【四】快楽堕ち(★)
本部であるスフィダンテの入る区画の通路を右手に進むと、いくつかの扉が並んでいる。その先は、粒輝力を用いた技術を利用した移動システムにより、各自の自宅に繋がっている。ガイが開けた先はまるで玄関のようになっていて、靴を脱いで上がるリビングが、目の前に拡がっていた。ブーツの紐を解きながら、素早くリオンは室内を確認する。まだ対処薬が効いているため、比較的冷静でいられた。
「ソファに座っていてくれ」
そう言うと右手のアイランドキッチンへとガイが向かった。
言われた通りに、リオンはソファへと向かう。だが、珈琲を淹れはじめたガイを一瞥し、それを飲んで歓談するようなつもりは毛頭ない上、さっさと終わらせて欲しいと考えていた。リオンは、正直な話老若男女にモテる。だが上で無かったことは一度も無い。また身持ちが堅いため、基本的に遊び散らしたりはしない。童貞ではないが、最後にSEXしたのも二年ほど前だ。それを敵対する相手と、しかも自分が受け身で行うというのが、正直納得できない。だが、先程まで身を苛んでいた熱を思い出すと、会議の時も我慢するのに必死で、気を抜くと声が出そうになっていたから、仕事に差し障る。そうであるならば、一度きりなら我慢して、早くこの状況を打破したいと思っていた。
しかし。
思わずギロリとガイを睨む。端緒は、不意にガイがキスをしてきた事だ。つまりこの状況の全ては、ガイが悪い。月冴国の人間の特性など自分は全く知らなかったが、ガイは知っていたわけだ。最低だとしか言えない。
「どうぞ」
「……結構だ」
目の前にカップが置かれた時、地を這うような低い声でリオンは返答した。
すると小さく笑ったガイが、リオンの隣に座る。
「リオン。お前は俺の敵だ」
「そのようだな。お前がこちらを悪だと声たかだかに批判している事は知っている」
「では、お前は違うのか?」
「俺にとって、皇帝陛下の敵は皆敵だ」
「そうか。では、お前個人としては?」
「質問の意図が見えないが?」
「お前から見て俺は敵か?」
「……実力という意味で、戦闘能力について述べるのならば、限りなく敵に回したくない一人だ。だが、実際問題、お前は敵だ。特に本日、俺はお前に対してネガティブな見方しか出来なくなった。俺をこのような状態にしたのだからな。だから、さっさと責任を取れ。珈琲など――っ」
いらない、と、言わせてもらえなかった。油断していたのもあるが、不意に肩を押されて、そのままソファへ押し倒され、抵抗しようと手を伸ばすと、その左手首をきつく握られ、同時にキスをされていた。ぬめる舌が、口腔に忍び込んでくる。
「ッ」
ガイの舌に歯列をなぞられた瞬間、ゾクリと熱が背筋を這い上がった。この熱は理解している。この熱のせいで、酷い目に遭った。ガイは容赦なく、リオンの口腔を舌で蹂躙する。舌を追い詰め、舌を絡め、引きずり出して、甘く噛んだ。その瞬間、さらに激しく強い熱が、リオンの内側に生まれた。目をギュッと伏せて、リオンは震える。唾液を交換するような、濃密なキスだった。
それが終わった時、既にリオンの切れ長の瞳は、快楽由来の涙で潤んでいた。黒づくめの服はゆったりした作りであるから下腹部は見えないのだが、ニッと笑ったガイに左手で覆うように撫でられれば、既にガチガチに反応しているのは、すぐに露見した。
ガイは右手でリオンの首元を開けていき、服を乱す。左手では、下衣の上から何度も陰茎を撫でた。その感触だけで果てそうだと思っていた時、ガイがリオンの右の乳首に触れた。そこで僅かに我に返り、険しい表情でリオンは首を振って見せた。
