5:食事とダンジョン増築


 翌朝目を覚ますと、昨日の気だるさが嘘のように、すっきりとしていた。とりあえず服を脱いで、シャワーを浴びながら、僕は思い出していた。昨日学んだことをだ。一つ目、精気を吸い取るために、突っ込むか突っ込まれるかされるからなのか、HPなどは減らないみたいだ。

 二つ目は、モンスターとヤるよりも、魔王とヤる方が、Lv.があがりやすいと言うことだ。だけどあの部屋に続いている各マスター室には、どうやら男の魔王しかいないらしい。そもそも魔王は何人いるんだろう――……

 ……――三つ目、各マスター室とあの”モンスターの部屋”は共通している。

「とりあえず、() るのも、犯られるのも嫌だな……殺るのも、殺られるのも嫌だけど……」

 とりあえず、クリエイトポイントは貯まったし、ダンジョンを弄ろうと決意した。


 シャワーから出て、洗面台の前に立つと、不思議と床にはマットが敷いてあり、洗濯機もおいてあった。棚もあってそこにはタオルがある。何となく見覚えがあるが、よく分からない。無意識に、僕はこういう洗面台のある部屋を想像していたのだろうか。マスター室だけは自由になって良いなと思う。タオルで髪を拭いていると、ドライヤーとクシを発見した。ひげは生えてくる気配がない。不老不死と言うことは、爪も伸びないし髪も伸びないし、ひげも生えてこ事……即ちそれは性交渉をする事だ。行為後や最中にLv.があがないのだろうか? そのうち≪ヘルプ≫のファウスト君に聞こうと思った。別に今はどうでも良い。

 服は、ゆったりとしたジャージの下に着替えた。上はロンTだ。それからダイニングキッチンへと向かい、僕は冷蔵庫の前に立った。

「ええと――『ビーフシチュー』と『パン』」

 そう言って冷蔵庫の中を開けると、深めのお皿に入ったビーフシチューと、焼きたてのパンが載っている皿が入っていた。

 美味しそうな香りが漂ってくる。
 トレーに載っていたそれらを一気に持ち上げて、僕はダイニングテーブルに座った。

「今度は何作ろうかな」

 呟きながら、食事を前にため息をついた。僕には少し計画性が足りない気がする。
 今度はもうちょっと計画的に行こう。

「ノートとかペンとかあると良いんだけどな……」

 そう口にした時だった。

『≪アイテム設置≫――分厚いノートを生成しました。マスター室のため、ポイント消費は0です』
『≪アイテム設置≫――シャープペンを生成しました。マスター室のため、ポイント消費は0です』

 そんな電子音声が響いて、トレーの脇に、500ページはありそうなノートと、シャープペンが出現した。

 ちょっと驚いたが、便利だなと思う。
 設置、というのが気になってノートを持ち上げてみるが、持ち運びが出来そうだった。
 ビーフシチューをスプーンで掬いながら考える。

 まず当面の目標は、『お財布の入手』と『POTの種類を知る事』と『POTの平均価格を知る事』だ。

 POTとは多分回復や状態異常を治すモノだと、何となく分かった気がする。
 そしてとりあえずは、地下のB1をもう少し整えようと思った。

「そうだ、コンビニを創ろう」

 良い案だと思ったが、何故僕がコンビニを知っているのかはよく分からなかった。
 とりあえず、思い出せる限りの、コンビニのことを思い出す。

 傘立ては、雨の日しか無いところがある。
 ダンジョン内だし、いらないだろう。

 代わりに雨に濡れてやってきた人を乾かしてあげる魔法陣を創ろう。どうせだから、寒がってる人は温かく、暑がっている人には涼しく、そんな効果のある魔法陣が良い。

「それをコンビニの入り口にあるマットにしよう」

 一人呟いてから、パンをかじった。丸いパンは表面がぱりっとしていて、中がふんわりとしていた。美味しい。

「照明は、球を隠すのも兼ねているし、あのままで良いかな。ちょっと数を増やしておこう。広さはこの前創った六畳くらいじゃ足りないだろうから、五十畳くらいにしようかな」

 それで、左手の壁側にレジを置く。商品棚は四つくらいで、突き当たりには、飲料水とお弁当の棚。右手には、酒類の棚と、レトルト食品の棚と、アイスの棚にしよう。それから手前側には、本かな。

