11
僕は、ついに後ろの快楽を覚えてしまったらしい。
若干憂鬱な思いで、講義に臨んだ。隣には勿論直衛がいる。
一瞥すると、真面目な表情で頬杖をついていた。何かを考えている瞳だ。
仕事のことだろう。真剣だったから、僕はそう思っていた。
だが、違うと、帰りの車の中で気づいた。
「今日、ずっと悩んでいたんだ」
「何を?」
「言おうかどうか」
「だから、何を?」
「晴佳――……その」
「うん」
「挿れたい」
「っ、げほ」
続いた声に、思わず僕はむせた。見れば、直衛が少し照れていた。
僕は完全に赤面状態だ。
「それと」
「う、うん……」
「俺はお前を好きだと言っただろう――だから、その、そろそろ」
「……」
「返事を聞かせて欲しいんだ」
僕は言葉に詰まった。
考えてみると、僕はここまで快楽に流されてきているが……――正直わからない。気持ちが良いのは間違いないのだが、果たしてそれは、誰が相手であっても良いのか否か、最近僕は悩むのだ。直衛以外と致している自分が、上手く想像できない。
というのも最近、視聴者(?)から、自分とも試してみないかと、ひとりの時に声をかけられることがあるからだ。直衛の不在時を見計らうようにして。
僕の中で、男同士で何かを試すなどありえないのだ。
だからもちろん断る。
だが――直衛が与えてくれる快楽は、正直、もっと欲しいほどだった。
断れないのではなく、最近では自分が欲している気がした。
快楽が欲しいというよりも、直衛が欲しい――とすると、これはつまり、僕は直衛のことが好きなのだろうか、と、考えて僕は最近悩んでいる。
「無理矢理、抱きたいわけじゃないからな」
「……僕は、あの」
直衛に抱かれてみたいと思っている。そう口走りそうになって焦った。
「嫌じゃない……」
なんとかそれだけ答えた。すると直衛が、シートの上で、僕の手を握った。
「――そうか。今は、それで十分すぎる。抱かせてくれるか?」
「……うん」
僕は、小さく頷いた。頬が熱くなってきたから、目を伏せた。
――そして、車中での自分の思考を、現在死ぬほど後悔している。
「やだ、やだ、やだって、やめてくれ直衛!」
僕はシャワールームで、両腕を拘束されて、足をM字に開脚させられていた。
入室時から何に使うのか不明な代物が天井にあるとは思っていたのだが――なんとそれは、拘束用具だったのだ。そして何故直衛がそれの存在を熟知していて、使い方もばっちりなのかも僕にはわからない。
「挿れるためには必要なことだ」
「だ、だからって!」
僕は、天井のカメラを見上げた。全裸で拘束された僕を、無情にも見下ろしている。
「浣腸しないと、挿入できない」
直衛の声に、僕は涙ぐんだ。
ずっと抵抗していたため、僕は拘束されるに至ったのである。
今ももがいているのだが、拘束具が音を立てるだけだ。
「う、ううっ――!!」
直衛が、人肌に温めた浣腸を僕の中に入れた。ああ、入ってくる……!
全身がざわりとした。
「前に人前でこういうことしないみたいに言ってただろ!」
「別に調教しているわけじゃないだろう? 必要なことだ」
「っ、あ、お腹、うあ……」
全て注ぎ終えると、直衛が僕の頭を撫でた。
「少しの間、我慢しろ。ついていてやるから」
「待って、むしろどっかいって、僕、トイレに行くから!」
僕は、直衛と監視カメラを交互に見ながら叫んだ。
このままでは、この体勢では、出るところがバッチリと映ってしまう。
そんなのには、耐えられない。そう考えていたら、次第にお腹が痛くなってきた。
「や、やだ、直衛、早く話して、トイレ、ね、ねぇ」
「もう少し我慢だ。まだ出すな」
「っ、っ、ン」
僕は全身に力を込めた。そうしないと出てしまいそうだったのだ。
腹痛は不思議とすぐに消え、逆に出てしまう恐怖が強くなった。
そう思うと今度は痛みが襲って来る。痛みに集中していると出そうになる。
わけがわからなくなって僕は泣いた。
「やぁああっ、あ、あ、あ、直衛、直衛っ!!」
もうだめだと思った直前で、拘束具から解放された。
僕は反射的にトイレに向かって走った。
幸い真横だ。
一人でトイレを済ませながら、涙を拭う。
尊厳を奪われた気分だ。最悪のパターンは避けられたけれど。
しばらく放心状態で、僕はトイレに座っていた。
何度も肩で息をしてから、僕は意を決して外へと出た。
そしてシャワーを浴びた。頭からお湯をかぶり、冷静になろうとつとめた。
そこから出ると、ベッドに座っていた直衛が歩み寄ってきた。
うつろな瞳で俯いた僕を、彼は正面からバスタオルを持って、抱きしめた。
「よく頑張ったな」
「……」
「すぐに慣れるからな」
直衛のそんな声に、慣れてたまるかと内心で毒づいた。
だが――それは事実で、僕は以後、頻繁に体の中をキレイにすることになる。
無論、直衛を受け入れるために。