【6】満月の創造(☆)


 目を覚ますと、俺は口に布を噛ませられていた。
 どういう状況かわからないでいた時――不意に体の内側で振動している何かに気づいた。非常に小さい卵型の何かが、俺の感じる場所を突き上げるように刺激していて、その状態でさらに振動していた、

「ン――――!!」

 俺は悲鳴をあげたのだが、布のせいで声が出ない。
 だが、近くの椅子に座っていた皇帝陛下が気づいてくれた。

「快楽で舌を噛まないようにしてある、我慢してくれ」
「っ、ふ」
「卵が無事に宿ったらしい。卵の糧は性器から流れ出る蜜であり、アスナの場合は白液だ。それを欲して卵が前立腺を刺激する。しかし、慣例として、産むまでは与えてはならない。だからリングをはめてある」
「!」

 その言葉で、俺は陰茎の根元を戒められていることに気がついた。

「次の満月までの辛抱だ。卵が孵って種子が芽吹けば、あとは糧を与えるだけとなる」
「っ、ん、ゥ……」
「案ずるな、別に出産するわけではない。次の皇帝となる魔力を創造するだけだ。既に子の器はできている。幾人かの側妃が代わりに子を宿して産む。その者に、卵を摂取させるだけだ」

 俺は、何を言われているのかよくわからなかった。ただただ体の奥が熱く、激しく快楽を煽られ続けるのが辛い。その後、皇帝陛下が出て行った。残された俺は、ただひたすらに、何度も前を放っていないのに果てた。強制的に果てさせられた。


 そして、一ヶ月が経つ頃には、何も考えられなくなっていた。

 ただただ快楽だけを感じていた。その間皇帝陛下が顔を出すこともなく、俺は振動する卵に与えられる快楽だけに満たされ、涙した。気持ち良かった。もう、どうでも良くなりつつあった。快楽だけが、俺の意識に浮かんでいた。それ以外の思考は、靄がかかってしまい、上手く意識できない。


 皇帝陛下が次に訪れた日、俺は満月なのだろうとぼんやりと思った。

「よし、もう良いだろう、芽吹かせろ」
「う、あ」

 口布を解かれ、俺は涎をこぼした。その時――体の内側が急に温かくなり、そして、

「うああああああああああああああ」

 何かが俺の内側に染み込んできた。絶叫した時、それが俺の尿道を犯した。
 行き過ぎた快楽に無我夢中で首を振る。
 皇帝陛下が、俺の根元の戒めを外した。
 瞬間俺は果て、同時に何かを外に出した。ぐったりとしながら一瞥すると、細い意図のようなものが見えた。なんだろうか? 首を傾げた時、ゼル様がそれを引いた。

「いや、いや、あああああ!」
「卵を外に出さなければならない」
「ん―――っ!!」

 糸のような何かが、尿道を通って行き、その度に尋常ではない快楽が生まれた。

「あ」

 そしてそれが抜けた時、糸に絡みつくように光がもれ、それが収束すると、白い卵になった。金色の紋章が入っている。アザレアの紋章だった。皇帝陛下はそれを握ると、先ほど俺が放った白液の上に置いた。見ていると、卵がその上で振動し、その内にシーツが乾き始めた。朦朧としていた俺は、体の熱が一気に引いたおかげで、少しだけ冷静になっていた。

「……その卵を、どうするんですか?」
「次の皇帝となる子に宿らせる」

 具体的にどういうことかはわからなかったが、悍ましく思えて、俺は両腕で体を抱いた。力は相変わらず入らない。その時、優しく皇帝陛下が抱きしめてくれた。その力強い腕に、俺は次第に現実感を取り戻して、そうしたら何故なのか泣いていた。

「この一ヶ月、アスナに会いたくて仕方がなかった。だが、合えば大切な体を傷つけない自信がなかった。誰の目にも見せたくないほど、貴方を愛している。ずっとここにいて欲しい」

 俺は静かに頷いていた。俺も、皇帝陛下が好きらしい。腕の中にいると安心する。
 ゆっくりと髪を撫でられるのを、静かに目を伏せて俺は甘受していた。
 その日は皇帝陛下の腕の中で眠った。






 ――第一皇位継承者のユース殿下が生まれたのは、その一年後のことである。
 赤い目をしていた。