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 なお、初めてのセックスは、非常に気持ち良かった。
 最初こそ痛かったものの、じっくりと慣らされていたのもあるし、その日も慣らしてから挿入されたから、切ない痛みすら快楽に変換された気がした。


 今日は――後ろから抱き抱えられて、乳首をいじられている。
 僕の前は、それだけで勃起しだらだらだ。
 気持ち良くて体を震わせながら、僕は天井を一瞥した。
 そして、これまでの食堂での出来事を思い出した。

 それは、最初のセックスの翌日だった。

「おめでとうございます、直衛様」
「ついに! やったな、三澄様」
「さすがは直衛だ、友人として誇らしいよ」

 あの日、恥ずかしくて直衛の顔が見られないだなんて思っていた僕は、思わぬ事態に遭遇したのである。なんと、食堂で囲まれたと思ったら、口々に直衛と僕の初めてを祝福されたのである。実はこの日までの間は、直接的に、直衛との性的接触について誰かが触れてきたことはなかったのだ。だが、この日は違った。

「いやぁ、あの息遣い――」
「泉水の宮の蕩けるような瞳――」
「直衛様の巧みな指先の艶っぽさが――」

 まるで、何かが解禁されたかのように、人々は一斉に僕の痴態を口に出したのである。
 僕は硬直した。すると僕を抱き寄せた直衛が微笑んだ。

「直衛、これ」

 思わず僕は小声で聞いた。直衛は、僕の腰を艶かしく撫でながら吐息していた。

「一度誰かが暴けば、宮を愛でる言葉を放っていいことになっているんだ。晴佳を最初に暴いたのが俺で、本当に嬉しい。もちろん、俺以外を今後も認める気はない」
「っ」
「つま先から、髪の毛先の一つ一つまで、みんながお前を見ている。ただ、触れられるのは俺だけだ。それで構わないだろうな?」

 直衛はそう言うと、僕の首を、人前で噛んだ。
 歓声が上がった。うろたえていると、その場で下腹部を撫でれ、僕は直衛にしがみついてしまった。あの日から――僕は毎日直衛と体を重ねている。


 ――それから体勢を変えられて、ねっとりと焦らされた。
 僕の方の快楽だけを、直衛は煽ってくる。
 そしてよがる僕を、カメラ越しに人々に見せつけるのである。

「あぁっ」

 僕は優しく突き上げられて、果てた。腰がブルリと震えた。
 そして次の瞬間、シーツに押し付けられるようにして、バックから挿入された。
 一度僕をイかせた後の直衛は激しくなる。
 そこからは、獣のように交わった。
 肌と肌がぶつかる音がして、ぐちゃぐちゃと中をかき混ぜられる。
 気持ち良すぎて僕は泣き叫んだ。

「誰のが入ってる?」
「直衛の、っ、あああああああああ!!」

 カメラがしっかりと音声を拾っていることを知りながらも、僕は嬌声を上げた。
 もう気にする余裕なんて、どこにもないのだ。
 快楽の本流に飲み込まれないようにするのが精一杯だった。
 僕のそんな声に、直衛がさらに一段と激しく動いて、熱を放った。
 汗で張り付いた髪を、僕は振り払う気力もなく、ぐったりと寝台に体を投げ出したのだった。

 こうして、僕はセックスにのめり込んでいった。
 太ももを持ち上げて突き上げられるのが、特に好きだった。
 直衛は、監視カメラに、僕達の結合部分がはっきりと映る体勢が好みらしい。

 見られている――その事実。
 それは、次第に、僕の体を熱くさせるようになった。

 大学を歩くと、性的な視線が、今では以前の比ではなく沢山飛んでくる。
 僕を舐め回すように見る人も多い。
 食堂では、直衛にシチュエーションをリクエストしている人までいる。

 みんなが、僕の痴態を見ているのだ。直衛に乱される僕を。


 その内に――だんだん直衛とのセックスが激しくなった。
 そうするのを止められなかった。
 僕は、気づくと、直衛に自分からキスをしたりして、なにかと積極的になっていた。

 今も直衛のネクタイを自分から解いている。
 これは、体が快楽を求めているからじゃない。
 監視カメラを一瞥しながら、僕は直衛を押し倒してベルトを抜いた。
 そしてフェラをしながら、自分がどのように映っているのか考えた。

 筋を舐め上げながら、きっと艶かしいだろうと、想像する。
 僕はいつしか――見ている人々を、もっと感じさせたいと思うようになっていた。
 意識していた。誰が見ているのかはわからないというのに、それでも。

 そして道を歩くたびに、すれ違った誰かが、僕の痴態を見て、夜な夜な自分を慰めているのではないかだなんて考えるようになったのだ。明らかにどうかしている。それはわかっているのだが、それでもこの空想を止められなかった。

 ――ただし。

「あっ、あ、直衛!!」
「……っ、ふ」
「直衛、ぅあ、気持ちいっ、ああ!!」

 あくまでもそれは、直衛がいてこそだった。
 直衛に感じさせられている僕――それが大前提である。
 僕と直衛の行為を見て、感じる誰かを妄想しているのだ。

 それは――いびつだとは思うのだが、僕だけではなく、直衛も気持ち良いからこそ、誰かがそう思うはずなのだと、勝手に考えているからである。

 直衛の荒い吐息が僕にかかる。僕は、直衛の肩に両手をのせて、腰を振った。
 僕の腰を両手で支え、直衛が瞬きをする。
 彼の腹に自分の陰茎をこすりつけるようにして、その日僕は果てた。

 ――直衛が、きちんと気持ち良いと思っていると良いなと思いながら。