 入り口側の壁際は、全面窓ガラスで、その下半分くらいには本をやはり並べよう。

 ――そういえば、僕はまだ≪書庫≫に行っていない。後で見に行って、どんな本を置くか考えよう。

 それから中央には、四つくらいの棚を創って、中央は通路だから、計八個の棚かな。
 両面が棚になっている形だから、16カ所に品が置ける。いや、その棚の前後にもおけるから、小さい棚を入れるとさらに16個か。

 まず入ってすぐの棚1の入り口側には、POT類を並べよう。
 必要なモノが目につきやすい形で。
 棚1のレジ側の小さい棚にもPOTを置こう。裏側には、服(?)や装備が壊れた時のために、裁縫セットでも置こうかな。アイテムが設置できるし、なんか他に小さい装備っぽいモノがあるのであれば、指輪とか腕輪とかピアスとかを並べておこう。後は靴とか。

 で、棚1の棚2に面した中央の通路側には、包帯とか絆創膏とか湿布でも置こうかな。
 だけどこの世界でそういうモノって必要なのかな。まぁ、いいか。
 それで通路を挟んで、棚2。通路側の小さいところには、魔王にしか必要ないだろうけど、一応念のため、ローションとか……ゴム、いるかな。あ、外には女性がいるかもしれないから、生理用品も置いておこう。

 そして棚2の入り口側には、生活必需品を置こう。なんだろう。トイレットペーパーと、ティッシュボックスと、ゴミ袋と、紙コップと紙皿と割り箸……?

 あ、ノートとシャープペンも置こう。ボールペンも。後は、ひげそり用などに使うだろうカミソリと、うーん、懐中電灯と電池かな。

 携帯の充電器はいるかなぁ……いやそもそも、携帯電話とかあるんだろうか。まぁいいか。後はペット用の餌とかトイレの砂とか、かな。どんなペットが来るか分からないから、どんな種族にも対応する奴が良い。

 棚2の後ろ側には、うーん、お菓子類とカップラーメンを置こう。
 よし、それなら、レジの隣には、ポットと飲食スペースを創ろう。
 トイレもいるかな……いや、トイレは、コンビニがある壁の真正面の壁に創ろう。

 あとは、棚2の後ろの壁側には、ボディソープと漂白剤と香水とシャンプー・リンス・トリートメント・洗顔フォーム? あ、女の人用に化粧水と乳液か。その辺をおいておこう。

 生理用品もこっちの方が良いのかな。後は化粧品とかどうすればいいんだろう、僕にはよく分からないからなぁ。

 そこまでノートに書いてから僕は決めた。

 棚3のは、携帯食料にした。きっとダンジョン攻略には、お腹が減るだろう。
 その裏は棚のしきりを取っ払い、全て武器を置く場所にしよう。折れた時、僕は嫌だったし。?には、汗ふき用のウェットティッシュなどをおいた。化粧品も、僕が知っている、ファンデーションとマスカラとチークと口紅を置いた。他には、酒のつまみを置いた。

 通路を挟んで棚4には、やはり武器、衣類、あとはガムや、ミンティア(?)など。には、胃薬や風邪薬を置こう。

 棚5には、ライターや髪を縛るゴムやコンコルド等々の雑貨、裏側には段を取っ払って衣類、そばには栄養ドリンク類、他には、うーん、子供が来ないとも限らないから、オモチャかな。

 通路を挟んで棚6には、スイーツ類。甘い高級な感じの、クリーム入りの。男の人向けの巨大なティラミスとか、ケーキとか。ええと、それと、コーヒーの粉など、煙草以外の嗜好品。空いている場所には、いろんな用途に使えるし、ライターやマッチや蝋燭を置こう。他には、酒のおつまみかな。

 棚7には、こちらにも武器類、さらにはこちらも衣類というか靴、手袋と靴下、それと、10秒飯を置いておこう。

 通路を挟んで、棚8には、アイテムが色々あるんだし、折角だから、釣り竿とかのこぎりとか鍵とかを置いておこう。望遠鏡とか、色々ね。鏡も此処でいいや。横には、パン類。買い物途中にお腹が減るかも知れない。うーん、必需品としては、あとは体温計とか爪切りとか? まだ空間がある。ここには、これはまたお酒のつまみかな。

「で、奥の壁が、アイスと冷凍食品の棚。ッてことはレジの脇に、電子レンジも必要だな。その隣が、酒類の棚で、うーんお弁当の棚も此処にも置こうかな。とりあえずレジの後ろは煙草の棚だよね」

