【第六十五話】腕の温もり





 退院し、マンションへと戻ってきた昼斗は、チェストを見た。写真立ての中では、光莉が笑っている。その背から、そっと昴が昼斗を抱きすくめた。

「なぁ、昴。そういうのは止めろ」
「俺に抱きしめられるのは嫌?」
「違う。俺はお前が好きだ。だから――辛いんだよ」
「俺も昼斗の事が好きだよ」
「同情しなくていい」

 義弟は優しいからなと思い浮かべて、昼斗は苦笑しそうになった。すると昴が、昼斗の体を反転させて、正面から抱きしめた。

「昴、気を遣わなくていい」
「遣ってないよ」
「じゃあ、どうして俺を抱きしめるんだ? 俺の気持ちを知っていて、今の状況だから――」
「抱きしめたいことに理由はいるの? 理由を述べるなら、それはそれで簡単だけどね」
「昴?」
「言わないと分からないの?」
「何が?」
「馬鹿。馬鹿だよ、本当。俺がどれだけ愛してるか、気づいてない」

 昼斗の体を抱きしめて、昴が吐き捨てるように述べた。だがその意味を、昼斗はすぐには理解出来なかった。だから回る昴の腕に両手の指で触れ、何度か瞬きをする。

「だから……気を遣う必要はないんだぞ……?」

 必死で昼斗がそう告げると、昼斗の両肩に手を置き、昴が、触れるだけのキスをした。
 その感触に、昼斗が目を見開く。

「違う、本当に好きなんだ。もう信じてもらえないかもしれないけど」
「!」
「酷い事をいっぱいしたと、自覚してるよ。でも――昼斗が大切なんだよ」

 そう言うと、昴の腕に力がこもった。

「愛してる。ああ、馬鹿みたいだな。こんな風に伝えるつもりなんてなかったのに」