【第二十九話】行きたいところ






「義兄さん、もう朝だよ。起きて」
「ん……」

 翌朝、昼斗は揺り起こされた。最初は、自分が何処にいるのか混乱した。ぼんやりと目を開けていると、頬にキスをされる。そこで、昨夜長々と交わっていた事を思い出し、昼斗は一気に覚醒した。

 身支度を整えて食卓につけば、そこにはパエリアがある。既に朝というにも遅い時間に差し掛かっていた。本来は昨夜食べるはずだった品を囲んで、二人は対面する席に座る。

「いただきます」

 手を合わせてから、昼斗は皿を見た。すると珈琲を飲んでいた昴がカップを置いた。

「ねぇ、義兄さん」
「なんだ?」
「何処か行きたいところはある?」
「え?」
「体が大丈夫なのは、昨日じっくり確認させてもらったし、これから三日間はお休みだから」

 昴の言葉に、昼斗は目を丸くしてから、瞬きをした。
 入院明けであるから、通常の任務に戻る前に、三日ほどの休暇を与えられていた。
 それは昼斗の監視を担当している昴も、同じであるらしい。

 だが過去の休暇は基本的に、家で寝て過ごしていた昼斗は、咄嗟には思いつかない。近年は休暇時の自由も増えたが、それ以前のパイロットになりたての頃などは、基地から出る事すら許されなかったというのもあり、いつHoopが出現するかも分からない現状において、外出するという発想も、普段からあまり持ち合わせてはいなかった。

「行きたいところ……」
「俺としては、たまには外でデートをするのも悪くないと思うんだけどね?」
「デ、デートって……」
「違うの?」
「……」

 恋人であるかのように笑う昴を見て、頬が熱くなってきた昼斗は、顔を背けた。いちいち心臓に悪い、?義弟?である。しかしデートだというのであれば、果たしてどこが良き先としてふさわしいのかと、そう考えてみるが、昼斗はやはり何も思いつかなかった。

「適当に街へ出てみようか?」
「あ、ああ……」
「じゃあ、そうしよう」

 こうして二人は出かける事になった。