12:ダンジョン経営者連合会の待合室(★)
指定された時刻より早めに僕は、ダンジョン経営者連合会の本部へと向かった。
「あ、グリムさんですね! お待ちしてましたよ」
僕に歩み寄ってきた少年の声に、僕は息をのんだ。金髪で緑色の瞳をした12・3歳くらいの少年だった。
「ファウストですっ。改めてよろしくお願いしますね」
「こ、こちらこそ……」
「あんまり呼んでくれないから、寂しかったんですよ?」
目を潤ませた端正な少年の顔に、なんだか胸が痛んだ。
これからはもうちょっと頻繁に助けを借りようかな……。
「連合会の会合まで、まだ2時間もあるので、待合室にご案内します。それとも、本部の見学でもしますか?」
「あ、待合室で大丈夫」
緊張していた僕は、見学をする余力なんて残っていなかった。
何せ僕は、他の魔王には、北斗とアルカナにしか、会ったことがない。
どんな人たちが来るのだろうかとビクビクしていたのだ。
「此処が待合室です」
そういって通された場所には、ソファがあって、扉から見て左の壁には全て、『魔王同士1』から『魔王同士5』までの番号が書かれた扉があった。だいぶ広い部屋だった。ソファの前には、お菓子が置いてある。チョコレートや飴だった。
「なにかあったらいつでも、『ファウスト』って呼んで下さいね! 此処は本部だからいつでも駆けつけられます」
そう言って笑うと、ファウスト君は出て行った。
さすがにヘルプで職員だけあって、気が利くし優しい。
僕は入り口から右手にあったコーヒーサーバーから飲み物を取り、まだに三人しかいない魔王を見渡した。レベルは、200000や、360、12などまちまちだった。皆、新参者(だって0歳だ)の僕が物珍しいのか、ちらちらと視線をこちらに向けている。
誰も座っていないソファの一角に僕は座り、コーヒーを静かに飲む。褐色の熱が心地良かった。誰に話しかけられることもなく、僕から話しかけることもしなかった。
だって昨日ウォルフと話したのをのぞけば、僕はしばらくの間他者と会話なんてしていなかったから、緊張してしまうのだ。
そうしていると、二十分くらいした時に、扉が開いた。
入ってきたのは――北斗だった。
「あれ、グリムだっけ?」
そういった彼に、なんだか安堵して、僕は何度も頷く。
すると北斗が吹き出すようにして咳き込んだ。
「ちょ、お前、なんだよそのレベル」
「ああ、なんだか丸太と遭遇して……」
「孤独な丸太か? 陽気な丸太か?」
「孤独の方」
「なるほどな――ちょっと来い」
僕の前に立った北斗にそういわれ、僕もまた立つと、腕を引かれた。
連れて行かれたのは、『魔王同士2』の部屋だった。
そこには、大きな寝台があるだけで、他にはミネラルウォーターとローションが置いてあるだけだった。いや、水は兎も角何で香油があるのだろうか……。
「お前あの部屋の奴らに何もされなかったか?」
「え、ああ、うん」
何せ話しすらしていないのだ。視線を感じたのだって、気のせいかもしれないし。
「あのな、普通お前みたいな高レベルだと、レベルを上げるために、犯されても犯させられたりしてもおかしく無いんだよ」
「え」
ため息をついている北斗を見て、僕は怖くなった。
半年前までのことを思い出す……が、僕が思い出したのは、快楽だった。
最近は一人でいた。一人でいた――それは即ち、誰と何をするわけでも無かったという事だ。腕を引いて寝台に座らされ、その隣に北斗が座る。なんだかこの距離感だけでも体が熱くなりそうだった。
「そうだったんだ、有難う」
「別に良いけどな。レベルが上がったのも良いことだとはいえ、あんまり隙を見せない方が良い……にしても、グリムの上がり方にはちょっと吃驚した」
純粋に驚いたような顔で笑って、北斗が膝の上で両手の指を組む。
「最初に会った時が懐かしいな」
「うん」
僕は北斗が助けてくれた時のこと、それから杖をくれたことを思い出して、頬がほころんだ。まぁ、体を重ねてしまったのは置いておくことにする。そうして気がついた。
「そういえば、僕なんのお礼もしてない」
なにか適切なアイテムがあっただろうかと思案する。やっぱり杖が良いだろうか。そんなことを考えていると、苦笑するように、北斗が首を振った。
「気にするな。俺はアイテム類は地道に集めていくのが好きなんだよ。よっぽどのレアものじゃない限りは。レアものだって作ったりするのも好きだし、なじみの鍛冶職人もいる」
「そうなんだ」
「どうせくれるって言うんなら、お前の体をくれよ」
「っ」
思わず僕は息をのんだ。
僕をじっと見て、目だけは真剣に、北斗が唇で弧を描いた。
実際僕は――……正直、ここ半年誰とも体を重ねていない。だから怖い……わけじゃなくて、本心を言えば、気持ちよくなりたくて仕方がないんだったりする。確かに久しぶりすぎて緊張はするのだけれど――それより大問題が一つあった。
「あ、あの」
