21:吾輩は争奪される!



僕はその日の夜は、自分で宿をとった。
そして翌日。
朝が来ると、一番にウィズが顔を出した。

「アサヒ、お、俺と付き合ーー……その、お刺身を食べに行かないか?」
「行く!」

やったぁ、久しぶりにお刺身が食べられる!
それから久しぶりに街を歩いた。なんでなのか、最初にいた街だからなのか、歩いているだけで懐かしくなってきたんだ。ウィズが何故なのか緊張したみたいに、僕と手をつないだ。指と指の間に、ウィズの指が入っている。恋人つなぎだってウィズは言ってた。僕とウィズは恋人じゃないけど、いいのかな?
今日はトロサーモンを食べさせてもらった。
僕も今ではお金を持っているし使い方も覚えたんだけど、ウィズが自然と払ってくれた。あんまりにも自然すぎたから見ていたんだけど、良かったのかな?
そうしてしばらく歩いてから、ウィズは僕を宿まで送ってくれた。
僕がベッドに座ると、ウィズが僕を覗き込んできた。

「アサヒ……俺は、その……今日こそ、次に会えたらこそ、後悔しないように絶対に言おうと思ってたんだ。アサヒのことを、愛してる」
「僕にドキドキしてるの?」
「っ」

僕の言葉にウィズが真っ赤になった。もしかして、ウィズは僕と遊ぶのが待ち遠しくて、興奮しちゃったのかな? 僕も遊ぶのは楽しみだ。

「ああ……だからその、キスをしてもいいか?」
「? キスは、本当は恋人同士がするんだよね? だからダメだよ!」
「俺の、恋人になってくれないか?」
「ええっ?」

そういうとウィズに正面から抱きしめられた。僕は驚いて何度も瞬きをした。
恋人になる?
って、どういうことなんだろう?
猫も仲のいい猫はいるけど、あんまり恋人っていう概念はないんだ。

「少しずつ好きになってくれたら、そ、それで、いいから」
「僕はウィズのことが好きだけどーー恋人っていうのがよくわからないよ?」
「わかるまで、待つから」

耳元で囁かれたら、なんだか擽ったくて、ちょっとだけ体がゾクリとした。
やっぱり僕は発情期みたいだ。
どうしたらいいんだろう?

「もう少しだけ触ってもーー」

ウィズが僕の髪を撫でながらそう言った時だった。
ドカンと音がして、僕のお部屋の扉が粉々になった。
そこに立っていたのはアクアだった。

「今すぐその手を離せ。アサヒが嫌がってるだろう」
「お前なんでここにーーッ、ストーカーしてたな!」
「何とでも言え! 純粋なアサヒになんてことを??」

アクアが怒りながら入ってきて、僕の腕をとった。

「朝日、ここは危険だから俺の宿に行こう」
「お前の宿が一番危険だろう?? と言うか、お前が??」

ウィズの声に、アクアが貧乏ゆすりを始めた。アクアって、危険な人なのかな?

「ウィズーーまた一緒に狩りをしないか? もっともっと強いところに案内するから」
「行きたい!」

それって、もっと遊んでもらえるってことだよね?
僕はドキドキしてきた。やっぱり僕は巨大なトカゲを愛してるに違いない!
するとアクアが僕の片手を手にとって、手の甲にキスをした。
それから丹念に舐め上げた。

「アサヒに何をするんだ!」
「キスもできないヘタレに言われたくない」

アクアが失笑しながら、僕の腰に手を回した。
脇腹に指が触れると、またゾクゾクした。
やっぱり僕、発情期だ……。

それから宿を出た時だった。

「あーその、どこ行くんだよ」
「ご主人!」

そこには面倒臭そうに頭をかいているご主人がいた。

「せっかくだから、お前が入りたがってた、クラン・ミラルダに連れてってやろうと思ったんだけどな」
「僕、そこに行く! アクア、ちょっと待ってて!」
「……」

アクアがご主人を睨みつけながら沈黙した。
だけど僕は、ご主人に抱きつかずにはいられなかったんだ。
それから僕はクランに案内してもらった。

クランの床は木製で、まだお昼だけど、みんなお酒を飲んだり楽しそうにしている。外装は大理石に見えたのに、中に入ると壁にも木が張ってあった。大きな窓がたくさんあって、すごくみんな賑やかだ。

「その子が、アサヒ?」
「ジェフをご主人様だと勘違いしてるんだってな」
「しかもジェフが惚れるとか!」
「ジェフ最近恋煩いしてたもんなぁ」
「顔見せて!」

いろいろな人から一気に言われて、僕はちょっと困った。
ただフードをとってみたら、その場がしんとしちゃった。

「アサヒ、かぶってろ。俺の部屋が二階にあるからそっちに行くぞ」
「うん」

ご主人に促されて、僕は二階へと向かった。
一階の天井が高かったから、三階くらいの高さにお部屋があった。

「まーその。気楽にしてくれ」
「うん!」

僕がベッドに座ると、ご主人がお茶を入れてくれた。
ご主人と二人っきり。
猫だった時はいつもそうだったから、なんだか幸せだった。