7:絶望的運命
性急に体を求められ、肌を指が這う。
それだけで僕は果てた。
服をはだけられて、両方の太ももを持ち上げられる。
「あ……ああ!!」
深い。唐突に最奥まで貫かれて、見開いた僕の目からは、涙が零れ落ちた。
今まで経験したことなど、ただの戯れに等しかったかのようで、ソウバの圧倒的な硬度と長さを持つ強大な楔に、僕の背が撓った。
「キツイ、ゆるめろ」
「あ、ぅ、ひぅ……ッ、や……嫌だ!」
パズルのピースがはまるようにしっくりくる、けれど有機的に粘膜が響かせる水音に、意識がグラグラする。
蜜が漏れだしてきて、グチャグチャと音を立てた。
だが相手はソウバだ。こんなの、嫌だ。
「止め……ッふ……ンぅ――!!」
その時、奥をぐりぐりとこすり上げられ、悲鳴をのみ込んだ。
「絡みついてくるな……喰らいついて離さない気か?」
「ち、違、あ、ぅあ、嫌だ、ソウバッ……ンあ!!」
今度は浅く腰をひかれ、もどかしさが込み上げてくる。
もっと、もっと――もっと。
それしか考えられなくなる。ソウバの事が嫌いなのに、ソウバが欲しくて仕方がない。
重なった一体感がもたらす刺激に、体は歓喜していて、何かが満たされていく悦楽に、今度は僕は、気持ち良すぎて泣いた。
嫌なのに、本当に嫌なのに、もう体が止まらない。
「うああ、やぁあ、あ、ソウバッ、嫌だ!!」
それでも精一杯口では抵抗したけれど、力の抜け切り、震えた体は、完全にソウバに屈していた。
「ッ、それ以上中を動かすな、しめるな、出……――出すぞ」
「え、え……え、嫌だ、嫌だよそんなの、嫌だ……――!!」
中の熱が質量を増した事を内側から認識した時、理性では『中に出される』という事実に竦みあがっていた。
しかし体は、もっともっと奥深くまで貫いてほしいと確かに望んでいた。けれど、それでも、ソウバの子供を産むなんて絶対に嫌だった。
「ンア――!!」
だが強く中を突かれ、求めていた強い衝撃に、僕は快楽で果てた。
同時に体内に、熱い飛沫を感じた。
生まれて初めて中に出された瞬間だった。
――それからは、もう止まらなかった。
「うあぁ――!! ソウバ、止め、あ!!」
昼夜を問わず、発情期が終わるまでの一週間、僕はソウバと交わった。
もう感覚が快楽以外を僕に伝えることは無かった。
ソウバに体を作り替えられる感覚がする。嫌――ソウバのためだけに自分の”器”が存在しているような、そんな感覚だった。
最早本能的に、僕は悟った。
僕の番となる相手はソウバだ。
これほどまでにしっくりくる快楽を、僕は知らない。
そしてこれまでの人生で感じてきた、ソウバに対する”怯え”の正体は、どこかでソウバが僕の番だと理解していて、それが怖くて逃げていたのだろうと気が付いていった。
僕は絶望的な気分になった。
何せ僕が好きなのはマナセで、ソウバの事は、感情的には嫌いなのだから。
けれどもう、ソウバ以外と体を重ねても、本当の満足感は得られないはずだ。
第一”媚香”は、番が見つかると出なくなるそうだから、今後は、”お客様”の相手をすることも減るだろう。
――そして、僕の番が相場だということは、ソウバ自身にもわかったはずだ。
目が合うと、冷笑された。
それからの日々が、地獄だった。
ソウバは言う。
「ずっとハルイの事が嫌いだったんだ。今は――一段と嫌悪している。だから当然、番として選ぶつもりはない。嫌もう番っているのか? ならば解消する」
そんなの、望む所だった。だけど、なのに、なんで。
響いた言葉に、深い絶望感が押し寄せてくる。
昔、聞いたことがある。”番”の解消は、αの側からならばできる。ただし残されたΩは、相手がいなくなる――それこそ死して存在しなくなるまで、永劫喪失感に苛まれるのだと。この、胸が張裂けそうな感覚が、それ以外の、喪失感と悲愴以外の名前をしていると、僕には思えなかった。
もう認めるしかない。
ソウバがいないと僕はダメなのだ。
ソウバはその後、他のΩを探して歩いているとの事だった。
僕では満足できず、僕が嫌いだからだと言う。
それを聞くたび、僕だってソウバの事が大嫌いなのに、なのに何故なのか深い悲しみに襲われた。
そのうえ、”番”であることを拒否され、解消されている僕には、けれど変わらず発情期が訪れる。
本来であれば、番がいれば、発情期は来ないと聞くのに。
ソウバが率先して僕の相手をしてくれたのは、最初の一週間だけだ。
あの直後を除いた今となっては、めったにない。
僕にあきたのかもしれないと思えば、絶望感がある。
大嫌いだと言うのに、もう体はソウバの事しか考えられない。
僕は、熱い体を持て余して、感情は抗うと言うのに、ソウバと顔を合わせればそのたびに、懇願していた。
「お願いだから、触って……」
ソウバの大きな楔に、最奥まで貫かれたい。
めちゃめちゃにされたい。
激しく突かれたい。
だがそれは叶わない。
「断る。汚らわしい」
僕は何時も放置され、その上、発情期など関係なく、Ωの体が好きな同性のお客様に抱かれては、満足感を得られない日々を過ごしていた。
そうしながら、ひたすらソウバの気が向くのを待った。
「仕方がないな、来い。抱いてやらないことも無い」
「っ……」
心は嫌でも、もう僕には、体を統制することは無理だった。
四つん這いで後ろから突かれて、前を擦られる。
ぐちゅぐちゅと陰茎の先端を親指の腹で嬲られて、突き上げた奥を揺さぶられる。
後孔は蜜と精で濡れ、自身の陰茎の先端からは先走りの液がこぼれていた。
「あ、あ、あ」
「どうだ?」
「ンアあ――!!」
「人の言葉を話せ。下等なΩになっても、それくらいできるだろう?」
――もう何と言われても良かった。
今でもマナセの事が好きだが、きっと身体的には、もうソウバじゃなきゃダメだった。
あの氷のような瞳で見つめられるだけで、恋や愛なんて言う感情を突き抜けて、精神の奥深くで繋がっているような気がするのだ。
これが、番なのか。
力の抜けた体で、額をソウバの胸に押し付けて考える。
――どうしてよりにもよって、ソウバなんだろう。
体に心が追い付かない。
ただ思い返せば、それは”怯え”という形をとっていたけれど、ずっと、そう、僕の内側にあったものなのかもしれない。
物心がつき、きちんと出会ってからは、いつもソウバに絡め捕られようとしていた。
何なのだろう、この感覚は。
嗚呼、番か。
ソウバがマナセを連れてやって来たのは、そんなある日の事だった。