14:ダンジョン経営者連合会開始


 そんなこんなでアルカナ達とは別れ、僕は連合会の会合へと向かった。
 レベル順なのか、あいうえお順なのか、初心者.年かさまでなのか、適当なのか、不思議な席順だった。好きな席に座って良いと最初に言われたので、僕は入り口脇に座った。だってトイレに行きたくなった時、すぐにたてるし。そこまで考えて、今の僕はトイレに行かないんだったと思い出した。

「わりぃな、お前ら。ちょっと手こずったんだよ、ま、許せ」

 そういって入ってきたのは、幹事の一人であり、遅れてきたギルベルト(?)だった。
 灰色の短髪と目の色をしている。
 一見細身だが、袖からのぞく腕には綺麗な筋肉がついていた。

 口調は慇懃無礼だが、ニカッと笑ったその表情と、周囲の待ちわびていたような完成に、彼は人気者なのだろうと思った。僕の隣に座っていた北斗が、僕に教えてくれた。

「あいつがギル。ギルベルト」
「そうなんだ」

 やっぱり彼がギルベルトと言うそうだ。それとなくLv.を見てみると、90430000レベルだった。僕が90500002レベルになったところだから、本当にあんまり変わらない。ただし向こうは年齢が、25歳で、僕は未だ0歳だ。

「一目惚れするなよ」

 隣でポツリと北斗が言ったので、視線を向ける。言われてみればギルベルトは、精悍な顔立ちをしていた。一年近く前の僕だったら、男同士でそんなことはあり得ないと言ったと思うが、今の僕は残念ながら……違うようだ。ただそれが、恋愛感情なのは分からない。分かるのは、快楽は正義! て事だけだった。

「よぉ、北斗久しぶりだな。元気にしてたか?」

 唐突に話しを振られた北斗は、僕から視線を外して苦笑しながらため息をついた。

「元気も何も、三日前に通信してきたのは、お前だろ、ギル。ちゃんと紹介してやるよ――グリムだ」

 北斗はそういうと、ぽんと僕の肩を叩いた。

「はじめまして」

 僕が会釈すると、首を壮健に近づけるように揺らしながら、目を伏せてギルベルトが笑った。

「固い固い。俺のことはギルで良いからな。それにしてもすげぇレベルだな。何、”孤独な丸太”? それとも”陽気な丸太”?」

 北斗も言っていたから、やはり陽気な丸太も存在するのかと思いながら、僕は答える。

「孤独な方です」
「俺は陽気な方だったなぁ。今でも、というか今まで、移動魔法陣が出来てから、地道にこの年まで上げてきたんだけどな……グリムはまだ、0歳だろ……? どんだけ乗ってたんだよ?」

 全員に行き届いていたビールをはじめとしたジョッキをが並べられていく。
 僕はお酒を飲んだことがなかったので、初めてピーチフィズを飲んでみることにした。

「三ヶ月です」

 答えた僕は、ジョッキを傾けていたギルが思いっきり噎せたのを見た。

「嘘だろ!? よく気が狂わなかったな」

 改めて考えれば僕自身、意識は曖昧だ。ただ、気持ち良かったのは覚えている。

「POTを飲み飲みなんとか」
「……快楽方面のPOTか。なるほどな」

 うんうんと頷いたギルの姿に、僕はどうしたものかと思って北斗を見た。
 すると北斗が不意に話を変えた。

「ダンジョン生成は上手くいってるのか?」
「一応ね」
「どんなダンジョンなんだ?」
「アルカナに勧められて快楽ダンジョンにしたよ」

 すると今度は北斗が噎せた。ギルも北斗もビールを飲んでいるようだった。

「ン、俺の所も半分・快楽ダンジョンだわ。他に、強いモンスターも配置してるけど」

 ギルがそういって笑った。

「折角だし、レベルも拮抗してるし、お互いのダンジョン比べしねぇか?」

 楽しそうなギルの声に、北斗が腕を組んだ。不安そうな顔で僕を見ている。

「それに0歳って事はまだ、冒険者に攻略されてねぇんだろ? 一回自分の体で試してみた方が良いって」
「それは、そうだけど……ダンジョン内のモンスターって、ダンジョンマスターには襲いかかってこないんでしょ?」
「襲えって命令も出来るからな」

