【八十四】巡る四季の約束をする




 こうして、僕とクライヴの日常には、たまにプレイ室での行為が加わった。日常的には寝室で甘く抱かれている僕だけれど、時々《お仕置き》される場合や、クライヴが僕に対して独占欲が強くなった時には、僕はクライヴだけが鍵を持つ部屋へと誘われるようになった。

「ルイス、働き過ぎだ」
「クライヴ……」
「《お仕置き》だな」
「……僕は平気なのに。もっと働けるよ」
「いいや。休憩を忘れている」

 大抵の場合、こうして《お仕置き》となる。クライヴは、僕を心配し過ぎだ。過保護な溺愛っぷりには、バーナード達城のみんなも、複雑そうな眼差しを向けている。

「そうはいっても、三か月後には披露宴だから」

 クライヴとの祝祭であるから、僕は成功させたい。もう季節は三月、コーラル城の庭園にも春の花が咲き始めた。

「だが本番に倒れては仕方がない。休憩に、少し散歩をしないか?」
「うん」

 僕は頷き、万年筆を置いた。
 そうしてクライヴと共に、エントランスホールを通り抜けて、外へと出た。今日は春の風が強い。青空の下で、僕は風に髪を掬われる。手を繋いで庭園へと向い、僕はチューリップの前で立ち止まった。庭師が手入れをしてくれているから、綺麗に並んで咲いている。

「ルイス」
「なに?」
「これからも、毎年一緒に春を迎えよう」

 クライヴはそう言ってから、僕の腕をひいた。僕はクライヴの腕の中に納まってから、顔を上げる。するともう一方の手で、クライヴが僕の顎を持ち上げた。見つめあいながら、僕はクライヴの端正な顔に惹きつけられるようになり、自ずと瞼を伏せた。触れるだけのキスをされたのは、その直後だ。その感触に浸ってから、目を開けた僕は、両頬を持ち上げた。今の僕はもう、自然と笑う事が出来る。それは紛れもなく、クライヴのおかげだ。

「うん。毎年一緒に、新しい春を迎えようね」
「約束だ。夏も秋も冬も、ずっとともにいたい」
「僕も。僕も約束したい」

 満面の笑みを浮かべて僕が頷くと、クライヴもまた笑顔になった。
 僕達はニコニコと微笑みあいながら、何度も何度もキスをする。

 いつか僕は、結婚したら悲惨な生涯を送る事になると悲観した記憶がある。けれど今、隣に並んでいるのはクライヴで、僕の伴侶は惜しみない溺愛を僕に捧げてくれる。そして甘い甘い《命令(コマンド)》で、僕の身も心も蕩けさせてくれる。僕の生涯に待ち受けているのは優しい支配だけであり、クライヴはたまに夜の行為こそ意地悪な時があるけれど、それですら僕を熔かすものだ。結果として僕は、婚約破棄されたSubだが、それをよかったと思っているし、クライヴの溺愛まみれの《命令》を受ける度に、心が弾む日々だ。クライヴが伴侶で、僕は幸せである。もう僕は、Subに生まれた事を嘆いたりしない。だって、クライヴと出会えたのだから。