11 内政チートフラグと指輪と俺
やはり、ナイは良いお嫁さんになるだろう。
ナイと一緒に住むようになってから、俺の家は隅々まで綺麗になった。この少年、清掃業などに適正があるのではないだろうか。だけど仕事が決まって出て行っちゃったらちょっと寂しいな。
ちなみに俺はこの街にいられることになった。
第二王子様のカミヤという、壮絶な美形がやってきて、逆にお礼を言われたのだ。どうも王族も、ラプソティの扱いに困っていたらしい。「当然のことをしたまでです」といったら、彫刻のような美青年が、麗しい笑みを浮かべた。その時周囲から、「あの殿下が笑った!」というささやき声が聞こえてきた。俺は余程良いことをしたのだろう。
以来、「庶民の生活を知る」と言って、殿下も俺の露店に来るようになったのは予想外だったんだけどな。
殿下は今日もやってきた。
「このパスタという食べ物は美味いな。国費で国中に広めたいほどだ。数年に一度は、飢餓に苦しむのだから」
「そう言うことなら、まずはジャガイモの栽培なんてどうですか?」
「ジャガイモ? それはどういった食べ物なんだ?」
あれこれ、俺の内政チートフラグ?
勿論俺はフラグはへし折らない。回収していく。そして奴隷チーレムを築き上げるのだ!
――そう決意しているのに、何故なのか、女の子俺によってこないんだよな。
「良かったら、城へと来ないか? も、勿論、ちゃんと帰すから」
「殿下のことは信頼してますから」
俺が満面の笑みでそう言った瞬間、売り子をしていたライズと、そばでお昼ご飯を探していたカイナの顔色が、ほぼ同時にかわった。なんだろう、実はこの殿下も危ない人なのか?
二人の顔は大変怖く、互いにけんかしている時のようだった。あれか。敵の敵は味方と言うことで、二人はタッグを組んだのか。殿下は敵なのか……?
「では一度城に戻って日程を確認してから、また来る。た、楽しみにしているから」
しかし殿下の方には気にした様子はない。すごく照れているのは分かるが。何故照れた?
ほぼ毎日ここに来るのだから、本当は確認する日程など無いのかもしれない。忙しいフリをしたことに羞恥が募ったのかもしれない。ああ、きっとそれだな。王子が暇だとか、笑ってしまう事実だしな。
帰宅した俺は、窓を拭いているナイを見た。ナイは、本当に綺麗好きである。
……これで女の子だったら完璧なんだけどな。
「おかえり――どうかしたの?」
「へ?」
「気持ち悪……そ、の、ええと……顔がにやけているから」
今、気持ち悪いって言われかけた。なるほど、それが理由で女の子がよってこないのか……なんと言うことだ。俺は自分の表情を自在に変えたり出来ない。
「所でその……エースに話があるんだ」
「おお、なんだ?」
それから珍しいことにナイにそう言われた。あまりナイは話をしない。口数が少ないのだ。やっぱり厳しい奴隷生活の名残なのだろうか。そう思えば抱きしめて慰めてやりたくなる。
「命令の指輪……エースが持っててくれないかな」
「――え?」
「ここにすませてもらっているお礼に、僕はエースに何かしたいんだ。それにもう、エースを殺せと言うような命令は受けたくないから」
ナイはそう口にして、俺に指輪を差し出した。
だがそれは、ナイを俺の奴隷にするということだ。奴隷……奴隷だと!? 奴隷チーレムに必要不可欠な存在だ! だけど俺には、ナイを奴隷にするなんて事は出来ない気がする。ただ確かに誰かに指輪を奪われた時、困るとは思う。少なくとも俺は多分この街で一番強い。俺から指輪を取り上げられる奴はいないだろう。
「――分かった。だけど俺は、隷属させたりしないから」
頷いて俺は指輪を受け取った。
するとナイがほっとしたような顔をした。それに笑みを返して、俺は指輪をはめてみる。ゆるゆるだった指輪が光り、すぐに俺の指の大きさになった。
――それにしても、それにしてもだ。
俺がいくら微笑もうとも、頭を撫でようとも、ナイは無反応だ。どころかたまに気色悪そうに、嫌そうな顔をする……ニコポもナデポも出来てないじゃん俺……。まぁナイは男の子だから、効かなくても当然か。そうだ! 隷属のピアスで、女装し照ってお願いして、男の娘――いやだめだ、そんな事させられないし、たった今俺自分で、隷属させないって言っちゃった。勿論その言葉が無くたって、今更仲良くなったナイに、無理強いなんてしたくない。あれ、だけどそういえば――……
「……ナイ。だけどこれを俺に渡すって事は、俺と一緒にいなきゃいけないんだぞ?」
「やっぱり一緒にいたら迷惑?」
「まさか! 嬉しいけどさ!!」
あれ、ポ、来てるのか、これもしかして。そうなのか? そうだったのか?
まずい、ナイは、第二王子殿下よりもさらに綺麗なのだ。
ちょっとグラっと来てしまう。
しかしナイは男だ。いくら美少年でも、股にぶら下がっているのだ……。
「良かった」
「こちらこそ。一緒にいてくれるんだな、有難う」
「僕は、考えてみたけど、やっぱりやりたいことは見つからなかったし、何がやれるかも分からないんだ。だから見つかるまで側にいても良い?」
「ああ。そうと決まれば、買い物にでも行くか。今ナイが着てるのは俺が勝手に見繕った奴だし、食器もそろえないとな。いつかは俺も旅に出るかもしれないけど、それまでの間は、ここで暮らして、ゆっくりと考えるといいよ」
「僕はお金を持ってない」
「金なら俺があるから心配するな。掃除してくれてるお礼だから、気を使うな」
「……有難う」
そんなやりとりをしてから、俺達は買い物に出かけた。
ナイは、何を着せても似合う。何系が良いんだろう。まぁこの世界、ファンタジー系しかないけどな、選択肢。だから俺はそれとなく、女物の服をナイの側に置いた。ナイは華奢だから、余裕ではいるだろう。しかしナイはそれには見向きもしてくれなかった……。
ちなみに食器は、俺の分も買った。別におそろいにしようという意図ではなくて、安かったんだ。ナイと一緒に食事をとる以上、皿は沢山あっても困らない。その分おかずを多く作ることが出来るのだから。
その他には、寝台を買おうか迷った。現在、俺とナイは同じベッドで寝ている。
寝ている、って別に変な意味ではなくて、睡眠だ。いくら俺だって同性の、それもまだ幼さの残る少年に手を出したりはしない。たまに理性が揺らぎそうになるくらいナイは綺麗だが、違う、違うんだ。俺は、女の子が良いのだ。
そのようにして、俺達は買い物を終え、帰宅したのだった。