【第三十六話】午後の訓練
午後は訓練フロアに行く事になり、昴からもそこで合流しようと連絡が着たので、昼斗は保と共にエレベーターに乗った。そして最上階で降りると、既にそこには昴の姿があった。顔を上げた昴は、降りてきた二人の姿を見ると、双眸を細くした。
それを目にした昼斗は首を傾げたが、一瞬の事で、すぐに昴は笑顔になり、二人の元へと歩み寄ってきた。
「遅かったね、義兄さん。それに円城少佐」
「休憩時間は可能な限り休むと決めてるんでねぇ、瑳灘大佐」
へらりと笑った保は、隣から昼斗の肩を抱き寄せた。昼斗は何気なく、保の顔を見る。
「ちょっと距離が近いんじゃない?」
「んー? 俺と昼斗はいつもこんな感じですけど?」
「義兄さんから離れて」
「なんで?」
若干苛立つような顔をしている昴に対し、へらへらと保が笑いかける。
すると昴が、昼斗をじっと見た。
「――昼斗。こっちに来て」
「あ、ああ?」
頷いて、昼斗は保の腕から抜けて、昴の前に立った。すると昴が昼斗の腕を引き、不意に抱きしめた。
「っ」
さすがに人前で抱きしめられた事など無かったから、露骨に昼斗が赤面する。
そんな二人を見て、保が驚いたように目を丸くした。
「円城少佐。義兄さんに近づかないでもらえる?」
「す、昴! 何を言って――」
「何って? 本音だけど?」
昴が昼斗の目を見る。昼斗は困惑と羞恥が綯い交ぜになり、反応に困った。
「あれ? そういう? 二人って、そういう……?」
すると保が虚を突かれたような顔をしてから、驚いたように声を出した。
なにが、『そういう』なのかは分からなかったが、いよいよ昼斗は真っ赤になった。
昴は無言だ。ただ唇だけに笑みを浮かべている。
「誰とどう接するかを、俺は他人の指示でなく自分で決定するが――え? そういう?」
「分かったんなら、近づかないように」
こうして、午後の訓練が始まる事となった。