15:兎獣人の発情期、と(★)


「ただいま、ウォルフ」

 ちょっとお酒でふらふらしながら僕が戻ると、ウォルフが走り寄ってきて、抱き留めてくれた。

「有難う――?」

 何故なのか普段とは違い、ウォルフの目の色が赤くなっていたのだ。

「そんな顔して帰ってくるな」
「え?」
「言っただろ、相手を見て欲望を感じると――兎獣人は、発情するんだよッ!!」
「!」

 驚いている僕は、壁を背にずるずると座り込んだ。
 そして僕を壁に縫いつけるようにしてから、僕の前をはだけて、ウォルフが乳首に吸い付いてきた。もう一方の手では、下衣をおろされる。

「匂いがする。誰かと体を重ねてきたんだな」
「それは、その――」
「何も聞きたくない、止まらない」

 ウォルフはそういうと深々と僕の口にキスをした。
 思えばこの場所に来てから、こういうキスをしたのは、北斗に次いで二番目のことである。だけど北斗とは異なり、噛みつくような乱暴で激しいキスだった。

「フ、っあ」

 息が苦しくなると、あごを捕まれ、再び深々と舌を押し込まれる。
 それから、ようやく口を離し、また僕の乳首吸い付いて、もう一方の手でも乳首を摘まれた。それから首筋に噛みつかれた。

「うあッ」

 思わず声を上げると、深く吸い付かれ、疼くような痛みが走った。

「もう自分じゃ止められない。嫌ならなら逃げろ」

 そういって、僕の両脇の壁に手を突き、ウォルフが熱い吐息でそう口にした。

「嫌じゃ……ない、けど……僕は、恋人にはなれないよ……」

 人間は兎も角、詳しいことは知らないが、発情されるというのはそういうことなのではないかと思った。第一、何で僕に発情なんて?

「ぅ、ああ」

 すると二本の指を僕の口の中へとウォルフが入れた。そうして舌を嬲られる。気づけばいつもはたれている彼の耳が、何故なのかぴんっと立ち上がっていた。

 暫く指先で舌をさんざん刺激された後、急にそれを後孔につっこまれた。

「あ、あ、あ」
「誰かとしてきたんだな、やっぱり。こんな風に簡単に入るなんて」
「そ、それは――あ、あ――!!」
「ここが気持ちいいんだな」

 ウォルフはそういうと、前立腺を規則正しく刺激した。

「やだ、あ、ああっ、ウォルフ、もう止め――」
「さっき嫌じゃないといったな? もう止められないんだよ、俺も苦しい、早く出したい」
「ぼ、僕もだよ。もうイきたいッ。止めてって言うのは、もう良いから、早く中をしてって事で……だから、その……」

 素直に本心をぶちまけてしまった僕は、言いながら我に返って羞恥を感じたから言葉尻が細くなってしまった。

「本当に良いのか?」
「うん」

 そういうと、指を引き抜き、ウォルフが中へと押し入ってきた。

「あああ!! ひゃ、んぁ」

 その巨大さに、めりめりと中を押し開かれる感触に、僕は体を震わせた。
 思わずウォルフの首にしがみつく。こんなにまで大きくて熱いものなんて、知らない。
 ウォルフの首は、まだ体力が全快していないのだろうに、筋肉で固かった。片手で、そんな風にしがみついている僕の背を撫でながら、もう一方の手でウォルフが腰を掴む。

「アアあ――ッ、――――ヒ!!」

 酸素が喉へと張り付いて、ガクガクと僕の体が震えた。涙が浮かんでくる。すると安心させるように、ウォルフが背中を撫でてくれた。けれど抽送は止まらない。暴力的な熱が、僕の内部を圧迫し、押し広げるようにゆさゆさと動くのだ。

 体内を埋め尽くされたかのような感覚に、気づけば僕は顔を左肩の方へとぐったりとさせて、涎を零していた。その時、内部になにかが入ってきた気がした。果てたのだろうか?

「悪いな、人間と同じで、何度も出るんだ。獣人っていうのは、見た目だけじゃなくてそういう生態だから、”人”ってつくのかもな」
「ああああ!!」

 しかし中に入ったまま、ウォルフは萎えることもなく、再び腰を揺らし、今度は前後に動かし始めた。ぎりぎりまで引き抜かれては、再び奥深くを突かれるのだ。

「ゃ、アン――ッ、あ、ああっ、僕、僕も出っ……」
「出して良い」

 そういうとウォルフが僕の陰茎をなで上げた。あっさりとそのまま僕は射精した。
 すると、再びウォルフもまたなにかを放った。

「……――収まってきた」
「そ、う」

 体から陰茎を引き抜いた彼が、呆然としたように僕を見おろしている。
 ウォルフの体にしがみつけ無くなったため、僕はぐったりと体を背に預けた。

「わ、悪い……お前なんかに欲情するなんて。それも指輪の効果も無しに」

 地味に、『お前なんか』と言われた言葉が、ぐさっと胸に突き刺さった。

「……僕でゴメンね」
「何がだ?」
「多分、僕しか此処にいなかったから、欲情したんだと思う。今度お似合いの兎獣人がいたら紹介するよ……」
「……別に良い」

 ふてくされたように、ウォルフが顔を背けた。
 兎の耳がまた垂れ下がっていた。

「取りあえず今日はもう眠りたい。明日からはちょっと手伝ってもらいたいこともあるからウォルフもゆっくり休んでね。勉強は進んだ?」
「――少しは進んだ。ああ、そろそろ休むことにする。悪かったな」
「え? なにが?」
「俺の方こそ急にシて」
「だからそれは此処には僕しかいないから――……」
「そんなんじゃない。じゃあな。俺は寝る」