「不要な愛撫は結構だ。さっさと挿れてくれ。必要最低限で構わない」
それを聞くと、ガイが面白そうな表情で、リオンを見た。
「その余裕、いつまで続くか見物だな」
「……」
本当は既に余裕など無かったが、リオンは唇を噛んで知らんぷりをする。そのまま完全に、リオンは服を乱された。上は前を開けられただけだが、下は完全に剥ぎ取られた。大きいソファであるが、ここでするのかと、漠然とリオンは考える。だが、場所などどこでもいい。必要最低限の事が終われば、それで構わないのだから。
ガイは口に二本の指を含むと、唾液でそれを濡らした。
唾液もまた、特に粒輝力を流し込みやすい代物だったのだろうかと、先程のキスにより熱を帯びている体でリオンは考える。
「ッ」
ガイが骨張った長い中指を、ゆっくりとリオンの中へと差し入れた。すると指が触れたところから、響くように快楽が入り込んでくる。痛みがないのは痛覚遮断コントロールのせいかもしれなかったが、この状況では、痛みを拾うことなどできなかった可能性が高い。
絶対に声など出すものかと思っていたリオンだったが、たった一本の指がもたらす尋常ではない快楽に――恐怖していた。冷や汗をびっしりとかく。あるいは、それすらも快楽がもたらしたものだったのかもしれない。
「っ、ッ……」
震えながら、リオンが必死で声を堪えた。ガイが、中指を第二関節まで入れ、尖端を折り曲げるように動かした時だ。
「ぁ」
甘ったるい声が零れてしまった。
「おいおい、まだほとんど粒輝力は込めてないぞ? 俺のテクがいいって事か?」
「ち、違……っ、だ、黙ってさっさと挿れろと言っているだろう。指でいいのか?」
「勿論指ではダメだが、俺がこのキツキツの状態で入るほどの粗チンだと思ってるって理解して良いのか?」
「早くしろ……ッ」
「後悔するなよ? 痛くて辛いのは、お前だからな?」
現在の快楽より、絶対に痛みの方が優しいという確信が、リオンにはあった。
己のベルトを外し、ガイが下衣をおろす。そして巨大な陰茎を取り出したのを見て、リオンは少しだけ後悔した。まだ完全には勃起していない様子なのに、それでも非常に巨大に思える。挿いるわけがないし、挿いったとして、絶対に痛いのは間違いないと分かる。
ガイは二度ほど自分の手で陰茎を扱いて硬度を増してから、尖端をリオンの菊門へとあてがった。そしてめり込ませるように挿入する。引きつるような痛みがあって、リオンが僅かに冷静さを取り戻した。痛覚遮断コントロールがやはりきいているようで、激痛などはない。それに切れているといった様子もない。だが、ギチギチに押し広げられている。
ガイがそのまま雁首まで、陰茎を進めた。
「ッ……っ……」
汗がさらに出て、リオンの綺麗な黒髪を、白い肌に張り付かせる。
小刻みに体を震わせながら、リオンは声を堪える。その内壁を擦りあげるようにして、ガイの陰茎が進んでくる。ゆっくり、じわりじわりと中へと入ってくる。
「ッッ……ッ……っ、っ……ッ」
リオンの呼吸が時折喘ぐ声を堪えるものに変わりはじめる。体液のみでなく、接触でも、粒輝力は流し込める。徐々に徐々にガイが陰茎を進める度に、挿いりやすくする意図で、粒輝力を流し込んでいるせいだ。他にも意図はある。それにリオンが気づいたのは、ガイの陰茎が半分ほど挿入された時の事だった。壮絶に気持ちが良いというのに、イけないと気がついた。陰茎に直接触れられていないのだから、当然と言えば当然なのだが――内側から快楽がせり上がってきていて、イきそうな気配がある。だというのに、ギリギリのところで、決定的な刺激が無い。
「っ、ッ……ぁ……ァ……」
