7:ダンジョン増築とマスター室



 起きて身支度と食事を終えた僕は、ノートをキーボード脇に置き、モニターの前に座っていた。指でくるくるとシャープペンを回す。

 消しゴムと定規と、シャープペンの芯も出した。

 B1は取りあえず良いとして、B2にも、洞窟の外へと戻る魔法陣と男子女子のトイレを設置したところ、残りのポイントは13100000になった。

 僕にはまだポイントの減るタイミングなどがよく分からない。
 そもそも増減の基準もよく分からない。
 まぁ、いいやと思う事にしておいた。

 もうポイントは、『無くなりました』とか言われるまで気にしないことにした。
 一応『ヘルプ補助機能』はONにして、僕は第三階層を創ることにした。

 コレは小さい部屋のままにして、奥の壁際に宝箱を置いた。『本心鏡』という、相手の心が読めるらしい鏡を中に入れた。いかにもこの部屋で最後のそぶりだ。だが右側の壁に掛けた絵画の黒猫と白猫の配置を時間単位で入れ替えて、白猫の時間(午前2.4時)に黒猫を押すと地下のへの階段が現れるようにした。ゴゴゴゴゴと音を立てて、絵画が上に上がるのだ。

 その先に現れた階段には、≪罠設置≫で、【毒】と【落とし穴】を設置した。【毒】はコンビニのPOTで治るし、【落とし穴】は3時間ほど閉じこめられて、それが経過すると、教会前に転移する仕様にした。そこに僕が取得していた【媚薬】を試しに使用してみると【射精をしたくてどうしようもなくなる毒】と【イきたいのにイけない落とし穴】になった。僕はもう快楽ダンジョンを創る決意をしていた。考えてみれば、B2だって結構、それっぽいモンスターを配置していたし、何の問題もない。

 さて、B4だ。
 此処には、魔法陣もトイレも無しにして、そんなに複雑ではない迷宮を創った。下へと降りる階段も創ったが、B5はまだ無い。それから僕は言った。

「残りのポイントで出現させられる精液を主に吸い取るモンスターを教えて。なるべく強いので」
『承知しました。一覧を表示します』

・ヒトデ触手(大)
・常闇犬(大)
・ケルベロス(大)
・淫乱蔦(中)
・惑わしの花(中)
・狂いしピエロ(中)
・悦楽鳥(中)

 あれ……これって、(小)の効果は分からないけど、コレまでに僕が設置してきたモンスターと全部関わっている気がする。子犬たちのためにも”精液”は必要だし、やっぱりアルカナに言われたとおり、性的なダンジョンで行こうと改めて思った。

「残りのポイント全てを使って、このモンスター達を徘徊させて」
『承知しました』

 結果それなりに(性的に)強いモンスターが闊歩するB4が出来た。
 モニターには全ての階層の各部屋が映し出されている。
 それらに触れると、適正レベルも見て取れる事に気がついた。

 B1は、適正レベル30.130。
 B2は、適正レベル105以上。
 B3は、適正レベル1以上。
 B4は、適正レベル200以上だった。

 今のところの最下層で、200レベルということは、201レベルの僕は、まずい。
 レベル上げもしなければならないなと改めて思った。
 だけど、ヤるのはもう嫌だ……多分、確かに気持ち良かったんだけど……。

 それよりも、取りあえずダンジョンのことを考えよう。
 またモニターの脇には、ダンジョン解放まで残り何日かが表示されている。
 後360日が、僕に残された猶予だ。
 その横には階層数。そもそも何階まで創れば良いんだろう。

 タッチ式のキーボードでは、無数に現れた小さなウィンドウの位置を変えたり、アップにしたりなども出来るようだった。

 多分、冒険者が入ってきて、どの位置にいても分かるようにしているのだろう。子犬たちの部屋も見える。トイレまで見える。トイレは、入って右手は鏡と手洗い場、左側にはスリッパと三つの個室。

 それが男女それぞれにある。

 創造したモンスターの居場所と一覧とHPやMPも見えた。そこにはモンスターが放てる攻撃も載っている。任意にモンスターの操作も可能らしい。全く考えていなかったが、属性もあるそうだ。

