18:吾輩は猫獣人の国へ行く!
猫獣人の国に入ると、方々から僕は睨まれて、威嚇されている気持ちになった。
僕は縄張りを奪うつもりはないんだけど、やっぱりそう思われているのかな?
ちょっと怖いよ……。
逆にアスカは、国に入った途端意気揚々としはじめた。
すごく楽しそうだ。
明日かはまっすぐ、国の真ん中にある一番豪華な丸いお城へと進んで行く。
あそこには動物病院があるのかな?
「殿下、ご無事だったんですか! 良かった!」
中に入るとたくさんの猫獣人がアスカを取り囲んだ。
だから僕はちょっと離れてそれを眺めていた。
殿下ということは、アスカは王子様だったのかな? 王子様はキラキラしていると僕は思っていたんだけど、アスカは光ってないのに。
「そちらは?」
その時誰かの言葉で、みんなの視線が僕に向いた。
僕は怖かったので、フードを深く深く被り直した。
「俺を助けてくれた人間だ。最高の礼をしなきゃならないだろう。敬ってくれ」
本当は僕、猫なんだけど……いいのかな。人間の体だし。
「ひどい怪我をしているから、治療師をすぐに呼んでくれ」
僕はそれから違うお部屋に連れて行かれて、今までとは高級感が違うフカフカさのベッドに横になるように言われた。すると白衣を来た猫獣人がやってきて、僕の包帯を取り始めた。多分動物病院のお医者さんみたいな人なんだと思う。ルルリス先生っていうお爺ちゃん先生だった。一番腕が確かなんだって。
「一人で魔竜の相手をするなど、気が触れておるのか?」
「そんなことないよ! 僕はご主人に会いたくて」
「……本当に奴隷だったのじゃない」
「僕は奴隷じゃないと思う。ご主人は優しいよ」
最近僕は、奴隷という言葉は悪い意味を持っているんじゃないかと思うようになったんだ。だからそう言ってみた。するとルルリス先生はポツリと「そうか」とだけ、何の感情もこもっていない声で言った。僕には何を考えているのかわからなかった。
それから僕はまた包帯でぐるぐる巻にされて、お注射をされた後、点滴をされた。
針が刺さるのが怖くて、そしてやっぱり痛かった。
ちょっとだけ涙がでちゃったよ。
そのまま横になっているように言われて、僕はまた一人にされた。
だからすごくフカフカしているお布団をかけて眠ることにしたんだ。
次に目を覚ました時は、また三日後だったみたいだ。
僕が上半身を起こしていると、やってきたアスカが目を見開いてまた泣き出したんだ。僕の怪我、そんなにひどかったのかな?
「もう痛くないし、僕は元気だよ!」
そう言ったら、抱きつかれた。今度は本当に痛くなかった。
「アサヒ……よかったらずっとこの国でくらさねぇか?」
「暮らさないよ! 僕はご主人に会いに行くんだよ」
するとアスカに唇で、唇に触れられた。
あ、これってキスだ!
「俺はアサヒのことが好きだ!」
「僕もアスカのことは好きだけど、一番目に好きなのはご主人なんだよ。だから僕は会いに行くんだ!」
「……そうか」
僕がそう言うとアスカが寂しそうな顔をした。
なんだか悪いことをしちゃった気がしたけど、仕方が無いよね。
だってどうしても僕はご主人に会いたいんだ!
僕はすぐにでもご主人のところに行きたかったんだけど、それから二週間くらいは、まだ怪我が完治していないからっていう理由で、泊まっていくように言われたんだ。その間、毎日アスカは会いに来てくれた。
そして怪我がちゃんと治ると、アスカが一週間くらい歩いたところにあるっていう次の街のことを教えてくれた。また人間の街だ。
アスカは国境まで送ってくれて、沢山の食べ物とお土産をくれた。
「絶対にまた会いに来てくれよ」
「うん。約束する」
「それまで元気でーー……怪我すんなよ!」
こうして僕はまた一人で旅をすることになったんだ。
正直ちょっと寂しかったけど、いい思い出って奴ができたと思うんだ。
僕は、アスカと友達になれた気がする。
帰る頃には猫獣人のみんなも優しくなった。いい国だったなぁ。
今僕は、春のお花がたくさん咲いている森の中を歩いている。
夜になったら野宿して、何回もお月様を見た。
一人になったけど、いつでもお月様は僕と一緒にいてくれるって気がついたんだ。昼間はお日様だ。お花も。
こうして順調に旅をして、僕は人間の国に入った。
また宿を探してギルドに行かなくちゃ。
なんだかそうするのがすごく久しぶりな気がした。
まずはギルドに行くと、大騒ぎになった。
「竜殺しが生きていたなんて!」
「これでランキングが変わったな!」
「ああ、ジェフを抜いて一位だ!」
その言葉に僕は目を見開いた。
ーー僕、ご主人様より強くなった……?
やったぁ!
これでちゃんと会いに行ける!
一緒にいられる!
嬉しすぎて、僕は思わず泣きそうになってしまった。
ご主人様に、早く会いたいよ……!