【二十二】挑戦状(※/★)
十六夜さんが車で迎えに来てくれたのは、十月の頭の事だった。今は学校のテストも終わったし、毎日僕は暇だ。相変わらず山縣は、僕の事を置いていく。
「悲しいよな。俺も分かる、春日居もたまに単独行動するからさ」
苦笑しながら運転する十六夜さんに対し、僕は頷いた。
助手同士で話すのだからと、僕は山縣には特にいうでもなく、十六夜さんの車に乗っている。きっと山縣は、僕が日中何処に行ったかなんて、興味がないだろう。
十六夜さんと春日居さんは、少し離れた場所にある別荘地に、洋館を移築して住んでいるそうだった。髑髏館というらしい。ちょっと怖い名前だ。
二時間ほどかけて、雑談しながら到着したその洋館は、黒と白で出来ていた。
ギンガムチェックの床のエントランスを通り抜けて、僕は応接間に案内された――のだろうと、最初は思った。だが、床に大きく髑髏が刻まれたその部屋で、僕は思わず目を見開いた。嫌な臭いがする。血の匂いだ。僕の方へと、血だまりが筋になって流れてくる。正面のキャットタワーには、生首が飾られている。僕は何度か瞬きをした。現実を認識することを、全身が拒絶していた。しかし理解した瞬間には、総毛立って、慌てて振り返ろうとした。
「っ」
後ろから口を押さえられて、腕を取られたのはその時だった。
僕は布で何かをかがされ、そのまま意識を失った。
「ん……」
鈍い頭痛がする。
ぼんやりと目を開けた僕は、なぜ自分が椅子に座って拘束されているのか、最初理解できなかった。口枷が嵌められていて、両手は頭上で鎖に固定されている。足首にも足枷が嵌まっていて、胴体は椅子に縛り付けられていた。完全に身動きが出来ない。
「んン」
目を見開き、僕は言葉を発しようとした。だが、口枷のせいで上手くいかない。
「おはよう、朝倉くん」
僕の正面には、いつもと変わらない笑顔の十六夜さんがいる。
その隣の一人掛けのソファには、膝を組んで座っている春日居さんの姿があった。
……どうして?
……何が起きている?
僕は混乱しながら、二人をそれぞれ見た。すると十六夜さんが哄笑を始めた。
「犯人、分かったでしょう? いい加減」
「!」
「山縣にも解決できない連続殺人事件――それはそうだよねぇ。Sランク探偵の春日居とSランク探偵兼助手の僕が犯人だからねぇ。頭脳×2と1じゃさ、いくら山縣でも無理っしょ。あー、笑える」
お腹を抱えて、楽しそうに十六夜さんが笑っている。隣では春日居さんも吹き出している。僕は戦慄した。春日居さんの横には、電源の入っていない、電動ノコギリがある。
「果たして、山縣には解決できるかなぁ? んー、無理だろうねぇ。だからもうちょっと、ヒントを上げようと思ってるんだ。挑戦状は、既に送ったしね」
楽しそうにそういうと、歩み寄ってきた十六夜さんが、僕の顎を持ち上げた。そして屈んで僕の目をまじまじと見ながら、歪んだ笑みを浮かべる。
「どうやって殺そうかなぁ。君の生首を見たら、どんな反応をしてくれるんだろ。どう思う? 春日居」
「――それじゃ足りないだろう。もっともっと山縣をボロボロにしてやらないとな。それには、助手を嬲るのが一番だ。なにせ、運命の絆があるからな。探偵にとって一番こたえるのは、助手をいたぶられる事だ。違うか?」
春日居さんはそういうと、手にしていた本を傍らのテーブルに置き、そこに黒ぶちの伊達眼鏡を置いてから立ち上がった。そして十六夜さんの隣に立つ。
「山縣を傷つけつくしたい。それに、山縣が助手をどんな風に躾けているのかにも興味があるしな。ああ、山縣には絶対に負けない。勝ちつくそう」
「そうだね、春日居。楽しもうか」
僕は唖然としながら、二人を見ていた。