 確かにそれを聞くと、僕もちょっと自分のダンジョンを楽しんでみたくなった。

「よっしゃ、決まり! 俺の方の攻略は、自分のダンジョン経営が一段落ついてからで良いから、お前の方が先な」

 ギルはそういうと、二杯目のビールを注文したのだった。

「どうやら、おもしろい話しをしてるみたいだね」

 そこへ、ギルの隣の席をチェンジして、アルカナが姿を現した。

「ダンジョンの攻略僕も行きたいな」
「ああ、別に良い――よな?」

 ギルがそういって僕を見た。曖昧に頷いてみる。

「俺も行く」

 すると隣でため息をつきながら、北斗が名乗りを上げた。

「じゃ、四人で行くか。お前のダンジョンの適正レベルは何だ?」

 ギルに聞かれたので、僕は必死に思い出した。

B1は、適正レベル30.130。
B2は、適正レベル105以上。
B3は、適正レベル1以上。
B4は、適正レベル200以上。
B5は、適正レベル350以上。
B6は、適正レベル200.400。
B7は、適正レベル500以上。
B8は、適正レベル700以上。
B9は、適正レベル900以上。
B10は、適正レベル1000以上だ。

 静かにそれを伝えると、ギルがぽんと手を打った。

「じゃあこうしよう。1000までレベル落とす腕輪を着けて、移動スキルも1000以下の攻撃スキルも禁止にして、攻略しようぜ。あ、腕輪は、各フロアに合わせてレベルあがってく形な。B1の時は130で良いとして。だけど結構まちまちなレベル設定にしたんだな。面白そう。あ、魔王の特権の何度でも”出せる”って言うのと、不老不死と、感度上昇だけは残しとこうな。他は基本的に人間と一緒。無限鞄と財布くらいは、持って行っても良いか。ステータスは緊迫感があるから見えないようにしよう」

 馬鹿にされなくて良かったなと思い、僕はほっとした。
 アルカナはキラキラと目を輝かせている。
 北斗はといえば眉をひそめて呆れたように笑っていた。

「人間用の装備やPOTの準備もあるだろうし、一週間後にするか、攻略」

 僕はその言葉に頷いた。それならば、ダンジョン公開までに、多分少しは時間が出来るはずだから、いろいろと弄ることも出来るかもしれないし。

 そんなこんなで一週間後、僕は自分で作ったダンジョンを攻略することになった。

「それにしても、噂には聞いてたけど、凄い美人だな、お前」

 ギルが攻略話を打ち切ってそんなことを言った。

「これ、俺の連絡先。俺にも教えてくれ」
「あ、うん」

 慌てて僕が連絡先を渡すと、それはギルの掌に菱形のように立って、くるくる回ってから消えた。まるで星の粉みたいに消えたのだ。

「これで、お前の部屋にはいつでも遊びに行けるわけだ」
「え、そうなの?」
「おぅ」

 ギルの言葉に、ギルと北斗とアルカナにもらったカードを見る。
 北斗とアルカナは、知らなかったのかというように、目を見開いていた――0歳を舐めてもらっては困る。僕の掌に一つずつのせると、それはやはり消えていった。

「これで、ダンジョンにつながる扉の脇のもう一つの扉の時計に、行き先として俺たちのマスター室が追加された。相手の部屋の前に行く時は、インターホンを鳴らすのがマナーな」

 これまで用途不明だったインターホンの事をやっと僕は思い出した。

 ――それにしても。
 からかわれているのだとは思うが、僕のことを凄い美人だなんて言っていた。
 やっぱりこの世界では、僕の顔は綺麗なのだろうか?

 絶対におかしいと僕は思う。北斗とかギルとかアルカナの方が絶対格好いい。

「そのレベルで、その歳じゃあ、知らないことがありすぎて、精気を吸われまくりだろうから、気をつけろよ」

 ギルが笑うと、北斗が大きく頷いた。

「だよな。危なくて仕方ない」
「真っ先に手を出した貴方に言われてもって感じだよね、グリム君」

 アルカナが、北斗を見て意地の悪い顔をした。
 すると眉をひそめた北斗の目が細くなる。

「まぁまぁ、お前ら。会うと喧嘩すんの止めろって」

 ギルが仲裁に入り、アルカナも北斗も座り直した。

 こうしてその日の夜はふけていったのだった。