20:吾輩の好きな相手?




僕は思わず、ご主人に抱きついた。
やっぱりご主人の体温が一番気持ちいい。僕はご主人にギュッとして欲しい。
そしてーーご主人は、ギュッとはしてくれなかった。僕は悲しかったけど、会えてすごく嬉しいから、やっぱり幸せだった。ご主人は僕の双肩に両手を置くと、僕を引き離した。僕に抱きつかれるのは嫌なのかな……?

「ーー強くなったな……」
「はい! どうしても会いたくて!」
「……まさか本気でそう思ってるわけじゃないよな?」

僕はすごく本気なのに、どうしてご主人はこんなことを言うんだろう?
首を傾げると、ご主人が屈んで僕をじっと見た。正面から視線が合う。
澄んでいるご主人のおめめが僕はすごく好きだ。
ご主人も僕の目が綺麗だ綺麗だって言ってくれたのに、人間になってからは一度も言ってもらっていないんだ。

「方々からお前の噂が入ってきた。その度に、まさか俺のためにじゃないだろうなと思って……その、ずっと心配してた。心配させんなよ」

そう言うとご主人が、ひたいで僕のひたいをコツンとした。
ご主人は怒っちゃったのかな?
だけど僕はーー

「どうしても一緒にいたいんです!」

気がつくと周囲の戦いが止んでいて、みんなが僕たちのことを見ていた。

「お前、本当に……俺のことが好きなのか?」
「大好きです!」
「それは、その……愛してるってことか?」

僕はその言葉に首を傾げた。
愛って一体なんだろう?

「愛してるっていうのは何ですか?」
「……だから、ドキドキしたり、胸が騒いだり……正直理由なんてわかんねぇけどさ、俺はお前のことが気になってる……と思う」

ご主人が真っ赤になりながら言った。熱が出ちゃったのかな?
ご主人のことも、猫獣人の国に連れて行った方がいいのかな?
だけど。
ドキドキ?
胸が騒ぐ?
ーーそれって楽しいことだよね?

「僕が愛してるのは、トカゲーーえっと魔竜です!」
「え」

するとご主人様がぽかんと口を開けた。

「「「「え??」」」」

そして周囲で見守っていた四人も声を上げた。
僕何か変なことを言っちゃったのかな?
だってドキドキして胸が騒ぐのは、トカゲと遊んでいる時だし……?
僕、ご主人には嘘をつきたくないよ!

「いや、そう言うんじゃなくて……え?」

ご主人が、トイレットペーパーが切れた時の顔をした。この顔は、すごく動揺している時のお顔だ。どうしよう、ご主人を困らせちゃった。

「じゃあお前の好きってなんだよ?」
「?」
「ーー俺がそのご主人様とやらに、似ているからか?」
「ご主人はご主人だよ!」
「……」

するとご主人が唇を噛んだ。クエストで失敗した時のお顔になった。
どうしてだろう?

「まぁいいや。俺のことを、好きにさせてみせるから」

ご主人がそう言うと、アクアとウィズが歩み寄ってきて、それぞれ僕の腕を握った。

「いや、そういうことなら、アサヒはやっぱり俺のものだ」
「違う俺のーーそ、その、騎士団の重要な戦力だ!」

すると王子様が、ご主人様をどかせて、俺の正面に立ってひたいにチュッとキスをした。
……?
僕は何が起こっているのかよくわからない。
ご主人はといえば、大規模討伐の時の計画を練っている時みたいな、じっくりと考えている顔になった。
オジサンは、なんだかローブの奥で吹き出している。僕は何か笑われるようなことをしちゃったのかな?

「アサヒ、俺のことが好きならこっちに来いよ」
「はい! ご主人!」

僕はその声に走って、また抱きついた。すると今度はギュッとしてもらえた。
そして顎を持ち上げられた。
ご主人の唇が降ってきて、僕の唇に優しくキスをした後、一旦話してから今度は貪られた。

「っ」

舌を絡め取られて、歯の裏側をなぞられて、そのうちに僕は体が熱くなってきた気がした。また、発情期が来ちゃったのかな。それにすごく息苦しい。だけど嫌じゃなかった。ご主人が僕のことを抱っこしてくれているからだ。

「んッ」
「ーー絶対に逃がさねぇからな」

ご主人は顔を話すとそう言ってにやりと笑った。
僕にはあんまりよく意味がわからなかったんだ。
だけど、これってずっと一緒にいてもらえるってことなのかな?
ご主人は、僕を、ネズミのおもちゃで遊んでくれる時の顔になったのだった。