2:ダンジョン生成
僕は椅子に座り直して、気合いを入れた。
「≪ステータス≫」
そう口にすると、何故なのか僕には、ステータスが見えていた。勿論ステータスと同時に部屋の様子も見られるのだから、なんだか不思議な気分だった。視線を上から下におろしていき、≪ダンジョン生成≫を強く見据えた。
結構ポイント使うんだなぁと思いながら、残り250000かぁと思案する。
しかしダンジョンを生成しない事には、何も始まらない。
目をしっかりと見開くと、ステータス画面は消えた。
「≪ダンジョン生成≫」
はっきりとした声でそう告げると、天井のさらに上の方から振動音が響いてきた。
『ダンジョンが生成されました』
『クリエイトポイント残り250000です』
そして振動音が消えた直後、そんな電子音声が聞こえた。
するとモニターが、ついた。
小さいウィンドウには、洞窟の風景が映っている。
触れてみると、大画面にそれが映った。そして下部に説明文が現れた。
≪ダンジョン生成≫……Lv.1。消費クリエイトポイント『500000』。
『ダンジョン入り口(予定)/洞窟自体が、一年間誰にも見えません』
なるほどなと思いながら、他のウィンドウを見る。
『常闇の森/ダンジョン入り口の周囲です』
その下は。
今度は教会を映してた。そして触れてみる。大画面が教会に変わった。
『近隣の村の教会/このダンジョンで死ぬと、此処で復活します』
教会の前を走っている子供を眺めながら、ダンジョン以外も映るのかと不思議な気分になった。さらに他のウィンドウも見てみる。音声スイッチは切ったまま、次にほとんど真っ暗なウィンドウを押す。
『ダンジョン地下のB1』
四十畳くらいだろうか……いやもうちょっと広いかな、教室くらいだろうか。あれ、教室って何だっけ。まぁいいか。
とりあえずそれなりに広い部屋で、土の床、土の壁、土の天井だった。入り口には階段がみえる。階段単独のウィンドウがあるのでそれは分かった。
それとは逆の突き当たりに、木製の扉があった。それを開けると石造りの床・壁・天井の部屋があって、小さな宝箱が中央にあった。
なるほどあれに、ダンジョンの核であるという≪迷宮球≫が入っているのだろう。
しかしこのままじゃすぐに見つかってしまう。
見つかって壊されたら、僕は一年後、強制的に誰かと戦わなきゃならなくなる。
とりあえずあれをどうにかしようと、僕は緑の鉄製の扉を開けた。
すると、≪迷宮球≫が設置されている部屋に出た。
試しに宝箱を開けてみると、手のひらサイズの丸い球体が鎮座していた。真っ赤でルビーらしかった。きらきらと光り輝いている。それを持って、宝箱のふたを閉めて、僕はその部屋からダンジョン内へと向かった。
――どうしようか。何処か良い隠し場所はないだろうか。
木の葉は森に隠すんだっけ……だけど似たようなものなんてないし。
隠れんぼの時は人目につかない、そうだな、上の方に隠れたり。
そこで僕はハッとした。
このダンジョンは暗いし丁度良い。
「≪迷宮作成≫」
僕が口にすると、機械的な声が返ってきた。
『何を追加・設置しますか?』
「入り口からこの部屋までの天井に、少しずつ間をいて、この球と同じ見た目と形の明かりをつけたいんだ。天井に明かりが埋め込まれていて、一つ一つは硝子の筒で覆われていて、勿論赤い球には触れない。20個くらい。それで前から三つ目に、この≪迷宮球≫を填めて欲しいんだ。全部同じ見た目で」
『≪迷宮作成≫――”天井の灯”を設置しました』
『消費クリエイトポイント5000』
『≪迷宮球≫を移動しました』
『消費クリエイトポイント100000』
『残りのクリエイトポイントは、135000です』
僕の掌の上で消えた≪迷宮球≫を確認しながら、思いの外、≪迷宮球≫の移動にはポイントがかかった事、逆に”天井の灯”は、そんなにかからなかったなと考える。
ぱぁっとダンジョン内が明るくなり、キラキラとした赤い宝石で、周囲は光に満ちている。後はどうしたモノか。
うーん。
