでも隣に誰かがいるっていうのは、ご主人のことを思い出すから幸せなんだ。あったかい気がするんだ、体も胸も。心っていうのは多分お胸にあるんだと思う。


それから一週間と2日で、僕らは竜の住処を発見した。
多分あれだと思うんだ。
崖のすぐそばに木々に囲まれた場所があって、そこには隕石が落ちた後みたいな凹んだ地面があった。その中にうじゃうじゃとたくさんのトカゲっぽいものがいたんだ。全部名称魔竜みたいで、様々な色彩の羽がついた大きなトカゲがいた。

「どういう計画で倒すんだよ?」
「計画?」

アスカの言葉に振り返った時には、僕はもうずうずして爪を出していた。
あれだけたくさん持って行ったらきっとご主人も褒めてくれると思うんだ。
それに今は、思いっきり遊びたい!

「難しいお話は後にして! 僕ちょっと行ってくる!」
「え、おい!」

アスカが何か言いたそうにしていたけど、僕はトカゲの群れに突っ込んだ。

切る。切る切る。切り裂く。

その度に体液が待った。
だけど気にせずに喉を重点的に切り裂いていく。
その感触がするたびに、雷がバチバチと辺りに散って、空からは何度も何度も稲妻が落ちてきた。遊んでくれるトカゲは本当にたくさんいる。切っても切っても全然いなくならなくて、楽しかった。

朝に住処に来たんだけど、お月様が登って、また次のお日様が上がる頃までいなくならなかった。

最後のトカゲが倒れたのは、二回目のお昼が来た時だった。

僕は楽しすぎてご飯を食べるのを忘れていた。
それに眠るのも忘れちゃってた。
おトイレにも行かなかった。

僕がトカゲの体液でベトベトになりながら戻ると、アスカが真っ青な顔をしていた。どうかしたのかな?
だけど僕はもう眠くて眠くてそれどころじゃなかった。

「ごめんね、僕ちょっと眠るよ」

そう言って僕は毛布をかぶって丸くなったんだ。
それからぐっすり僕は眠った。
次に起きた時は、いい匂いがした時のことだった。
上半身を起こすと、僕の肩や胸、腕、足にはくるくると白い包帯が巻いてあった。僕、怪我をしていたのかな? 楽しすぎて全然わからなかったけど、それを見た瞬間に全身がズキズキ痛むことに気がついた。

「起きたのか?」
「うん。お腹減った」
「だーもう! お前3日も意識不明だったんだぞ!」
「え?」
「ひどい熱だったし、動かせそうにもなかったんだからな。死んじゃうのかと思って……」

アスカが泣きはじめた。涙もろいのかな?
そういえばこれから何かの計画のお話をしなきゃならないんだったっけ。
だけど、ものすごく僕はお腹が減っているんだ。
……でも熱があるんなら、ご主人に動物病院に連れて行ってもらわなくちゃ……ご主人、連れて行ってくれるよね……?

「目が覚めてよかった!」

アスカがそう言って僕に抱きついてきた。全身が痛かったけど、なんだか心配させちゃった気がする。ご主人も僕が熱を出すといつもぎゅっと抱っこしてくれたんだ。そういう時はご主人の体がひんやりして気持ちよかったんだ。

「スープ作っておいたんだけど、食べられるか?」
「うん、ありがとう!」

それから僕たちは一緒にスープを食べることにした。
コンソメスープだった。玉ねぎが入っていて、一口飲んだだけで、お腹がいっぱいになるくらいホッとしたんだ。

「胃が驚くと悪いからあんまり急に食べんなよ!」
「うん。そういえば、計画ってなんだったの?」
「ーー竜の住処攻略の計画だ。いらなかったけどな、まさかあんな無茶するなんて……もうやめろよ、あんな戦い方。身体見たら、傷だらけだったぞ。これまでも治療をろくにしてこなかったんだろ。綺麗な体なのに……っ、いや、その、変なことは何にもしてないからな!」

アスカが真っ赤になった。変なことって何かな?
だけど怪我かぁ……全然気がつかなかった。僕は猫だったからちょっと擦りむいたくらいじゃ気にならなかったんだ。だけど多分、ちょっとじゃなかったんだと思う。人間になったから、怪我っていう感覚がよくわからなかったのかな?

「この後どうする?」
「一旦村に戻るか? まっすぐ行くと四・五日で猫獣人の国に着くからーーその嫌じゃなければ、治療設備考えても、獣人連邦の方が……これまでにできた傷も綺麗に直せるから」

獣人の国ってことは、そこには動物病院があるのかな?
僕は人間になったし、今なら一人でも動物病院に行けるんだ!
ちょっと病院は怖いから苦手だけど。

「僕、そこに行きたい!」
「お、おう!」

なんだかアスカが嬉しそうな顔をした。どうしてだろう?

「人間の旅人は大抵捕縛に来るんだ。そうじゃない人間なんて獣人嫌いばっかりだから寄り付かない。そういうんじゃないアサヒを連れて行くなんて初めてだ! 本当にいいんだな?」
「うん!」

僕にはちょっと難しくてわからないお話だったけど、そこはアスカが行きたがっていた場所でもあるし、僕も見てみたいんだ。

こうして僕らの次の行き先は決まったーーんだけど、僕はなんだか足が痛くて立てなかったから、二日間、歩けるようになるまでは、やっぱり森で過ごしたんだ。
アスカが作ってくれたスープの中では、キノコのスープが一番美味しかった。

それから僕は立てるようになって熱も下がったから、アスカと一緒に猫獣人の国に向かったんだ。