6:発情期





それからしばらくの間、僕は軟禁された。
そして日がな一日、ひっきりなしに訪れる来訪客と会話をして過ごした。
こういう意味で相手をする……?
別に構わないと思っていた矢先だった。

その日は、二人の客人がいて、それで僕はお茶を淹れていて、そうして――……全身が熱くなった。視界がチカチカと染まる。
何が起きたのか分からないでいると、僕の視界は反転させられた。

「初の発情期に居合せられるとは。この”媚香”、さすがだな。グラグラする」
「先に私が挿れても良いか? こういう一見育ちが良さそうで品がある子を乱すのが好きなんだ」
「ああ、譲るよ。それにしても、品か。誰よりも才能があると思われていたからね。なのに嫌味なところが無くて気さくで明るい――次期、草薙家のご当主様のはずだったのだものな。素晴らしいαになるだろうと、理想中の理想を行くαになるだろうと目されていたからね」
「可哀想だな」
「実に残念だよ。それにしても――外に出さなければならないなんて、草薙本家は相変わらずお堅いな」
「言うな。まぁ、Ω相手でも草薙は偽善者であろうとするんだろ。案外子育てする経済的余裕がないだけかもしれないけどな。この”茶会”も、いい額だしな。Ωごときを抱くにしては」

男たち二人は散々勝手なことを言いながら、呆然としている僕の服を、文字通り破いた。

「あ」

その時、指先が軽く肌に触れた。それだけで、僕は声を上げていた。
嫌だった。
怖かった。
これから何が起こるのか推測するのは容易で、僕は、もがこうとした。だけど力が入らない。全身が、触れられる度に蕩けていく。

「っ……ン……フ……っ……あ、あああ!!」

声だけは必死でこらえようとしたのに、陰茎に息を吹きかけられた瞬間には、悲鳴を上げていた。
僕はようやく、発情期とは何なのか理解した。
マナセとの行為とは、全く違う。
何とかしてほしい。とにかく……誰でもいいから何とかしてほしい。
この熱を、何とか……――快感だけが全てだった。

それから一人には後ろから抱きかかえるようにして、挿入された。その状態で乳首を弄ばれる。
もう一人には、陰茎を口に含まれた。
二人に同時に攻められて、尋常ではない快楽が襲い掛かってくる。
気持ち良い。気持ちが良いよ。心は嫌だと思うのに、心がドロドロに溶けていく感覚。
怖いほどの刺激に、僕は涙をこぼしながら嬌声を上げた。つま先に力を込めると、丸くなった。

「すごく、しまるな」
「ああ。それに、見ているだけでも勃つよ」

二人は、自身を引き抜くたびに、僕の顔や体へと白濁とした精をかけた。
何度そうされたか分からない内に、快楽が強すぎて、僕の意識は途絶した。


――体が泥のように重い。
目が覚めた瞬間、僕は反射的に、舌を噛んで死のうとしていた。

「ンッ……!」

しかし口には、布がかませられていて、手足は拘束されていたため、死ぬ手段が無かった。
反面、まだ体は熱くて、発情期が終わっていない事を悟る。
もう嫌だ。
誰にも触られたくない。だけど体は熱い。
僕は、こんな日々を一生繰り返していかなきゃならないのか。嫌だ。マナセに会いたい。マナセが番だったらいいのに。うあ。

――僕は毎日、四・五人を”誘惑”した。
僕の所為で、行為は行われるのだという。
奥深くを貫かれ暴かれる快楽と、心的絶望。

一週間続く発情期が終わりを告げると、ガクンと僕の側の快感は減ったけれど――……お客様は絶えず四・五人、入れ代わり立ち代わりやってくる。
性交渉に終わりは無かった。

こんな事なら、僕は記憶喪失のままでいたかった。
αだのΩだの考えたくもない。
マナセへの思いも忘れてしまうかもしれないけど、きっとまたすぐに好きになる自信がある。記憶喪失になって自信ができた。会いたいなぁ。

だけどΩの現実はコレだ。
発情期が来て、αと体を重ねれば、尋常ではなく気持ちが良い。
マナセだけ、マナセだから、気持ち良いなんて思っていたのに。僕が馬鹿だった。そもそもマナセが、僕に会いたいと思っているかなんて知らないけど、合わせる顔も無いし、手段も無い。

僕がこんな状況に置かれたのは、僕がΩだからだ。
だけど僕にSEXを強要しているのは、指示を出しているのは、ソウバだ。
ソウバなんか大嫌いだと改めて思った。
僕はソウバが怖かった。


そんな日々が続いていた。
当然”媚香”にあてられないようになのだろう――あるいは、顔も見たくないからなのか、ソウバが僕にあてがわれた部屋を訪れる事は無かった。
だが。
その日、発情期が来た時、たまたま正面の廊下をソウバが歩いていた。
このころには自分の運命を、半ば諦めて受け入れていた僕にも、ある程度の自由があった。
だから移動が可能で――ばったりと廊下で遭遇してしまったのだ。

目が合う。

どちらも、今後起きるであろう行為を回避したいと思っているのに、視線が離せない。

――惹きつけられる……?

こんな事は、これまでに、もう何人ものαと体を重ねたけれど、初めてだった。
気づけば、貪るようにキスをされていた。
舌を強く吸われ、引きずり出されて、甘噛みされる。

「ン……っ……は」

それから、近くの和室へ、乱暴に連れて行かれ、畳の上に押し倒された。
……それが、絶望的な運命の始まりだった。