【7】糧(★)



 アザレアでは、生まれた皇位継承権のある側妃の子供は、皆、正妃の養子になる。つまり俺の子供になる。もちろん俺が自分で産んだわけではないし、作ってもいないから、魔力の卵とは聞いていたが、俺の子供だという実感は全くない。

 子育てをするのは、乳母達だ。ただ……俺は、魔力を豊潤にするための糧を提供しなければならないらしい。そのため、蔦の玉座というものを与えられた。代々皇帝陛下が継承しているらしいが、閨で受け継がれて行く秘密だからと、ゼル様に俺はそれを与えられたのだ。

 この椅子は、豪華な蔓製の椅子に、多くの蔦が絡まってできている。
 座るとその蔦が、俺に絡みついて来て、体が拘束される。
 両手を腕掛けの上でグルグルと拘束され――足を大きく開いた形で、俺は座る。
 その足にも太ももにも、蔦が絡みついてくる。
 こうして身動きができなくなった頃、巨大な蔓が現れる。
 その蔓は生々しく、人間の肉茎のような姿をしているのだが、それは――俺に願望かららしい。この蔦の玉座は、座った者が糧、すなわち精液や愛液を多量に出せるよう、座ったものが望む快楽を読み取って与える代物らしいのだ。太く巨大な触手に、俺は日々貫かれている。その温度も形も大きさも、皇帝陛下のものによく似ていた。俺の体は、ずっとゼル様を求めているらしい。

「ぁ、ああっ、あ、あン……あ、はっ、う」

 俺は一人で快楽に喘ぎながら、日中を過ごす。
 俺の今の一番の仕事は、糧を生み出すことらしく、部屋から出ることはない。
 この蔦が吸い取った俺の糧は、第一皇子である赤い目の子供……ユース殿下の部屋の紋章に転送され、彼の部屋に魔力が溢れる仕組みらしい。

 このようにして、ドロドロに体を溶かされながら、俺は夜を待つ。
 ゼル様が来て、蔦から解放してくれる時を、俺はいつも待っている。
 それまでの間は、根元を戒められていて、果てることができないのだ。
 中にゼル様の白液と共に魔力を流し込まれた状態で初めて、糧が完全に完成されるのだという。日中の蔦の行為は、その下準備らしい。


「ああっ、ああっ、ゼル様!! や、あ、早く、ああああっ」

 その日やって来たゼル様は、俺の前に椅子をおくと、じっと俺を眺め始めた。
 最近よくある。俺は、悶える姿をゼル様に見られている。視姦されると羞恥が増し、俺は腰の動きを止めるのに必死になる。蔦からは、百合の香油そのものが溢れていて、俺の全身をグチャグチャにしていた。

 それから一時間ほどしてから、俺は解放され、激しくゼル様に貫かれて歓喜した。
 満たされた感覚の中で精を放った。


 この行為には、俺は愛があると思っているし、ゼル様も俺を大切にしてくれる。
 だからできれば普通に抱き合いたいのだが、今は同化した卵にとって大切な時期らしい。
 俺は皇帝の血を引いていると散々聞いているが未だにできないこととして、予知がある。 なんでもこの国の皇帝陛下というのは、予知ができるらしい。だからゼル様も、俺が不死鳥の王にさらわれた時、即座に助けに来られたのだと聞いた。ユース殿下にもその能力が発現するように、糧を与えているらしい。


 そのようにして――五年が経過した。

「霧の国と再び戦争が起こった」

 ある日、昼間にやって来たゼル様が、俺を抱きしめてポツリと言った。
 その言葉に、俺は目を見開いた。

「不死鳥の王は、死んだんじゃ……?」
「不死鳥は、何度でも蘇る。霧の国もまた、それに合わせて、何度も蘇るように集い出来上がる。各地に潜んでいた鳥どもが騒いでいる。今度こそ早期に討たなければならない」
「……危険なのか?」
「案ずるな。大丈夫だ。ただ、少し国を開けることになる。待っていてくれるか?」
「ああ。早く帰って来てくれ」

 俺がそう言った時、ガチャリとゼル様が俺に足枷をはめた。
 見ると、長い鎖が伸びていた。浴室やトイレも含めて自由に移動できそうな長さだったが、部屋の外に通じる扉には届かない。

「これは?」
「念のためだ、決してここから出ないでほしい。この部屋に、鳥が入れない結界をかけた。ここには、皇帝の血を引くものしか入れない。食事はそこの壁の棚に、外から使用人に入れさせる。心配するな」
「っ、あ、ああ」

 俺は少しぞくりとしたが、頷いた。まるで軟禁されているみたいだと感じたのだ。


 ユース殿下が訪れたのは、冬のある日のことだった。
 なるほど、皇帝の血を引いているから入れるのか。そう納得しながら、俺は五歳の少年を迎えた。

「抱っこ」
「しょうがないなぁ」

 苦笑して俺は、少年を膝の上に乗せた。ベッドの上で、ユース殿下を抱きしめる。
 久方ぶりの会話が嬉しかった。

「アスナ様は、良い匂いがするな」
「そうか?」
「ああ。壁の蔦の模様と同じ匂いだ」
「っ」

 その声に、俺は息を飲んだ。

「けど、父上が戦争に出られてからは、香りがしないんだ。甘い香りが」
「……」
「でも、でも、アスナ様から同じ匂いがする。欲しい」

 そういうと、ユース殿下が俺の胸に吸い付いてきた。
 赤子が母乳を求めるように、乳首を強く吸われた。何も出ないのだが……と、言いたかったが、俺は唇をきつく噛んだ。開発されきっている体は、今、欲求不満で敏感になっていた。だが子供の戯れに反応したなどとは恥ずかしすぎて、俺は必死で体を抑えた。子供だから押し返せるが、手荒に扱いたくなかった。同時に、足枷と鎖の位置が悪く、俺は動けなかった。

「ユース殿下、何も出ない、ダメだ、もう大きいんだから離してくれ、お乳を吸う歳じゃないだろう?」
「……」
「ぁ」

 その時軽く噛まれて、俺は鼻を抜ける声をあげてしまった。
 さらに、体の奥がジンと痺れたようになり、舐められている乳頭からはツキンと快楽が走った。そして――目を見開いた。

「あ、ああっ」

 出ていた、それは無論乳ではない、そう、言うなれば魔力なのだろう。
 いつか満月の日に創造した卵を引っ張り出されたときに感じたのと同じ、絶大な快楽が、この今、乳首から吸いだされようとしていた。これは、糧だ。糧を吸い出されている。

「あああああああああ」

 気づくと俺は叫んでいた。ユース殿下はずっと吸い続けている。

「いやあああああああ」

 そのまま俺は放っていた。ぐったりした時、ノックの音がした。外に声は聞こえなかったはずだが、丁度ユース殿下の帰宅時間になり、迎えの人間がきたようだった。トンっと軽い足取りでベッドから降り、ユース殿下は俺を見た。

 涙で滲む瞳で、俺もまた、ユース様を見た。
 少年の顔が、非常に――かつて図書館で出会った、人の姿を取っている時の不死鳥の王に似ているように思えた。いいや、そんなまさか。俺は、首を振る。

 こうして俺は、ユース殿下を見送った。
 その年、皇帝陛下は一度も帰還しなかった。