――山縣を、傷つける? 僕は、それが怖い。僕が何かされるよりも、山縣の無事を祈ってしまう。けれど、僕には何もできない。出来なかった。
十六夜さんと春日居さんは、覆面を付けた。ありていな黒い覆面で、顔を隠した二人は、僕の手首以外の拘束を解いた。逃げようと試みたが、後ろから十六夜さんに両腕を取られ、正面からは、春日居さんに両足を掴まれた。そして僕は、服を破かれた。
「! 止めろ、放せ!」
僕が声を上げても、二人はニタニタと笑うばかりだ。僕の体が凍り付き、全身に震えが走る。僕の頬を、ねっとりと十六夜さんが舐めた。気持ちが悪くて、僕は涙ぐむ。
「うあああ」
その時、慣らすでもなく十六夜さんが、僕の後孔に陰茎を挿入した。切れて血が出てきたのが分かる。
「はぁ、ぬめるねぇ」
しかしそれを潤滑油代わりに、どんどん挿入を続けた。押し広げられる感覚と同時に強い痛みに襲われて、僕は震えながらギュッと目を閉じる。
「あ、あっ」
すると萎えていた僕の陰茎を、春日居さんが口に含んだ。
こうして後ろから十六夜さんに下から貫かれて抱きかかえられ、そんな僕の両足を持ち上げた春日居さんには口で陰茎を嬲られた。
「う、うぁ……」
情けない事に、山縣に開かれきっていた僕の体は、痛いし嫌なのに、すぐに熱を孕んだ。
僕の陰茎が反応し、すぐに達したくなる。だがその時、強く突き上げられて、僕は痛みで少し萎えた。十六夜さんが、そうしながら、僕の乳首を強くつまむ。爪を立てられ、痛みが走る。
「いや、いやだ、っ……あああ」
「本当に? 気持ちいいんじゃないの? 乳首は真っ赤に尖ってるし、ペニスもだらしなーくダラダラ垂らしてるみたいだけどね?」
十六夜さんがそう言って笑っている。僕のを咥えたままで、春日居さんが頷いている。僕は首を振って号泣した。こんなのは、嫌だ。なのに、気持ちよさも確かにせり上がってくる。だけど僕はそれを認めたくない。山縣の顔が思い浮かぶ。山縣以外に体を暴かれるのが、つらくて胸が張り裂けそうだ。
「ん、ぅ――!!」
そのまま僕は、射精してしまった。ボロボロと泣いていた時、楽しそうに笑った春日居さんが、僕の足をより大きく持ち上げて、陰茎の先端を僕の窄まりにあてがった。十六夜さんに貫かれている僕の秘部を、じっと見てから、吹き出して春日居さんが陰茎を進める。
「う、嘘、ま、無理、ああああああ!!」
僕は目を見開き、背筋を撓らせる。息が詰まる、呼吸が出来ない。
僕はそのまま、十六夜さんと春日居さんの、二本の陰茎で貫かれた。ぎちぎちに押し広げられた後孔は、再び流血した。そのまま二人は、僕の奥深くまで陰茎を進め、それぞれ動き始める。僕は痛みに絶叫した。だが――その内に、認めたくないのに、快楽を感じて、再び陰茎が反り返った。
「あ、ハ――っ」
ボロボロと泣きながら、激しく動かれた瞬間僕は再び放ち、気絶した。
「きちんと撮影してるから、安心してね」
その声で、僕は意識を取り戻した。
「!」
僕は四つん這いにされていて、口には春日居さんの陰茎を、バックから後孔には、十六夜さんの陰茎を挿入されていた。
「んぅっ」
体が震える。擦り上げられるように動かれ、前立腺を刺激されると、ゾクゾクと僕の体に快楽が走る。山縣以外にこんな事はされたくないのに、頭が真っ白になるくらい気持ちいい。
「ほら、きちんと舐めろ」
春日居さんはそういうと、僕の喉の奥まで陰茎を進めて、激しく動く。
ギュッと目を閉じ、僕はボロボロと泣いた。
「ンん!!」
ぐっと億深くを一際強く貫かれた時、僕は射精し、また意識が飛んだ。
快楽と、辛い現実が、両方一気に襲い掛かってきて、多分僕の意識は耐えられなかったのだろう。