リオンの呼吸に涙が混じりはじめる。ガクガクと震えながら、涙の滲む目をガイへと向ければ、そこには意地悪く笑う獰猛な顔があった。
「声、出して良いぞ?」
「誰、が……っ、ッ……」
拒否して睨みつつ、今にも嬌声が零れ落ちそうだった。正直、イきたいという願望がある。それがどんどん強くなっていく。だがガイにそれを求めるなどプライドが許さないし、別に己が果てなくても、あちらが粒輝力を注げば終わりなのだからと、リオンは必死に耐えようとする。ガイはその姿を楽しみながら、リオンがイけない状態を維持した。
――それが十五分も続く頃には、リオンがギュッと目を閉じたり開いたりしながら、ガクガクと震えはじめた。瞳には情欲しか宿っていない。髪が張り付いたこめかみから、汗がさらに零れ落ちる。既に勃ちあがっているリオンの陰茎の尖端からは、タラタラと先走りの液が零れている。ガイは、ゆっくりと抽送している。浅い場所を亀頭で責め、少し引き抜いて、また陰茎の半分ほどまで挿入する。しかし前立腺は避けている。次第に解れはじめたリオンの中の、キツキツではあるが熱く絡みついてくる感覚に、ガイは唾液を飲み込んだ。
「ぁ……ァぁ……っ……ン」
ついにリオンが、喘ぐような声を吐息に混ぜた。すると両手で慌てたように唇を覆った。もう瞳は情欲に染まりきっているというのに、まだ理性が抵抗させるらしい。
「なぁ、リオン? どうされたい?」
「っあ……」
「俺は出そうと思えば出せそうだ。このまま出して、ここで終わりでもいいぞ」
「!」
その言葉にリオンが目を見開く。このような状態で放置されたら、気が狂ってしまう自信があった。ニコリとガイが笑う。そしてまた少しだけ、粒輝力を流し込んだ。
「ッッッ」
流し込まれていることに、リオンは気づいていない。だからただ、己の体がもっとほしがっているだけだと判断した。
「リオン。きちんと言え。何が望みだ? ん?」
「ひっ!!」
ガイが意地悪く腰を揺さぶった。巨大な尖端が、初めて前立腺に軽く触れる。もうリオンは我慢できなくなり、頭を振ってすすり泣きながら大きく喘いだ。
「ああああ、あっ、うあ、や、やッ、た、頼むから、も、もうダメだ。やぁ、あ!! あ、イきたい、イかせてくれ。も、もう――あ、あああっ」
二ラリと笑いながら、ガイは獰猛な瞳をリオンに向け、愉悦たっぷりの表情で頷く。
「お前がそうしろって言ったんだからな?」
そのように言質を取った直後、ガイは一気に根元付近まで挿入した。そして激しく動き始めた。同時に、粒輝力を全力で放つ。ビクンとリオンの体が跳ねる。そしてぐったりとしてソファに沈んだところで、ガイは一度動きを止めた。
「初めてだろ、お前。初めてなのに、中だけでイけるんだから、才能あるよ、お前は」
嘲笑するような響きを、ぐったりしながらリオンは聞いた。だが確かに達して力も抜けているのに、繋がっている箇所から快楽がずっと体の内側から全身に響いてきて、気持ちよいのが止まらない。それは絶頂感ともまた違う。気の狂いそうなほどの熱だった。
ガイがリオンの右足を持ち上げる。そして今度は斜めに、より奥深くまで貫いた。前立腺を擦りあげられる形になった時、リオンはついに泣きじゃくった。
「やぁァ……ぁあ、ンあ!! あっ! あぁッ、ぅ、うあ……あア――!!」
気持ちよすぎて、もう何も考えられない。感じる場所をぐりっと擦りながらさらに奥を貫くように動かれる度、何度もリオンの肩が跳ねる。それを繰り返してから、ガイは今度は弧を描くように腰を動かしはじめた。かき混ぜられるような感覚と、時折ダイレクトに前立腺が刺激される感覚に、リオンの脳裏がチカチカと白く染まる。ガイの先走りの液が内壁に触れる度に、尋常ではない熱――次第にそれが今まで知らなかったより強い快楽なのだと理解できるようになったものが、全身に襲いかかってくる。