 ウォルフが何を言いたいのかはいまいち分からなかった。シャワーを浴びている間にもそれはよく分からなかった。浴室から出る時に、思い出して、インターフォンの下の時計のようなものを見ると、確かにそこには、北斗とアルカナとギルのマスター室へ向かうための文字が文字盤に書いてあった。

 兎に角、一週間後までは会わないわけだから、まぁ良いかと思って寝台へと向かった。

 ――たった一日で、三人(内一人獣人)と体を重ねてしまった。久しぶりで、快楽を求めていたとはいえ、これってちょっとどうなんだろう。

 寝室のベッドに向かい、座りながら僕は呟いた。

「まぁ良いか。気持ちいいは正義!」

 そう告げてから、僕は寝台に横になり、抱き枕を握りしめたのだった。


 翌日僕は、ウォルフと僕の分の朝食を用意した。
 クラムチャウダーとハッシュドポテト、厚切りベーコンを焼いたもので、パンを側に置く。中央には、シーザーサラダを置いた。

 すると扉を勢いよく開いたウォルフが目を丸くした。

「おはよう。どうかしたの?」
「おはよう……――てっきり嫌われたと思っていたから……」
「? なんで?」
「なんでって、昨日……」

 昨日といえば、会合があった日で、僕は今日を含めれば後六日間の間に、様々な準備をしなければならないことを思い出した。

「あ、座って。そうそう、昨日言い忘れたんだけどね、来週の月曜日、僕は他の魔王と四人でダンジョンを一回攻略してみることにしたんだ」

 僕も席についてレモン水をお互いのグラスに注ぐ。

「気にしてないのか……」
「え? やっぱり野菜だけの方が良かった?」
「……俺は、雑食だ。野菜も肉類も魚介類も食べられる」
「そうだったんだ!」

 僕が驚くと、ウォルフが深々とため息をつきながら、椅子に座った。

「いただきます」
「……いただきます」

 そのようにして、朝食の時間が始まった。

「まずはね、アイテム類を調達しようと思うんだ。ついでに、ウォルフにも少しダンジョンのことを知って欲しいから、一緒に来てくれないかな」
「分かった。俺が知る限り、アイテム類は宝箱の中から出てくるものだから、手伝いくらいなら出来ると思う」
「ううん。このダンジョンには、コンビニがB1にあるんだ」
「こんびに? それはなんだ?」
「ええとね……ま、まぁ見れば分かるよ」

 そんなやりとりをしながら、ゆっくりと僕たちの朝食の時間は過ぎていった。

「これが”コンビニ”か」

 僕が創ったコンビニの前で、唖然としたようにウォルフがぽかんと口を開けておく。

「そうだった、僕ちょっと、弄らなきゃだったから、まだ中に入らないでね」

そう告げて僕は、”孤独な水晶の渦巻き杖”というLv.50000000で無ければ使えない杖を握りしめて、目を伏せた。

 ――一つ目は、アイテムが購入されると、自動的に補填される魔術。
 ――二つ目は、アイテムの料金が、僕のお財布に一部、残りは無限

 倉庫内の一角にある無限金庫に保存される形式にする。

 ――三つ目は、このコンビニ内にある商品は、この場所にある限りは、劣化・腐敗しない魔術だった。

「よし、魔術もかけ終わったし、中に入ろう」

 僕がそういって促すと、自動ドアに驚きながら、ウォルフが中へと入った。

「すごいな、初級から高級までのPOTが並んでる」

 僕にはどれが初級で、どれが高級なのかはさっぱり分からなかったので、ステータスで効果を眺めながら、カゴに入れていく。特に媚薬系を解除するものを中心にした。楽しそうにウォルフは様々な棚を見ている。僕は武器をどうするか思案したのだけれど、使う暇もないくらい丸太に跨っていて、様々なレベルの杖を持っていたので問題ない。折れない限りは何とかなる。

 後は、10階層まで行くのだから、当然食べ物もあった方が良い気がする。
 なにせダンジョン内は、赤い照明が各階にある以外は、光が無いのだ。

 正直赤だけではなく、例えば鏡の部屋なら天井の照明は青だったりもするし、階層によって灯は様々だったりもするのだけれど、圧倒的に赤が多い。だってダンジョンの核を守らなければならないのだし。無限鞄に入れておけば腐らないらしいから、僕は適当にサンドイッチ類やお茶や水、ジュースを買った。食事は、後で部屋に戻ってからもなにか入れておこう。

 そんなことを考えながら見守っていると、ウォルフが武器や衣類を見て、苦しむような笑みを浮かべていた。

「どうかしたの?」
「懐かしくなったんだ。俺は、これを装備していて、あの斧を武器にしていたんだ」

 その言葉に、僕はまじまじと指さされた二つの品を見る。

「欲しい?」
「……別に」

 するとウォルフが顔を背けた。

「そんな金もないしな」
「――今から、コンビニのレジでちゃんと買えるか調べたいから、買ってよ。お金は僕が出すから」

 僕が持っていたカゴを渡すと、ウォルフが息をのんだ。

「いいのか?」
「いいもなにも、ただのテストだから。それに僕は武器とか装備は買う予定がないし。やってみて。お願い」

 僕はそういってから、レジを示した。

「あそこのカウンターの上に置いて」
「あ、ああ」

 ウォルフが困惑したような顔をしてから、カゴをもってレジへと進んだ。
 すると無事に金額が表示されたので、僕がお財布から紙幣を置く。

『お買いあげ有難うございます』

 そんな電子音声が響いてきて、品は全て紙袋に入って手渡された。

「うん、これでコンビニは問題なしッ、と。出よう」

 僕が歩き出すと、素直にウォルフがついてきた。