2:断る事は出来ない……。(★)
国策であるから――断る事はできないが、供給した場合、その相手に灰色魔術師は保護してもらえる。それは婚姻関係に準じる。公的に準配偶者という位置づけになる。
そうはならないように、灰色魔術師が魔力を売る花街が存在している。
そこで灰色魔術師を買う分には、何の責任も買い手は負わない。
俺は――あまり魔力売買が好きではないから、賞金稼ぎになったのである。貧民街とはいえ、花街の外で暮らしていれば、誘いは激減する。
「本気で言っているのか?」
思わず俺は聞き返した。すると大きくラスカが頷いた。
「服を着てもらった所悪いんだが、脱いでくれ……!」
「……」
俺は遠い目をした自信がある。しかし、断れば俺は街の警備騎士に拘束される事になる。そうなれば、花街での研修が待っている。納得して抱かれるまで、今度は他の客をとって”修行”させられる事になるらしい。
だが――俺は、この歳まで、未経験できた。正直、誰かに抱かれる日が来るとは思ってもいなかった。実は俺は、自分を不能ではないかと疑ってしまっている。今までに一度も勃起した記憶が無い。灰色魔術師は自慰を禁止されているから、自分で確かめようもないのだが、誰かが確かめてくれる事も無さそうだとこれまで思ってきた。
ただたまに思っていた。SEXとは、どのようなものなのだろうかと。
――しかし俺のようにいかつく不器量では、誰も抱く気も起きなかろう。
そう考えて、たまに一人で苦笑していたものである。それが、だ。
「いきなり何を……っ……ああ、分かった」
いきなり言われても困るわけだが、断る事も出来ないため、立ち上がって俺は服に手をかけた。簡素なベッドを一瞥する。ここで、するのだろうか? そう考えつつ全裸になった俺は、肌寒さを感じて、両腕で体を抱いた。
するとラスカが、俺のもとへと歩み寄ってきた。そして俺の手を強引に引き、そばの寝台に押し倒した。
「!」
そのまま唇を重ねられ、俺は驚いて目を見開いた。舌が入り込んでくる。そうして口腔を貪られた瞬間――俺の体に火がついた。
「ァ」
内側から痺れるように魔力が溢れ出してくる。それが快楽に変換され、唇を通して奪われていく。魔力が抜けるたびに、俺の体には、凄まじい快楽が走った。不能かどうか疑っていたのが嘘であるように、一瞬で俺の陰茎は反応し、そして俺はキスだけで果てていた。
「う……」
そのまま何度もキスをされ、その内に、果てるギリギリのラインを探られた。出せないのに達しそうな状態にされる。全身が震えて体の力が抜けた。
「挿れるぞ」
「――っ、うあ」
気づいた時には、中にラスカがいた。俺は無意識に寝台のシーツを握り締め、きつく目を閉じる。ぬちゃりと音を立てながら、めり込むように入ってくる。硬いラスカの陰茎が異常に太く感じた。ぐっと腰を進められて、奥深くまで貫かれる。年甲斐もなく俺は涙した。衝撃で息が詰まる。必死で唇を噛み、声をこらえた。
「あ、ああっ」
その時――今度は繋がっている箇所から魔力が抜けていく気配がした。
「嫌だ、あ、待っ――」
思わず制止の声を上げた時、ラスカが動き始めた。激しく抽挿され、俺は喉を反らせる。体が熱い。まるで全身が熔けていくような感覚だった。そしてまた俺は果てた。
「あ、あ、あ」
するとラスカが俺の前に手を伸ばし、扱きながら腰の動きを早くした。そうされると俺はもうダメで、子供のように頭を振る。髪が汗で肌に張り付く。皮膚と皮膚が奏でる乾いた音と、精液がたてる粘着質な音が、同時に響いてくる。
「――中に出して良いか?」
「だ、だめだ」
俺は必死に答えた。花街以外で中に出されると、魔術結界が無いから、出した人間の魔力で、自分の灰色の魔力が染められてしまう。そうなると、染めた相手にしか魔力が供給できなくなる。つまり、法的な意味合い以外でも、生涯寄り添わなければならなくなる。一度染められたら、定期的に魔力を抜かれないと体が熱くなると、俺は習った事があった。これは灰色魔術師の中では常識だ。
「では、良いというまでこのままだ」
「ひっ」
ラスカが、俺の中の一番感じる場所を突き上げた状態で、動きを止めた。頭が真っ白に染まる。何かがせり上がってきて、俺はむせび泣いた。まずい、何も考えられなくなる。ここまで来て、これでは脅迫ではないかと、やっと気がついた。
「待ってくれ、も、もう、頼む、抜いてくれ……」
俺はなんとかラスカの体を押し返そうとした。どこかで、俺は軽い気持ちで抱かれていたのだが、それを後悔した。強すぎる快楽が辛くて、俺は貪られている事実に混乱した。
「うあああっ」
その時、俺の中で快楽が弾け、俺は中だけで達してしまった感覚に飲み込まれた。視界がチカチカする。すると同時に大量の魔力を抜かれ、俺の理性は飛んだ。
「あ、ああ、あ、頼む、動いて、動いてくれ」
「――ああ」
「やあああ」
ラスカが動きを早めて、俺の中に放ったのは、その直後のことだった。