【五十四】クレイムの魔法陣




 その夜。
 僕とクライヴは、施錠した寝室で、向き合っていた。傍らのテーブルの上には、お茶会の時に、調整してもらい、僕にぴったりのサイズになった|首輪《カラー》がある。

「《脱いでくれ》」
「うん……」

 僕は言われた通りに、服に手をかける。パサリ、またパサリと衣が絨毯の上に落ちていく。それが終わると、優しい顔でクライヴが言った。

「《|お座り《ニール》》」
「ん……」

 胸が満ち溢れた心地のまま、僕は絨毯の上にペタンと座る。すると僕の頬に手で触れてから、クライヴが唇の片端を持ち上げた。

「これは、《命令》ではなく、『確認』だ。俺の【パートナー】になってくれるな?」
「はい」
「――生涯、俺だけのSubとなってくれるか?」
「はい」
「法的な結婚よりも強い――【パートナーの宣誓】を受け入れてくれるか?」
「はい」

 僕はしっかりと頷いた。するとその場に、甘い|力《グレア》が滲みだし、溢れた。
 クライヴが長々と目を伏せてから、少し屈んでで瞼を開ける。

「では、【|契約《クレイム》の魔法陣】を開いてもいいか?」
「うん……」

 DomとSubがパートナーの契約を『魂』から結ぶ時、この王国では魔法陣でそれを『世界の記憶』に刻む。僕が同意すると、クライヴが魔法陣を発動させるための宝玉を片手で握った。すると僕たちの足元に、三重円の魔法陣が広がっていき、古代文字や月と蝙蝠の意匠に彩られた光が浮かび上がってきた。

 光に飲まれた状態で、僕は首に冷たい感触を覚える。
 ――カチリ。
 そんな音と重さを感じ、僕は|首輪《カラー》の存在感を識った。

「あ……」

 瞬間、僕の全身が歓喜で震えた。嬉しくて涙ぐみながら、僕は恍惚とした表情でクライヴを見上げる。僕に首輪をつけたクライヴは、それから僕を抱き起した。

「似合っている」
「っ、ぁ……ありがとう」
「俺の台詞だ。俺を受け入れ、受け止め、俺を好きになってくれて、ありがとう。ルイス、愛している」
「ン」

 そのまま僕達は抱き合って、唇を重ねた。嬉しくて嬉しくてたまらない。僕はぎゅっとクライヴに抱き着いて、涙で頬を濡らす。何度もお互いの唇を求めあい、それから僕達は見つめあった。

「これからは、俺だけのSubだな」
「……僕はもうずっと、クライヴだけの|存在《もの》だったよ」
「ああ。そうだな。ただ――心を手に入れたと、そう実感した今、やはりその首輪を、どうしても贈りたかったんだ。これは俺の自己満足だが」
「嬉しい」
「喜んでくれるのならば幸いだ。ただな、俺の愛は非常に重いぞ。もっともっと、ルイスを俺は、|奪《・》|わ《・》|せ《・》|て《・》|も《・》|ら《・》|う《・》」
「僕の全部は、クライヴのものだよ」
「――俺は強欲なんだ。全然足りないよ」

 クライヴが瞳に獰猛な光を宿し、僕の顎を持ち上げる。

「《求めてくれ》」

 その《命令》に、僕の脳髄が痺れた。