10
僕は、人生で初めて、同性の性器をまじまじと直視することになった。
恐る恐る、既に半分ほど勃ちあがっている直衛の陰茎に触れる。
手で、良いのだろうか。良くないのだろう。直衛の瞳が、さっさと咥えろと語っている気がした。僕は唾を飲み込む。それから――意を決して口に含んだ。
以来だった。
数日後から、仕事が一段落したとのことで、直衛が再び家にやってくるようになったのだが、僕と直衛は、互いに口で抜き合うようになったのである。一人では恥ずかしいが、二人ならば恥ずかしくはない――そんな直衛の言葉を、僕は、自分で自分に信じ込ませるように、内心で何度も繰り返している。
大学構内でもひとりでいる時間は格段に減り、ほとんどずっと直衛と二人だ。
だから飛んでくる視線も、僕だけを見ているわけじゃないと思えた。
――この日も、僕は直衛のものを咥えた。
先に咥えていても、恥ずかしいことに、最近の僕は触られる前に勃起してしまう。
これは、直衛を果てさせれば、すぐに自分にも快楽が待っていると気づいてしまったからだ。自分が気持ちよくなりたいから、直衛を気持ちよくさせているのか、それとも自分が気持ち良いから直衛にも気持ちよくなって欲しいのか、最近自分の感覚がよくわからない。そんなことを考えていた、その時だった。
「!!! ン!?」
なんと、直衛が僕の後ろに指を押し込んできた。
僕の陰茎からたれた先走りの液を指ですくった直衛が、それをそのまま突っ込んだのだ。
驚愕して目を見開いた。
「入れてもいいか? 指だけだから」
「もう入ってる……!」
思わず抗議した。すると、苦笑するように、直衛が指を抜いた。
そして、一度手を拭くと、ポケットから四角いゴムの袋を取り出した。
驚いて僕が見ていると、封を切って、直衛はそれを二本の指にはめた。
甘い果実の匂いがする。
見守っていると、直衛が今度はポケットから、小さなプラスティックの瓶を取り出した。
「それ、なに?」
「ローションだ」
「どうしてそんなの持ってるんだ?」
「常に持ち歩いている。お前といつどこで何があってもいいように」
僕は何も言えなくなってしまった。
そんな僕の前で、ゴムをつけた指の上に、直衛がだらだらとローションを垂らした。
「ベッドの上で四つん這いになってくれ」
「……」
「その体勢で、俺のを舐めて欲しい」
「!?」
直衛の要求に、僕は頭を殴られたような衝撃を覚えた。
「っ、ぁああっ」
だが、言われた通りに実行している自分の流されやすさ、快楽への弱さの方に、さらなる衝撃を受けていた。
直衛は、二本の指をゆっくりと僕の中に進めている。
そして丹念に慣らしている。
緩慢に抜き差ししたり、輪を描くように動かしたりしているのだ。
その感覚にビクビクしながらも、僕は69の体勢で必死に直衛の陰茎を口に含んだ。
――この日からは、これが通常になった。
僕達は、部屋へと戻ってくると、いつもベッドの上で逆になる。
僕は直衛の陰茎を舐めあげて、その間直衛は僕の後ろをゆっくりと指で暴く。
そして直衛が果てる頃、やっと僕は前を触ってもらい、果てることができる。
さらにこれを――監視カメラが見ているのだ。
僕は時折カメラを見上げては、意識して恥ずかしくなった。
誰かが、僕と直衛を見ているのだと思うと、羞恥で全身が熱くなるのだ。
前立腺の快楽を知ったのは、そんなある日だった。
「ああああ!!」
直衛の指先が、ある日そこを突き上げたのである。
僕は声を上げた。自然と出ていた。驚くほど高い声だった。
はじめ、直衛も驚いたようだった。だが直後――意地悪く笑う気配がした。
「あ、あ、あ」
「ここか」
「うあっ、あ」
そこを突かれると頭が真っ白になった。
膝で立っていられなくなりそうなほど、太ももが震える。
涙ぐんだ僕には構わず、直衛は重点的にそこを攻めた。
翌日から――僕は、直衛にフェラをしなかった。
かわりに、最初から最後まで、ずっと直衛に指をつっこまれていた。
直衛の指の太い関節を、ありありと内側で感じた。
次第に、後ろをいじられるだけで、僕の前はそそり立つようになった。
シビられるような感覚が全身を支配し、イきそうになる。
直衛はいつも、ゆるゆると指を抜き差しした後、僕の最も感じる場所を激しく突き上げるのだ。
「ああああああああああああああ」
そしてついにこの日、僕は後ろを刺激されただけで、果ててしまったのだった。