 ビーフシチューを食べながら思案する。我ながら、思考がごちゃごちゃだ。
 甘さと苦さと風味が、口内に広がり、舌の上でとろけるようだった。肉類なんて、本当に柔らかい。

「つき当たりの棚の右側には、清涼飲料水。左側には、サンドイッチとか、作りたてのお弁当を置こう。最初のお弁当は、毎日同じモノで、こっちは変えよう」

 呟いてから、再びビーフシチューを口に入れる。

 後はレジだ。

 レジは二つあって、奥側には、肉まんなどの棚、真ん中にはおでん、入り口側には、レンジとポットと、座るスペース。精算は、カゴを置くと自動的にされて、あ、カゴを入り口脇に置かないと……それで、精算しないと、商品を持っていても扉から出られない仕様にしよう。

「こんな感じかな」

 ビーフシチューとパンを食べ終わった時、僕はメモを終えた。食事をしながらナニカするなんて行儀が悪いかもしれないけど。

「これって、いくらくらいかかるんだろ」

 ポツリと呟くと、電子音声が響いてくる。

『1000000ポイントです』

 ということは残り、19600000ポイントだ。

「そういえば、子犬たちは何を食べるんだろう」
『1年間――残り363日は何も食べません。ダンジョン解放後は、精液と血や肉を食べます。その衝動から、冒険者達に襲いかかります。【グリム】様がアイテムとして取得した”精液”も食することが可能です』
「……」

 その言葉に僕は、あの子達が人を襲うなんて考えたくもなかったので、自分の血液を今から定期的に抜いておこうと決意した。一日二食として、余裕を持って僕は3回くらい血を抜いて、それを餌にしよう。

「そうだ、そうだったよ。あの子達を守るためにも……あの、モンスターがいますって言う看板の前にも一つ壁を創って、それはただの壁に見えるようにしよう。その先に部屋があるなんて見えないように。で、その正面に地下へと続く階段を創って、そこに、『ここ
から先にはモンスターがいます』って書こう。トイレを三個ずつの個室を男女両方創って。これでいくら? 帰還するための魔法陣はもう創ってあるからいらない」

 きっと答えてくれるだろうと思いそう声に出した。

『2500000ポイントです。残り、17100000ポイントです』
「ちなみにこの電子音声は何なの?」
『ファウスト様に直接呼びかけない場合のヘルプ補助機能です』

 そんなものもあるのかと、へぇと思った。

「じゃあ、次に地下のB2に続く階段と、B1の2倍の大きさの階層」
『残り15100000ポイントです』
「複雑な迷路と部屋を四つ、迷路のゴールは一番奥に通じてて、一番奥の部屋が広い」
『10100000ポイントになりました』
「その部屋に≪ヒトデ触手(大)≫を設置できる?」

 これは昨日の出来事が脳裏から離れないから、ちょっとした悪戯のつもりだった。

『可能です。5010000が残りました』
「アイテムとしての”精液”を吸い取るモンスターって何がいるの? 残りのポイントで出現させられる範囲で」

 それにしてもと僕は思う。他にもああいうのはいるのだろうか。

『一覧表示します』

・淫乱蔦(小)……1000
・淫乱蔦(中)……10000
・惑わしの花(小)……1000
・惑わしの花(中)……10000
・狂いしピエロ(小)……2000
・狂いしピエロ(中)……20000
・悦楽鳥(小)……2000
・悦楽鳥(中)……20000

「それ全部を地下のB2の部屋以外に覆い尽くすほど置くといくらかかる?」

 僕はもうやけになっていた。

『2500000です。創造した場合、残りの残高は、251000ポイントになります』
「なるほど」

 僕は数値と名前をメモに取った。
 残りの2510000ポイントで何をしようかな。
 そんなことを考えていると、温かみのある人の声がした。

『【ファウスト】ですっ。これまでに考えていたモノが、≪ヘルプ補助機能≫で全部設置されてますけど、大丈夫ですか? 不要ならOFFにも出来ますよ?』
「え、もう出来てるの?」
『はい、残念ながら……説明不足ですみません』
「嫌、大丈夫だけど、うん、考えるのと創るのとでの二度手間が減ったし」
『良かった、有難うございます。ちなみにOFF/ONにする時は、口頭で≪ヘルプ補助機能OFF≫って言ってもらえば大丈夫です。ONの時は、ONって』
「分かった。有難う」
『ではでは! すてきなダンジョンを作成してくださいねっ』

