【十八】美味しいの一言(☆)






 夏休みが終わった。
 寝台の上で、僕は後ろから山縣に抱きかかえられ、ずっと両方の乳首を嬲られている。もどかしくて全身が熱くて、乳頭を優しく刺激される度に、ツキンと快楽がしみ込んでくるものだから、ポロポロと泣いていた。既に僕の陰茎は反り返り、タラタラと先端からは液が零れているのだが、山縣はもう二時間も僕の乳首を弾くだけで、そちらには触ってくれない。

「ぁ……ァ……んぅ……ぅ」
「出したいか?」
「うん、うん」
「じゃあ、言ってみろ。俺の事が好きだ、って」
「山縣の事が好きだよ、好き、あ、あ、好き」

 僕は言われた通りに好きだと繰り返す。もう出したくて何も考えられない。

「どのくらい?」
「え、あ……ああ、っ……いっぱい」
「具体的にいえ」
「ん――っ、ああ! 山縣、も、もう僕、僕……あ、あ、出る、あ、イく。イっちゃう」

 その時強く乳首を弾かれて、僕は胸への刺激だけで射精した。
 ぐったりと後ろに倒れこみ、必死で息をしながら、僕は山縣の胸板に体重をかけた。すると僕の敏感になっている体を抱きしめ、山縣が再び僕の乳首をキュッと摘まんだ。

「や、やだ、も、もうできない、できないよ、できないから、ぁ、あああ!」
「言えよ。俺の事が好きだって」
「好き、好きだよ、っン――!」

 この夜山縣は、僕に挿入する事はしなかった。僕はずっと胸を愛撫され、気が付くと気絶していた。

 目が覚めると翌朝で、僕は寝台の上に寝ていた。

「……」

 最近の山縣は、僕にしつこいくらいに、「好きだ」と言わせる。
 ……実際に好きだから、困ってしまう。
 そう、僕は自分の気持ちを自覚してしまった。僕は、山縣に恋をしている。

 シャワーを浴びに向かった僕は、浴室で温水をかぶりながら嘆息する。御堂さんが嫌で、山縣は嫌じゃなかった理由なんて、本当に簡単だった。僕は山縣の事が好きだから、山縣以外に触れられたくないんだと気づいた。

 山縣は今日も既に、外に出ている。事件の捜査に向かったのだろう。
 入浴後、僕は髪を乾かしてから、リビングへと戻った。
 まだ昨夜の行為の感覚が、肌に残っているように感じるし、全身が気怠い。

 それでも明日は、夏休み明けテストだからと、僕はノートを開いた。しかし眠気がやってきて、僕はそのままテーブルに両手を預けて微睡んだ。

「ん……」

 ふと、なにか温かい感触がしたから、僕は瞼を開けた。見れば僕の肩に毛布を掛けようとしている山縣の顔が、至近距離にあった。まっすぐに目が合うと、山縣が僅かに頬を染めて、顔をそむけた。僕はその反応の意味がよく分からなかった。

「風邪をひくだろ。こんなところで寝てんじゃねぇよ」

 ぶっきらぼうにそういうと、山縣が立ち上がって、二階へと消えた。
 僕は毛布を片手で握りながら、山縣は照れていたのかもしれないと気が付く。
 山縣は、なんだかんだで、とても優しい。見えにくい優しさだし、不器用な優しさだけれど、僕はそんなところも、とても好きだ。



 けれど――あんまりにも置いて行かれてばかりだから、時々苦しくなる。
 本日も、俯きながら、僕は肉じゃがを作っていた。初日よりは、上達したと思っている。その時、山縣が帰ってきた。僕は鍋から顔を上げて振り返る。

「おかえり」
「おう」
「すぐに珈琲を淹れるね」
「ああ」

 ソファに座ってネクタイを緩めている山縣に、僕は珈琲を淹れて差し出した。
 受け取って山縣が飲み始める。

「腹が減った」
「あ……肉じゃがを作っておいたんだけど」
「――へぇ」
「すぐに用意するね」

 僕はキッチンへと戻り、テーブルに食事を並べた。すると山縣がやってきて、椅子に座った。対面する席に僕も座り、「いただきます」と手を合わせる。こうして夕食が始まった。すると山縣が、僕をちらりと見た。

「おい」
「ん?」
「その……この前、お前キャンプに行きたそうだったけど、行きたいのか?」
「っ……うん。でも、山縣は忙しいんでしょう? 無理に行かなくていいよ」

 僕が微苦笑すると、肉じゃがを食べながら、山縣が呆れたような眼をしていた。

「はぁ。しかし美味いな」
「――え?」
「ほっとする味だな」
「!」

 僕はその声に、耳を疑った。山縣の口から、「美味しい」という言葉が出たのは初めてだった。驚愕した僕は、それから胸に寒気が満ち溢れたことに気づいた。気づいた理由は、それが涙となって、目から零れ落ちたからだ。嬉し泣きだ。

「朝倉?」
「っ、あ、ごめん」
「なんで泣いてるんだ?」

 僕は慌てて涙をぬぐう。山縣が僕を怪訝そうに見ている。僕は必死で笑おうとしたのだけれど、嬉しくて涙が止まらない。すると珍しく山縣が、おろおろするような顔をした。

「そんなにキャンプに行きたいのか?」
「そ、そういうわけじゃ――」

 誤解されたことすら、嬉しさに変わる。山縣が、僕を気遣ってくれているのが嬉しい。

「仕方ねぇな。行ってやるよ」
「!」

 こうして僕達は、探偵機構主催のキャンプへと行く事になった。