7 家を探す俺
最近つきまとってくるライズがウザい。
俺の男気に惚れたらしいから我慢しているが、出来ればよってくるのは女の子であって欲しいのだ。ごつい男につきまとわれても嬉しいはずがない。だが――ライズに売り子を頼むと、ごっそり女性客が増える。いらつくが事実だ。やはり俺の好敵手だったか……。
それも手伝って、俺はとりあえず一年間は困らないだろう金を手に入れた。
ちなみにこの国と曜日は、日本と一緒だ。年の数え方だけ、『ユリウス歴』だけどな。
それにしてもライズは無償で働いてくれる。
――……給料払った方が良いのかな……。
ただ一度払おうかと聞いたら、「俺がただそばにいたいだけだから」と、丁寧に断られたしな。別に良いよな。
ちなみに朝は毎日ナイに会いに行っている。
多分ナイは満足に食事をとっていない気がするからだ。心配になってしまう、男の娘候補だしな。それを抜きにしても、俺は結構ナイと仲良くなってきた気がする。
最近では、無表情の中に感情を読み取れるようになってきた。
だけどナイって、どこか陰がある感じがするんだよな。
若いんだから楽しんだ方が良いと思うんだけどなぁ。
「今日は、オムライスおにぎりを作ってきたんだ」
「オニギリ?」
「米を炊いて作るんだ」
「……お米を食べるの? 家畜の餌なのに」
「大丈夫だって。美味いから。じゃ、俺も一緒に食べるから」
そうなのだ。この国には米を食べるという文化がなかったのだ。だから、売れ行きもあまりまだ良くないが、物珍しさで何人かかってくれたから、そのうち爆発的な人気を博すだろう。
その日は、二人でおにぎりを食べたのだった。
そういえば、ここのところ俺は、家を借りようと思っている。
やはり今後移動する場合に備えて、賃貸にしようと決定した。何せ俺は旅人を名乗っているしな。それに最近、キッチンの重要性を再認識させられているからだ。
霊薬の方の売り上げも順調だが、今度は依頼は出さずに直接女冒険者に話しかけてお願いしてみようと思っている。
――よし、家を探すか。
その日俺は決意した。
「ここなんてどうですか?」
街の不動産を仕切っているという商人の元に出向くと、羊皮紙を見せられた。
六畳の2DKだった。キッチンは二畳。バスとトイレは別だ。
この世界でも畳って使うんだな。
不動産屋さんは三十代半ばのエルフだった。エルフもぜひともハーレムに欲しい。
だがしかし、カイナと名乗った美青年は、そう、美青年――即ち男なのだ。惜しいな。
「あの、娘さんとかいますか?」
「え? いませんけど。僕は未婚ですし」
「じゃ、じゃあ妹さんとか……」
「エルフ族は長命ですから、滅多に子供は生まれないんです。僕が一番若いんですよ」
「え。ちなみにおいくつですか?」
「今年で七百八歳になります」
……うん。異世界って計り知れない。
俺はとがった耳を見据えてから、俺よりも背が低いカイナをのぞき込んだ。
「あ、あんまり見ないで下さい」
すると照れるように頬を赤くして、カイナが視線をそらした。灰色の髪が揺れ、紫紺の瞳が、俺を見たり、壁を見たりと動いている。チラチラこちらを見ていた。
何故照れる。何故赤くなる。
嗚呼、赤面症の上に、人間不信なのかもしれない。
エルフだもんな、人間に虐げられていた過去があるかもしれない。それに透けるような肌をしているから、赤いのが目立ってしまうのだろう。異種族というのは大変だな。
よくそれなのに不動産屋さんがつとまるな。それにしてもカイナは綺麗だ。少したれ目なのが、柔和な印象を与えている。まつげ長いなぁ。
「悪い。あんまりにも綺麗だからつい」
「ッ」
「や、変な意味はないんだけどな」
「……無いんですか」
何故なのか俺の言葉に、カイナが俯いた。なんだかその姿が不憫に見えて、気づくと俺は彼の頭を撫でていた。
「!」
驚いたようにカイナが目を見開いた。
それもそうか、まずい、なに撫でてるんだよ俺! 普通いきなり撫でられたら気持ち悪いよな。
「あ、あの……」
「つ、つい無意識で――その、本気で綺麗だとは思ってるからな」
「誰かに撫でられるなんて初めてです……」
カイナの瞳が潤んだ。やばい、この造形美では、俺、鼻血を出してしまいそうだ。
ナイに匹敵するくらい綺麗かもしれない。
いや、エルフに匹敵するほど美しいナイが特別なのだろう。
「と、とにかく家にご案内します」
「ああ、頼む」
それから俺は、部屋を借りた。
「良い物件見つけてくれて有難うな」
「……仕事です。そ、それ、その、そうです、それだけです」
必死に探してくれたことが嬉しくて、俺は気づけばまた彼の頭を撫でていた。
「あ……」
結果、泣きそうな顔でカイナが真っ赤になった。
きっと仕事が成功して嬉しいんだろうな。
何故なのかその日以来、カイナは俺の店で昼食を買ってくれるようになった。
俺は余程の乗客だったのだろう。
借りた部屋は70000エリクスだったから、標準的だろうが。
最近俺は気がついた。1エリクスは1円みたいなものだ。気づいたというか、勝手にそう言うことにした。課金だと、1000エリクスが100円だったんだけどな。3000エリクスチケット、というものが売っていたのだ。
ちなみにライズは、カイナの事が嫌いなのか、接客態度がちょっとだけ厳しくなっている。
やっぱりエルフには偏見がつきまとっているのだろうかと、俺はこの世界に来て初めて深々と悩んだのだった。