5 護衛と俺
最近では軽食も売りさばくようになり、俺の収入は鰻登りだ。
異世界は計り知れなかったが、チートのおかげでチョロい。これでチョロインが現れてくれれば完璧だ。チョロインとはチョロいヒロインの事だ。すぐに惚れてくれ、陥落する。
そして俺の毎朝の日課は、ナイに会いに行くことである。
やはりナイは規格外の美少年だったのだ。ハーレムには一人くらい男の娘がいても良いかもしれない。だけどナイ、女装してくれるかな……。
そんなとき、ギルドから連絡が来た。
なんでも護衛を引き受けてくれる人が見つかったらしい。
「お前が依頼主か。よろしくな。俺はライズ」
「よろしく……」
俺は非常に残念な気持ちになった。そこにたっていたのは俺よりも背が高くて、ごつい男だったからだ。やはり現実は厳しい。女の冒険者は少ないのかもしれない。しかもむかつくことに、ライズは彫りの深いイケメンだった。さすがは異世界、髪の色が深緑色だった。目の色も同じである。これは……好敵手に違いない。さっさと依頼を終わらせて、分かれよう。
「噂は聞いてる、すごい効果が高い霊薬を作るんだってな」
その言葉に、俺は噂になっているのかとハッとした。
噂を聞きつけて、王女様とかやってこないかな。貴族のお嬢様でも良い。やはり高飛車もしくはお淑やかなキャラはハーレムにぜひとも欲しい。
「いくつか、やるよ」
だからその噂とやらをもっと聞かせてくれ。俺は気分良くPOTをライズに差し出して微笑んだ。
「ッ」
すると息をのんだライズが真っ赤になった。
そんなにも俺が作ったPOTをもらえるのが嬉しいのだろうか。
「何なら軽食も。今はカツサンドしか持ってないけどな」
「あ、ああ。有難う……お前、あんまり笑わない方が良いぞ」
「は?」
急になんだ。俺の笑顔が気持ち悪かったとでも言うのか。全く失礼な話である。
そんなこんなで俺たちは採取に向かい、無事に薬草を手に入れた。
その帰り道のことである。
「下がっていろ、エース」
急に、此までに遭遇したものとは桁違いの魔物が現れた。
一言で言えば巨大なイノシシだった。しかし角が九本もついている。大きさも、二階建ての一戸建てくらいはあるだろう。
背負っていた大きい剣を鞘から引き抜き、ライズが構えた。
「俺が囮になるから、まっすぐ街まで戻れ。ギルドにも”デルディア豚”が出たと報告を」
――囮?
それって、倒すわけではないと言うことか?
俺はこのイノシシをアプリで何度も倒した。初心者にはきついが、上級者なら風魔法の初級を一撃放つだけで倒れる。そしてドロップするアイテムがおいしいのだ。ただ確かに、初心者ならば即死だ。そしてここは、初心者の街≪エンプティ≫に属するフィールドだ。
こんな風に言うと、まるでゲームをしているみたいになるのだが、現実的に俺の前には咆吼しているイノシシがいる。開いた口の中では、唾液が線を引いていた。
「”ウィンド・エクリプス”」
俺は杖を構えて魔術の呪文を唱えた。
そして見事一撃でデルディア豚を倒した。倒したというのは、あんまり自覚したくはないのであるが、殺したのだ。これでアプリの中であれば、遺骸は自然と消えて、アイテム欄には自然とアイテムが入る。だが――遺骸は消える気配がない。その上、口からはき出されたようにドロップするはずの”金玉の首飾り”が見て取れる。
おそるおそる歩み寄り、俺はそれを手に取った。これは基本的には剣士の力をupさせるアイテムだったはずだ。
「やるよ」
「こ、こんな貴重な首飾りを俺に……?」
「ああ」
呆然とたっているライズに首飾りを渡してから、俺は両手を組んで伸びをした。
一仕事した後の酸素はおいしい。
「……格好良かったな」
「そうか?」
ポツリと響いたライズの声に、俺は頬を持ち上げた。
そうだろう、格好よかろう! これぞ、まごうことなきチート!!
「惚れ直した」
「――え? 何だって?」
「そんなに強いんなら護衛なんて不要かもしれないが、これからもお前が採取する時はそばにいさせてくれ。これからは、この首飾りに誓って、命を救ってもらった礼をさせてもらう」
「……」
いや、さっさと分かれる予定だし、次は女剣士を希望する。だが、なんと言って断ればいいのだろうか。しかし命を救った礼なんて、大げさだな。しかも惚れ直したといっていたぞ――はっ!! きっと男気あふれる俺の魅力に気がついたのだろう。兄貴!! みたいな。
「気にしなくて良い。また機会があったらよろしくな」
俺は満面の笑みでそう返し、本日の依頼は修了することにしたのだった。