【十一】高等部二年の前期末
――高等部も二年になると、運命の探偵が決まりペアを組む助手が増え始める。僕の周囲でも、最近であれば、日向が御堂さんという探偵と引き合わせられた。最近、といっても、それはもう昨年の事で、高等部の二年生になっても、一人なのは、僕だけだというのが実情だ。
試験結果を見る。僕は今回も、学年首席だった。けれど紙や実技の成績が良好だからといって、運命の探偵と出会えるわけではない。
「……」
そもそも、本当にそんな相手は存在するのだろうか?
最近の僕は、懐疑的だ。助手としての教育しか受けてこなかったから、将来への不安もあり、誰とも出会えなかった時に備えて、最近の僕は勉強に打ち込んでいる。本日同時に返却された全国模試の結果を見る。僕は、そちらでは二位だった。上位三百名は名前が開示される模試だったのだが、一位の欄に踊るのは、今回も山縣正臣という名前である。
僕は山縣の顔を知っている。いいや、有名な高校生探偵、しかも日本にたった五人しかいないSランク探偵の顔を、一度もメディアで見た事のない人間の方が少ないだろう。
五人の内の二人、山縣忠臣(やまがたただおみ)と階田透子(しなだとうこ)というSランク探偵二名の一人息子であり、有名な探偵才能児だ。山階探偵学園に通っているらしい。だが事件への捜査協力依頼が後を絶たないため、あまり通学はしていないそうだ。これは、日向から聞いた。日向の運命の探偵が、同じクラスなのだという。
「山縣の助手、どんな人なんだろうね。なってみたいよ、俺も」
日向がそんな事を言って笑っていた事がある。僕としては、既に御堂さんが見つかっているだけで、日向が羨ましかった。そしてそれを日向はよく分かっているようだった。
「まぁ、御堂はとても優れた探偵だけどね。俺にふさわしいよ。どこかの誰かと違って、やっぱり僕には実力があるから、御堂と引き合わせてもらえたのかな。運命ってよく見てるよねぇ」
最近の日向は、僕にあからさまな嫌味を言う。僕は聞き流していた。元々日向は僕をライバル視していたのだが、僕に探偵が見つからないものだから、最近気をよくしているらしい。
「……」
僕は改めて成績表を見た。
僕は別に、山縣の助手になりたいというような思いはない。華々しい活躍をする高校生探偵は偉大だが、僕は僕の手助けを必要としてくれるたった一人とめぐり合いたい。
「朝倉。理事長先生がお呼びだ。すぐに来てくれ」
その時、扉から声がかかり、僕が顔を上げると担任の先生が手招きをしていた。
なんだろうかと考えながらも成績表を鞄にしまい、僕は立ち上がった。
階段を上がって廊下を歩いていき、職員室の隣にある、理事長室へと向かう。
そしてノックをすると、声がかかった。
「失礼します」
「やぁ、朝倉くん。急に呼び出してすまないね。座ってくれ」
「いえ……」
促されて、僕はソファに座った。すると正面の席に理事長先生が座した。
「実は君の運命の探偵の件なのだが」
「はい」
「――実はとっくに判明していたんだ」
「え?」
「ただし探偵側の要望で、これまで引き合わせる事をしなかった」
「要望、ですか?」
僕が首を傾げると、理事長先生が大きく頷いた。
「完璧なんだが、少し性格には癖のある探偵でね。そう――彼は、完璧すぎるんだ。一人で何でもこなす事が出来る。それゆえに、自分には助手など不要だと言い張っていてね。しかし規則は規則だ、絶対だ。引き合わせないわけにもいかない。そこで事件が落ち着いているこのタイミングで、君達には、正式に探偵と助手として、一緒に暮らしてもらう事になった」
探偵と助手は、基本的に一緒に暮らすので、その部分には僕に不安はなかった。
ただ、完璧、というのがよく分からない。
「朝倉くんと先方のご家族には、すでに了解を得ている。荷物も運んでくれるそうだ。これが、家のカギだ」
理事長先生がテーブルの上に、銀色のカギを置いた。それを受け取り、僕は小さく頷いた。