【第一話】大学一年生の夏




 夏は暑く、冬は寒い。それが盆地の欠点だ。
 大学に進学して、早三ヶ月。劈くような蝉の鳴き声に耳を傾けながら、粕谷昼斗は、ローテーブルの上のノートパソコンを起動した。提出期限が迫っているレポートの課題がある。暑くてやる気が起きないなと天井間際を見上げれば、そこでは白い空調が冷たい息を吐きだしていた。

 壁を一つ挟んだ隣室では、両親が雑談をしながらテレビを見ているのが分かる。
 もう少し自室の壁が厚ければよかったと、昼斗は昔から考えてきた。
 溜息を押し殺しながら、昼斗はパソコンのモニターを一瞥する。
 そこには湖の画像が映し出されていた。

 近所にあるダム湖の風景だ。
 水面には、鏡のように山が映り込んでいる。
 昼斗は、水が好きだ。実はまだ生まれてから一度も海には出かけた事はないが、きっと好きになれると、そう感じている。

 地鳴りのような音が響いてきたのは、その時の事だった。
 目を瞬かせた昼斗は、何気なく窓を見る。
 直後、右手にあった壁ごと、窓が瓦解した。