【2】エニタス魔法学園
しかし十三歳にして、騎士団で働いているってすごい。ちなみにそれは、現在の俺の事であるが。
このミルカーナ王国では、十五歳まで貴族は、各家の家庭教師に習い、十五歳から十六歳になる年齢で、王立エニタス魔法学園に通うらしいのだが、ロイルは既に家庭教師には習い終えているようで、毎日毎日騎士団の仕事をしている。
何をしているかといえば、剣で魔獣を討伐しているのだ。最初は生々しいと感じていたが、俺の『体』が覚えていたようで、現在はサクサクと魔獣を討伐している。
ゲームではちょっと粗暴でワイルドな部分があったのだが、家庭教師に習った記憶が遠のいているのと、この日常のせいだったのかもしれない。しかし俺は、アニス姫に好かれたいので、何故なのか知識としてもっている礼儀作法にも常日頃から気をつけるようになった。しかし討伐ばっかりで、全然アニス姫には会えない……。
ゲームの時間軸である、学園の日々が始まれば、三年間同じクラスになる事が出来るはずだから、それまで俺は自分に出来る事を頑張り、自分磨きに励もう。そしてアニス姫の理想の旦那様になるのだ。くぅ……夢が広がる。推しと結婚出来るなんて最高だ!
そんなこんなで二年間を経て――ついに、魔法学園へと入学する十五歳に俺はなった。本日から、よほどの魔獣が出ない限りは、学園で過ごす事が出来る。即ち、姫に会える!
ワクワクウキウキ、そんな気分で俺は、制服に着替えた。その後馬車に乗り、俺はエニタス魔法学園がある離島へと向かった。全寮制である。この期間だけは、国の決まりで、本当によほどの事が無ければ、俺も騎士としての仕事はしなくて良いそうだ。
つまり恋愛を謳歌出来る。
俺は膝の上に載せてある、姫へのプレゼントの小箱を見た。小さな星型の首飾りを買ってきたのである。俺は姫に尽くす。姫が好きだ。まだ実物はよく知らないが、ゲームの中の姫についての知識は、多分誰よりもある。花束も持ってきた方が良かったかな?
さて――まずは、寮の部屋の確認だ。
俺は不測の事態の場合は、長期で学園を開ける可能性がゼロではないため、一人部屋だと聞いている。姫と一緒の部屋だったら良かったのだが、男女の寮は別らしい……。
その後俺は、運び込まれている荷物を確認しながら過ごし、入学式に備えた。
ああ、やっと姫に会える。アニス姫は、ゲームではロイルにゾッコンだった。そして今は、俺がそのロイルなのだ。
ポケットにプレゼントの小箱を入れて、入学式の会場へと向かい、早速俺はアニス姫の姿を探した。アニス姫は、女子の同級生達と談笑しながら座っていた。そして――俺を見ると、頬を染めた。あああああああ、可愛いよおおおおおお! 俺は微笑を返しておいた。
俺はこの学園で、姫に相応しい男になる。ゲームの中のような意地悪な態度など決して取らないし、プレイヤーヒロインに陥落したりもしない。姫を愛し続ける! そう決意を新たにして、入学式を終えてから、集団で教室へと向かった。
席順は自由。
俺は姫の隣に座りたかったが、既に姫は、多くの同級生に囲まれていた。俺は姫の斜め後ろの席に陣取る(そこが一番近かった)。姫の横顔、後ろ姿……これから毎日見る事が出来るのだ。
その時、姫が振り返った。目が合う。するとふわりと姫が微笑んだ。俺は顔が緩みそうになるのを必死で制して、なるべく精悍な顔つきを心がけながら、笑顔を返す。アニス姫、大好き! そう考えながら、俺は立ち上がった。そして姫のそばに行く。すると周囲の人混みが割れた。それもそうだろう。俺は一応既に名高い騎士だ。みんな気を遣ってくれたのだと思う。
「アニス姫、久しぶりだな」
「ロイル様……お元気でしたか?」
「ああ。そうだ、土産を買ってきたんだ。これを」
俺はポケットから小箱を取り出して、姫の机の上に置いた。すると姫が目を丸くする。瞳がこぼれ落ちそうだ。本当、なんて麗しいんだろう。十三歳の頃に比べると大人びてみえるし、本当にゲームの時にそっくりだ。
「まぁ……綺麗」
中から取り出した首飾りを見て、姫がうっとりとした瞳に変わった。満足した俺は頷いてから、姫に対して続ける。
「これから三年間、よろしく」
本当は一生よろしくお願いしますと言いたかった。
「早速二人の空間を築いているようで、何よりというか、何というかだな」
そこへ声がかかった。見れば、バリス第二王子殿下が頬杖をついて俺とアニス姫を見ていた。異母兄妹の二人は、同じ学年だ。過去、俺は彼を庇って負傷し――この世界で目覚めるにいたったわけだが、意識の上では顔しか知らない。バリス殿下は、俺の隣の席だ。黒色の髪と紫色の瞳をしている。王族には、紫色の瞳が多い。
その後担任の先生が入ってきたので、俺は席に戻った。