【五十三】王都からの来客







 バーナードに先導されて、僕は応接間に向かった。すると中にいたクライヴと客人が歓談していて、僕を見るとそれぞれ立ち上がった。

「お初にお目にかかります、ルイス様」
「ルイス、こちらは王都で、首輪(カラー)デザイナーをしているルミナンス伯爵だ」
「! ルイスです……よろしくお願いいたします」

 僕は目を丸くしながら、細い眼をさらに細めて笑っているルミナンス伯爵と、クライヴを交互に見る。するとクライヴが僕の肩に触れた。

「座ってくれ」

 こうして僕達三人は着席し、そこにバーナードが紅茶を運んでから、壁際に控えた。
 それを見守りつつ、僕はテーブルの上にあるガラスケースをチラチラと見てしまう。
 ヴェルベット張りの台座があって、そこには――、首輪(カラー)が輝いている。

「ずっと……ルイスを一目見た時から、君にこういう首輪を贈りたいと感じていて、実を言えば俺にはそう芸術センスがある方ではないんだけどな、ルミナンス伯爵に指導を受けていたんだ。俺がデザインした案を、今回、伯爵が修正して再現してくれたんだ。つまり、俺が考えた首輪だ」

 クライヴは僕の肩を腕で抱くと、楽しそうに話す。

「クライヴがデザインしたの……?」

 僕は驚いて目を丸くした。ガラスケースの中に鎮座している繊細な美を誇る銀細工とダイヤの首輪を見て、僕はびっくりしてしまった。デザイナーの作品だと聞いて納得できるくらい繊細で細かな意匠のその、首輪(カラー)は、シャンデリアの魔導灯の光を受けて、きらめきを放っている。

「ああ。どうしてもこれを身に着けているルイスが見てみたいんだ。気に入らなければ、また新しく購入を検討するが、一度つけてはくれないか?」
「気に入らないなんて、とんでもなくて……すごく、綺麗……」

 僕がうっとりしながら見入っていると、ルミナンス伯爵が吐息に笑みを載せた。

「クライヴ殿下は、この首輪を我輩に出会った十歳の頃から作ると言い張って聞かなかったので、感無量としか言えません」
「え?」
「――その……その頃から、ルイスを王宮の幼年層の会で見て、プレゼントしたくてつい……」
「ええ、ええ。クライヴ殿下は、二言目には『ルイス』『ルイス』とそればかり。しかしその純愛が叶って何よりですな」
「ああ。叶うまでには時間がかかったから、それだけ俺のデザインの腕前も上がったが」

 苦笑したクライヴの声に、僕は嬉しくなって赤面した。第三者からこうして話を聞くと、なんだか気恥ずかしくなってしまう。

「だから、特注にこだわってしまった。ルイス、貰ってはくれないか?」
「嬉しいです……」

 僕が満面の笑みを浮かべると、クライヴもまた嬉しそうに両頬を持ち上げた。

「ずっと渡せる日を待っていたんだ。言質を取ってすぐ、王都の伯爵に、用意を頼んでしまった」
「ご結婚の知らせを聞いてすぐに作成に入りましたので、我輩としては、今か今かと待っていた形ですがねぇ」

 ルミナンス伯爵は、薄い唇の両端を持ち上げると、海色の瞳で僕達を見た。

「残るはサイズの微調整程度で、今すぐにでも取り掛からせていただけましたら」
「ああ、頼む。ルイス、ルイスもそれでいいか?」
「は、はい!」

 こうしてその場で、僕は早速首輪のサイズを調整してもらう事になった。
 嬉しくて、涙ぐみそうだ。僕は歓喜に震えながら、何度もじっくりと首輪を見据えた。