07



 僕は、枕におでこを載せて、両手を首の下においた。
 シーツの上でうつぶせになり、目を伏せる。
 直衛の手は、すぐに僕の腰に降りてきた。

 やはり、非常に上手い。僕は腰もこっていたらしく、グっと押されると、気持ちよすぎて息を詰めてしまう。

「気持ち良いか?」
「うん」
「もっとして欲しいか?」
「うん」

 頷きながら、僕は穏やかな気持ち良さに、完全に気を許していた。
 ――だから、いつから手つきが変わったのか、気付かなかった。

「っ……」

 脇腹を撫でられた時、トクンと体の奥が熱くなった。
 うろたえた瞬間、骨盤をギュッと押され、背をしならせた。
 それから直衛は、僕の尻を撫でた。え。それに気づいた時、やっと我に返ってポカンとした。これは、あれ? マッサージ……?

「あ、あの、直衛」
「なんだ?」
「そろそろ、大丈夫、だよ? も、もうマッサージしなくて平気だ。ありがとう」
「――そうか」
「!」

 起き上がろうとした時、腕を惹かれて、僕は体勢を崩した。
 そしてベッドの上で、後ろから抱きすくめられた。
 直衛の顎が僕の肩に乗る。髪の毛が僕の頬をくすぐった。
 その体温に、僕はびくりとしてしまった。

「ひっ」

 驚いていたら、首筋を舐められた。思わず声を上げると、今度は舌で、耳の後ろ側をなぞられた。ゆっくりと舌が動くたびに、背筋をゾクリとしたものが這い上がってくる。

「舐めても良いか?」

 もう舐めているくせに、直衛が僕の耳元で囁いた。
 その吐息に、体が震えた。僕の答えは決まっている。

「ダメだ。離して!」
「ちょっとだけ」
「だからダメだって」
「指だけ」
「え?」
「綺麗な手だな。ノートを取る時、ペンを持つ手をずっと見ていた」

 直衛はそう言うと、僕の右手の手首を取った。
 そして自分の口元まで僕の指を近づけると、側面を静かに舐めた。
 びくりとしてしまった瞬間、直衛の舌が、僕の人差し指と中指の間を舐めた。

「指だけだ」
「え……待って、こんなの――」
「指以外も期待してるのか?」
「そんなわけないだろう! 指だけ! 絶対に指だけだから!」

 勢いで僕はそう言って、それからはっとした。指だって拒否すべきだった。
 直衛が喉で笑った。
 それから、丹念に丹念に僕の手を舐める。右手が終わると左手。指自体を口に含んでしゃぶる場合もあれば、手首を強く吸うこともある。

 そのうちに僕は、そうしながら僕を見る直衛の視線に気づいた。
 どんな顔をしていれば良いのかわからなくなって、思わず俯く。
 我ながら頬が赤くなっているだろうと思った。なにせ熱い。

 ――体を反転させられて押し倒されたのは、その時のことだった。

「え?」
「次は、足」
「な」

 驚いているうちに、僕は靴下を脱がされた。

「っ」

 そして、足の親指を口に含まれた瞬間、のけぞった。
 手で足首を持たれていて、動かせない。
 それから指と指の間を舐められるうちに、僕は腰が震えそうになることに気がついた。

「あ、足は、ダメだ」
「どうしてだ? 指は指だろう?」
「だ、だって」
「なんだ?」
「……っ」

 なんて言えば良いのかわからなかった。
 ぴちゃぴちゃと、水音が響いてくる。舐め上げるたびに僕を見ている直衛の瞳。
 ゾクリとした。

 それから、指を一本一本舐められた。僕は震えた。
 これは、やっぱりダメだ。
 思わず僕は足を引いた。膝を折って、無理矢理直衛の前から足をどけた。

 そして壁際に後退して背を預けた、その時――ずいと直衛に詰め寄られた。
 これでは膝が閉じられない。どころか後ろは壁で、前には直衛だ。
 身動きができない。

 そう気づいた時、真正面に、本当に端正な顔があることを理解した。
 僕を覗き込むようにして、直衛の顔が近づいてくる。
 唇と唇が触れ合いそうな距離で、直衛が動きを止めた。

 直衛が、僕の顔の両側の壁に、トンと手を付いた。
 そうして挟まれるようにされ、それから改めて顔を近づけられた。
 ――逃げられない。

 形の良い唇が近づいてくる。
 どうしよう――どうしよう、まずい、空気に飲まれる。

「ンっ」

 そのまま僕は、直衛とキスをしてしまった。
 深く口づけられて、思わずきつく目を閉じた。
 僕は思わず震えて、直衛の腕の服をギュッと握った。
 すると、直衛が我に返ったように目を開けた気配がして、唇が離れた。

「悪い――これ以上いると抑制が効かなくなりそうだ。帰る」

 直衛は、そう言って、すぐに玄関から出ていった。
 それを見送りながら、僕はぼーっとしていた。
 キスの後から、ずっとだ。

 そして――……カメラの存在を思い出した。
 目を見開いてから、天井を見上げる。そこにはいつもどおり、カメラがある。
 カッと顔が熱くなった。

 直衛とのキスを不特定多数の人が見ていたかもしれないのだ。
 思わず両手で唇を覆う。頬が熱かった。