【第三十話】車窓から見つける







 流すように車を走らせている昴の隣の助手席で、行きたいところ、行きたいところと念じながら、昼斗は街並みを見ていた。考えてみれば、基地から外出した経験もほとんどない。基地はある種の一個の完成された街でもあるから、外出せずとも事足りるというのも大きい。

 既に紅葉は終わっていて、遠目に見える山は緑か茶の色彩を纏っている。この北関東都には雪が降るから、もう少しすれば白銀の衣を纏う事だろう。遠目には、海が見える。しかし若かりし嘗ての頃とは違い、昼斗は海は嫌いだ。

「ん」

 その時、海の方角に、観覧車が見えた。

「どうかした?」
「あれは……? 観覧車……?」
「ああ、北関東テーマパークの? 半年前に完成したらしいね。世情が世情だから、少しでも楽しめる場所をという計画で、軍も援助したと聞いているよ」

 正面を見たままで、昴が答える。テーマパークには、結局生まれてからまだ一度も出かけていない昼斗も、北関東テーマパークの名前だけは耳にした事があった。新聞で見たのだったと思い出す。

「行ってみる?」
「え? お、大人二人で、か?」
「何か問題があるの?」
「……いや」

 遊園地のイメージは、子連れや恋人同士が遊ぶ場所、というのが昼斗の頭の中にはあったけれど、やっとこちらに視線を向けた昴は微笑しているだけだったから、昼斗は軽く首を振って誤魔化した。

 そのまま車が左折し、北関東テーマパークの駐車場へと向かう。近づいてくる大観覧車を見上げながら、本日の曇天の空もまた昼斗は視界に捉えていた。平日の昼下がりという事もあり、駐車場は空きが多く、難なく停車した後、二人は入場ゲートまで向かった。当日券を二枚、昴が手際よく購入して、微笑しながら片方を昼斗に差し出す。

「行こうか」

 受け取り、昼斗は昴の言葉に頷いた。ゲートを抜けると、正面には風船を配っている着ぐるみのウサギがいて、ポップコーンの出店が見えた。突き当りには、メリーゴーランドがある。Hoopによる災禍のせいで、校舎のある学校が閉鎖されて久しく、児童・生徒は主にリモートで義務教育を受けるこの時代にあっても、平日は真面目に勉強をする子供が多く、園内の客は家族連れよりも恋人同士が多い。やはり場違いな気がしつつも、昼斗は歩く。全てが、物珍しい。昼だというのに、点った電飾が煌びやかに輝いている。

「どのアトラクションに乗る?」

 メリーゴーランドの柵の前で立ち止まると、昴に訊かれ、昼斗は顔を上げた。薄手のコートのポケットに、左手を入れ、暫しの間考える。ゲート出受け取ったパンフレットを右手で持ち眺めてみるが、初めて来たものだから、名称を見ても、それがどんな遊具なのか皆目見当もつかない。唯一分るのは、それこそ観覧車くらいのものだ。そう考えて、昼斗はチラリとゴンドラの方へと視線を向ける。

「大観覧車が気になるの?」
「あ、その……乗った事が無くてな」
「ふぅん。じゃ、それを乗りに行こうか」

 唇の端を持ち上げて、昴が歩き始める。慌てて昼斗は、その後に従った。