「人間としての尊厳は、そろそろ消えたかなぁ? どう思う? 春日居」
「ああ、どんどんただの牝犬になっていくな」
二人が僕を見て嘲笑している。
僕は、目を覚ますたびに、どちらかあるいは両方に体を暴かれていた。
快楽しか考えられない。そんなのは嫌なのに、全身が気持ちいい。
「ん、フ」
次に気づいた時、僕は目隠しをされ、口布を噛ませられ、耳栓をされていた。手枷と首輪は冷たい鉄だ。後孔からは規則正しい振動が響いてくる。それが背骨を伝うようにして、僕の全身に広がっていく。バイブは僕に快楽を強制し、決して許してくれない。目も耳も使えないから、快楽が露骨に感じて、僕は必死に息をして、ただひたすら喘いだ。
バシン、と。
その時音がして、僕の背中に痛みと熱が走った。
鞭で叩かれたのだろうと、耳栓越しにも聞こえる音に、僕は体を震わせる。
二度、三度と僕は叩かれた。その後は、熱い蝋燭を、ダラダラと体にかけられた。
「ン――!!」
僕はそれらにすら感じ入った。理由は簡単だ。コックリングを嵌められているため、射精が出来ず、出したくてたまらなかったからだ。僅かな刺激でも欲しくて、体を震わせる。どんどん出したいという事しか考えられなくなっていったその時、ぐりとバイブを動かされ、僕の前立腺に押し当てられた。
「――、――!」
そのまま僕は中だけで果てた。ドライの波に全身を飲まれてすぐ、ブツンと僕の意識は途切れた。
「!!」
目を覚ますと、まだその状態だった。そのまま絶頂を促され、僕は震えた。そうして何度も何度も僕は中でイかされて、意識がある時は強い快楽、ない時ですら快楽に苛まれた。もう認めるしかない、気持ちがいい。僕の体は陥落した。
――我に返ったというのが、正しいのかは分からない。僕は虚ろな瞳を揺らした。力の入らない体で、僕は椅子に座らせられていた。胴体を拘束され、後ろ手に縛られているが、きっとそうされていなくても、僕は動くことがもうできない。
思考が曖昧で、意識も曖昧で、自分が夢を見ているのか、現実を見ているのかも、よくわからない。僕は、どのくらいの間ここにいるのだろう。時間の感覚なんてとうになかったし、体の感覚すら乖離している気がした。
床を踏むかかとの音がし、僕が顔を上げると、春日居さんが立っていた。
電動ノコギリの音がする。
ゆるゆると視線を向ければ、スイッチが入っていた。十六夜さんの姿はない。
代わりに僕は、部屋中に飾られている生首を視界に捉えた。
「さて、仕上げだな。朝倉くんの首をプレゼントしたら、山縣はどんな反応をするのか。実に楽しみだ」
春日居さんが何か言っていたが、僕の耳には入らない。喋っているのは分かるけれど、聴覚がもう言葉を拾わない。僕はただ、ぼんやりと、生首達を眺めていた。そして一瞬だけ意識が戻り、凍り付いた。
「あ」
その一角に、猫の生首があったからだ。それは、僕と山縣の愛猫だ。
「ああああああ!」
僕は泣きながら絶叫した。
電動ノコギリが振り上げられる。僕も、死ぬのか。きっと僕の首を見たら、山縣は肉の塊だというのだろう。でも、猫の首を見たら、山縣は泣いてしまう気がした。
「半分くらい、顔の皮膚をはがすのもいいな。綺麗なその顔、焼くのもいいか」
刃が近づいてくる。
――轟音がして、扉が破壊されたのは、その時のことだった。
直後銃声がした。
僕の目の前で、春日居さんの体が傾く。
「朝倉!」
直後、僕は抱きしめられていた。僕の体に腕を回し、山縣が拘束を解いてくれる。僕は山縣の腕の中に倒れこみ、震えている山縣を見た。山縣がこんな風に、怯えたような顔で、泣きそうになって震えているなんて、そんなのはありえないから、やはりこれは、夢なのだろう。
そのまま僕は、意識を手放した。