「へぇ……偶然なのかな、これ」

 闇属性と快楽属性しかなかった。快楽属性のステータスを見て、嗚呼そういえば僕も、≪快感度閲覧≫なんていうスキルを持っていたと思い出した。

「だけど、快楽属性は兎も角、闇属性だけだと、いるのかは分からないけど神父様とか牧師さんとか聖職者とか光系の属性の人に倒されちゃうよね」

 そろそろこの『エリーゼ大陸ヴィルヘルム国の常闇の森』について、調べようと思った。

「ファウスト君に聞くべきかな……」

 しかし考えてみると、ファウスト君は、ダンジョンの生成や増築、スキルについてなどを教えてくれる存在に思える。よしここは――書庫に入ってみよう。

 そういうわけで、僕は≪書庫≫に入った。
 中には、様々な本があり、そばにはタッチパネル式の検索機が設置されていた。そこでキーワードを入力し、僕は関係がありそうな本を十冊くらいもって、モニター室のベッドの上にうつぶせになった。枕をソファ代わりにして読む。

 曰く――エリーゼ大陸は、フォルトナ大陸とミスワ大陸と三角形を築いた位置にある、最も大きな大陸だそうだ。ちなみにこの世界の世界観だと、海の果てに世界の果てがある平面名世界で、果てを見た者は誰もいないとのこと。天動説の世界観だ。

 太陽と月は追いかけっこをし、月に一回付きは追いつかれて真っ黒に染まるらしい。
 四季や暦の12月、日にちは30.31日というあたりは、一緒だ。
 なにと一緒なのか僕は思い出せなかったけど。

 暦はエリーゼ歴というらしい。これはフォルトナ大陸でもミスワ大陸でも共通だそうだ。
 エリーゼ大陸には、30の国があって、それぞれに村や街、都市、大都市があるそうだ。

 そしてどの国にも、あるいは国をまたぐようにして、冒険者がいるらしい。

 冒険者がいる理由は村から大都市までの中はおそわれないが、ひとたび山や森、川、海に入ればモンスターが出るからとのことで、それを討伐したり、貴重なアイテムを手に入れるために、存在しているとの事だ。

 一口に冒険者といっても、色々あるらしい。
 剣士、槍使い、斧使い、弓使い、銃術士、召還者、魔術師、盾使い、盗賊、聖職者、薬師、料理人、等々。王国騎士や、警備員なんでてものもあるらしい。

 どの職業の人も、自分にあった適正の職業や、やりたい職業をしつつ、レベルを上げたり、アイテムを入手したり、生産活動をしたり、武器を作ったりしながら暮らしているそうだ。

 必要な時だけ、冒険者になる人もいるとの事だ。
 種族も関係なく、人間以外も冒険者になれるらしい。
 基本的には、数人でパーティを組んで、討伐や攻略をするらしい。
 ヴィルヘルム国でもそれは変わらないらしい。

 その中に、僕がよく見る教会がある近隣の村――トルテ村があるそうだ。
 ちなみに教会は、ヴィルヘルム国教会という宗教で、双子の男神へと祈りを捧げる宗教らしい。この二人が同性愛関係だったため、同性同士の性交渉が推奨されているのだとか。”人間”の場合は、男女ともに妊娠が可能だそうだ。

 種族は様々で、人間、獣人、エルフ、などがいるらしい。全て交配が可能だとのことだ。魔王やモンスターは、そこにはカウントされていなかった。

 また表向きは禁止されているが、カジノや奴隷制、闇オークションなどが暗黙の了解で存在するらしい。

 だがトルテ村は小さいので、そういうモノは無いらしい。
 穏やかに農作業や牧畜をしている、教会にはたまに祈りに出かけるような、時間がゆったりと感じられる村だそうだ。

 特産物はドングリクッキーと木苺ジャムとの事だ。
 唯一の驚異は、常闇の森だ。モンスターがいるのだという。

 そういえば、≪小さいウィンドウ≫の『常闇の森』の映像にも、たまに凶暴そうな狼みたいなモノが映っていたなぁと思い出した。山菜採りに出かけたりすると、襲われて死亡し、教会の前で復活するらしい。

 ただし冒険者も含めて人間達の場合、死亡して復活すると、半年間くらいは基本的に動けなくなるらしい。怪我もするそうだ。≪ステータス≫も見えないんだとか。

 なお飲酒喫煙に年齢制限はなく、成人式みたいなものもない。

 ただ年だけは誕生日が来ると、1歳ずつ増えるそうだ。僕はまだ0歳か……そして出会った二人の魔王は、もう19,20年と此処にいるのかなと考える。

「勉強になったなぁ」

 そんなことを考えてから、夜にはまた、怖いけど”モンスターの部屋”に行くことにした。