 そういうとファウスト君の声が、ブツリと音を立てて消えた。
 さて、2510000ポイントはどうやって使おう。

「四部屋の内の一つを、石造りの部屋にして、いかにも≪迷宮球≫があるような部屋にして、宝箱を置いて」
『50000ポイントを消費しました』
「宝箱の中には、うーん、1000レベルで装備可能の武器を置いて。開けた人の職業に適合する奴」
『10000ポイントを消費しました。残り1010000です』
「他の部屋には、一つはセーブポイントって言うのかな、この場所まで直通で戻れたり、外へと戻れたりする魔法陣」
『50000ポイントを消費しました。5100000です』
「他の二つの部屋には、100000ポイントくらいのモンスターをそれぞれに設置したいんだけど……」
『一覧を表示します』

・常闇狼(中)……3000
・ケルベロス(中)……10000
・嘲笑猫(小)……5000
・ゲラゲラ蛙(小)……10000
・淫乱蔦(中)……10000
・惑わしの花(中)……10000

「うーん。じゃあ一つの部屋には、”嘲笑猫(小)”と”常闇狼(中)×2”」
『設置しました。残り31000です』
「もう一つの部屋には、”ゲラゲラ蛙(小)”かな」
『設置しました。残り21000です』
「後は、1000ポイントで地下のB3に続く階段と、小さな部屋」
『残り11000です』
「10000ポイントくらいのアイテムと宝箱」
『10000ポイントのアイテムの一覧です』

・竜騎士の称号(剣士のみ)
・叡智の賢者の称号(全職業)
・聖剣コンツェアテ(剣士のみ:Lv.100)
・奇術師の鍵(盗賊のみ:Lv.85)

「じゃあ、”叡智の賢者の称号”で」
『設置しました。ポイントが残り100になりました』

 その言葉に頷きながら、僕は皿の始末をどうすればいいのか考えた。

『冷蔵庫に入れると消えます』

 勝手に思考を読んでくれるらしくてありがたかったが、コレではプライバシーがないじゃないかとも思う。

『全て消去されますので、ご安心下さい』
「ところでお金ってどうすれば手に入るの? あと、お財布」
『財布はレベル200の特典で手に入ります。財布入手後、モンスターなどを倒すか、モンスターなどの精を吸えば、自動的にゴールドが取得されます』

 頷いてから僕は、冷蔵庫に皿を入れて、しめた後、補助機能を消すことにした。

「≪ヘルプ補助機能OFF≫」
『終了します。必要がありましたら、ONにして下さい』

 そんな声が響いてきて、補助機能は消えた。

 それから歯磨きをしてから、僕はマスター室へと戻った。

 モニターの前まで椅子を持ってきて、モニターを見据える。
 入り口や階段、教会の映像は変わっていなかった。
 地下のダンジョン――面倒だから、地下のをつけるのを止めよう。

 B1には、赤い灯が設置されていて、入ってすぐの左手にコンビニ、通路を挟んでその正面にはトイレが設置されている。コンビに内やトイレも小さなウィンドウに映っていた。

 後は子犬たちがいる部屋と、その向こうの石造りの部屋。

 B2には、凄く複雑な迷宮が出来ていた。植物型の魔物が闊歩している。
 最深部には昨日僕を恐ろしい目に遭わせた≪ヒトデ触手(大)≫がいる。

 コンビニの棚を確認すると、≪薬師の気まぐれPOT≫という解毒剤があったので安堵した。コンビニの仕様を確認しようと、画面に触れたら『卸値価格で販売します。値上げも自由です』と書いてあった。マージンや、さらなるお店を挟まない分安いのかもしれない。

 とりあえず一年間はここからお金が入ってくる事は無いし、200レベルになって、お財布を手に入れない事には、モンスターを倒しても、お金を入手できない。

「気が進まないけど……また”モンスターの部屋”に行かないとな……」

 思わずため息が出た。しかし、頑張ろうと僕は思った。とりあえず、献血(?)してジップロックみたいなモノに入れて、冷蔵庫に入れておいた。下の扉の中だ。いつもは上の棚を開けている。きっとコレなら腐らない気がする。それから僕は部屋へと向かう扉の前に立った。若干貧血気味でクラクラした。