僕が冒険者で、このダンジョンに入るとしたら――……きっと、すっごく怖い。
そう判断して、僕は、部屋の中央に壁を創った。ドアが一つある。この時点で、130000。それから、ドアから出て、扉の上に文字を書いたプレートをつけた。『この扉の先には、モンスターがいます』――122500。それから、その脇の壁に、『教会まで戻る』と書いて、122000。
教会まで戻ることが出来る魔法陣をつくったら72500になった。
魔法陣は思いの外、ポイントを消費した。
それから入り口から十歩くらい歩いたところに、扉なしの部屋を設置した。消費1000。棚を両側の壁と、正面の壁に設置し、此処の天井にも赤い灯をつける。 残り52000。
『設置しました。残りのポイントは、51900ポイントです』
思いの外安かった。いよいよ、僕はモンスターを創造してみようかなと決意した。
回復薬のそばに、ご自由にお取り下さい、と書いた後、やっぱり有料にしようかなと考えた。しかし通貨の単位や、通常の値段を知らなかったので、後で手直ししようと思う。そんな事をつらつらと考えながら、モンスターを設置するべく、壁の向こう側へと進んだ。
そのさらに先には、元々設置されていた部屋がある。
何があるか分からないので、とりあえず50000ポイントは残しておくことにして、僕は口にした。
「≪モンスター創造≫――1900ポイントで出せる奴!」
『リストを表示します』
「≪アイテム設置≫――HP回復薬50個、MP回復薬50個」
すると、機会音声がそんなことを言った。
どうしたモノかと考えて、ポイントが高いのを少数置くのと、ポイントが低いのを沢山置くのは、どちらがいいのか考えた。
「……とりあえず、犬っぽいモノで統一してみようかな」
そう考えて僕は、告げた。
「常闇狼を3体と、ケルベロスを1体」
『生成しました』
それにしてもどうして僕は、ケルベロスが犬ッぽいって知っていたのだろうかと悩みながら、三本頭がある犬を見た。とても小さなサイズだった。ゴールデンレトリバーくらいだろうか。僕の予想だと天井くらいまでサイズがあるんじゃないかなって思っていたのに。
「っ」
それから、僕は思わず頬をゆるめてしまった。
常闇狼という名前らしいが、どこからどう見ても子犬にしか見えない、三匹の犬が僕を取り囲んだのだ。耳と目の部分までが灰色で、目が青くて、後は黒と白が所々に入っている子犬たちだった。恐る恐る撫でてみると、すっごくモコモコしていた。
・常闇狼(小)Lv.1……300
・森羊(小)Lv.1……300
・朱猫(小)Lv.1……300
・笑蝙蝠(中)Lv.1……500
・轟蛇(中)Lv.1……500
・ケルベロス(中)Lv.1……1000
・火龍(小)Lv.1……1500
――この子達が倒される?
それを考えた瞬間、僕の50000ポイント残しておくという計画は消滅した。
慌てて外へと出て、入り口側から扉をつかみ声を上げた。
「≪迷宮作成≫――残りのポイント全てを消費して、すごくすごくすごく開けるのが難しい鍵を設置!!」
『鍵を設置しました。盗賊Lv,125以上でなければ、解錠できません。ダンジョンマスター【グリム】様は自由に開閉できます』
『クリエイトポイントが0になりました』
一段落したモノの、Lv.って99までじゃないのかと、僕は嫌な気分になった。
それから中へと戻ると、四匹(頭を入れると七匹?)が、一斉に僕の方へと走り寄ってきた。可愛い、本当に可愛い。
だが、この子達を守るためには、多分今の僕じゃ弱すぎる。だって名残惜しかったが、僕はマスター室へと戻ることにした。
「≪ダンジョン内転移≫」
そうして元々いた部屋へと戻った。
レベルを上げようと決意したのは良かったが、なんだかどっと疲れてしまったので、少し休むことにした。明日出来ることは明日しよう。
僕はLv.1だし……クリエイトポイントも無くなってしまったし。
そんな風に思って、僕は寝室へと向かい、フカフカのベッドに身を預けたのだった。