体で返します、だなんて、恥ずかしくて言えない。既に脳裏では、北斗の陰茎で貫かれるイメージがぐるぐると回っていて、気持ちよくなりたくて仕方がないのだが、正直言葉にするのはためらわれる。
もしかして僕って、これって、ムッツリスケベという奴なのかもしれない。恥ずかしくなって、頬が紅潮した。
「あのな、そんな顔されたら勘違いするぞ」
途端、不意に北斗に押し倒された。
「!」
撫でるように鎖骨を指でなぞられて、ボタンをはずされていく。少しずつあらわになった皮膚が、外気の冷たさに震えた。
「今抵抗しなかったら、最後までヤるぞ」
「え、あ」
「この部屋は、魔王同士でヤる時に使う部屋なんだよ、本来は。俺は、忠告のためにグリムを引っ張ってきたんだけどな」
苦笑した北斗は、上のボタンをはずし終えると、僕のベルトに手をかけた。あっさりと脱がせられて、僕は寝ころんだまま、膝を立てる。下衣をおろされ、僕は正面から押し倒している北斗の顔を見上げた。深緑や緑に見える暗い色の髪と瞳が、僕をまじまじと見ている。
「前にも無理矢理するのは好きじゃないって言ったよな?」
「う、うん」
「続き、しても良いのか?」
恥ずかしくて仕方が無かったが、僕は思いっきりそれを求めていたので、小さく頷いた。
すると香油の瓶を手にたらたらと取り、北斗がゆっくりと僕の中に指を入れた。
「っん」
「きついな。久しぶりなのか?」
何度も何度も頷きながら、ほぼそれと同時に、これから始まるだろう快楽を思って僕の体は震えた。
「あ、ああッ」
頷こうとした時前立腺を刺激され、僕は震えた。気持ちいい、どうしようもなく気持ちいい。もっともっと、つついて欲しかった。
「や、やだ、ア」
ヤダというか、その刺激じゃもう我慢できなくて、僕は腰を揺らした。
「北斗お願い、い、挿れて」
「まぁ、待て。随分とレベル上げしたみたいだし、焦らされるくらい、耐えられるだろ」
「ヤぁ――!!」
その時指が、最も感じる場所からはずされ、指の数も増やされて、縦横無尽にかき混ぜられた。
「あ、ああっ、ン――!!」
「気持ちいいか?」
「うん、気持ち、良い……ッはぁ」
「お前今誰に何されてるか分かってる?」
「う、んあ、北斗に」
「ああ」
「北斗に指で、その……」
「その?」
「グチャグチャにされてる――うああああ!!」
僕の言葉が終わると同時に、今度は片手で陰茎を握られた。しごき上げるような動作なのに、根本へ戻るときつく摘まれ、イくにイけない。
「どうして欲しい?」
「イかせてッ」
「残念、はずれ。他の言い方を考えろ」
「うあッ、あ、ああッ、いれ、挿れてッ!!」
僕がそう言って哀願すると、フっと北斗が吐息に笑みを乗せた。
生理的な涙がしたたってくるのを感じる。
「正解」
笑いながらそう言って、北斗が僕の中へと腰を進めた。
「ンあ――!! あ、あああ――!!」
圧倒的な熱と堅さが心地よくて、思わず僕の腰が揺れた。
無意識に気持ちの良い場所に当たるように体を上下左右に動かしてしまった。
「随分淫乱になったんだな。ま、最初から素質あるみたいだったけど」
「やァ――!! もっと、もっとしてぇッ」
すると激しく突きながら、北斗に腰をもたれた。自分では動けなくなる。
「出したいッ、あ、ああっ」
僕が泣きながら言うと、北斗が再び片手で僕の陰茎を扱いた。
「あ、ああッ、も、もう」
「此処が好きなんだったっけ?」
北斗はそういうと、中の前立腺をつき上げた。
「い、ンァ――!!」
僕はそのまま果てて、北斗もまた射精したようだった。
肩で息をしながら、僕はぐったりと寝台に体を預ける。
「やっぱりお前の体も顔も好みだわ。レベルなんか関係なく」
中から陰茎を引き抜き、北斗が苦笑した。
「本当に俺のセフレにならないか」
「それは……」
実際、本音を言えば、僕はもう快楽の虜になっているみたいだから、北斗とこうして体を重ねるのは嫌じゃないのだと思う。
「……だけど、いつ誰となにかをきっかけにしてヤっちゃうか分からないから、僕じゃセフレは……」
「セフレなんだから普段は自由で良い。お互いが溜まったら、気軽に呼び出してヤればいいだろ?」
「う、うん……」
そういうものなのだろうかと僕は首をかしげた。
「これ、俺のマスター室の場所」
北斗は僕を見て微笑してから、名詞のような透明な板を渡してきた。
「お前もアイテムで作って、俺に場所を教えてくれ」
「う、うん」
慌てて僕が似たようなものを作ると、嬉しそうに北斗がそれを受け取った。
「これでいつでも会えるな。ま、結構俺外に出てるから、いなかったら悪いな」
「ううん」
「会えるようにしてくれたって事は、ちょっとは気に入ってもらえてるって思って良いのか?」
「え、ああ、まぁ、うん」
「じゃ、これからよろしくな、グリム。そろそろ会合が始まる時間だから、外に出るか」
頷いて衣服を整えてから、僕は北斗に促されて、待合室へと向かった。
そこには多くの魔王達の姿があったのだった。