「あ、あ、あっ」
「お前結構色っぽいんだな。男前だとは思ってはいたが、その泣き顔、いいな」
「うあああああ」
容赦なくガイが粒輝力を注ぎ込む。
その度に、リオンは気づくと中だけで果てていた。前からも、気づけば放っていて、既に何度射精したのか、自覚がない。白液はガイの着痩せしていた引き締まった腹筋を濡らしている。リオンの陰茎からは、もう透明になってしまった液がタラタラと勢いなく零れるばかりだ。
「あ、あ、イく。またイく、やぁ、イっ……ああああ! 嘘だろ、も、もうできな……――うああああ!!」
ガンガンと貫かれ、絶頂に達しても、直後にまた粒輝力を注がれるものだから、追い打ちをかけられ、波が一向に引かない。連続で絶頂に導かれ、髪を振り乱して泣くしか出来なくなる。
「俺より若いし体力もあるんだから、このくらい余裕だろ?」
「無理だ、無理、も、もうできない、頼む、もう……もう無理だっ」
泣きながらリオンが哀願する。しかしガイは笑うだけだ。
「粒輝力もまだまだ大量に注ぎ込めそうだしな」
「や、いやだ、嫌だ! もう、それは嫌だ。頼むから止めてくれ」
「どうして?」
「もう入らない、もう粒輝力は、入らない、絶対無理だ」
「謙遜しなくていいんだぞ? さすが粒輝力を拡張しているだけはあるな」
「うあぁああ!!」
ガイが激しく動きながら、何度も何度も粒輝力を注いでいく。ガイはまだ一度も射精していない。まだまだ余裕がある。だから余裕の笑みを浮かべたままで、涙の筋が出来ているリオンの頬を、親指で拭う。
「どうしてもやめて欲しいのか?」
「ああ、頼む。お願いだから、頼むから」
「へぇ? でも、敵のお前の望みを、俺が叶える必要はないものな?」
「!」
ガイがニヤニヤしながら、ゆっくりと奥まで動き、今度はギリギリまで引き抜く動作に変えた。それを次第に深くしていってから、また動きを止める。そのもどかしさに、リオンは号泣した。
「俺としては、やっぱり根元まで入れたい。一応これでも気を遣って、そうはしてないんだぞ?」
さも優しいというような声音で、微笑しながらガイが言う。実際、本人はそう考えていた。
「!!」
ズン、と。
その時ガイが、それまでより奥深くを突き上げた。リオンは目を見開き、唇を震わせる。
「ま、待っ……そんな、挿いらな――うああああああああああああああ!!」
再び、ズクンと。
ついに根元まで進め、ガイはリオンの最奥を暴く。容赦なく結腸を押し上げられ、突き上げられる。リオンは震えながら、声にならない悲鳴を上げ、ギュッと目を閉じる。黒い睫毛が震えている。
「出すぞ」
激しく結腸を責め立てながら、ガイが宣言した。
「あ、ああああああ!!」
すると内部に長々と熱い飛沫が放たれたのが分かった。
それが――残酷なほどの快楽をもたらした。精液が触れた箇所全てが熱く変わり、これまでに無いほどの、筆舌に尽くしがたい快楽を、リオンに与えた。
ブツン、と、リオンの意識が途切れる。
あまりにもの快楽に意識が持たず、リオンは気絶した。
長い射精を終え、ずるりと陰茎を引き抜いたガイは、それから立ち上がり、まじまじとリオンを見おろす。
「悪くなかったな。まぁ、これは確かに犯罪者も増えるだろう。ちょっと粒輝力を込めて愛撫しただけで、初物がこの感じっぷりだからな。本題の前に。もう少し味見してもいいかもな」
ぼそりと平坦な声でそう口にしたガイは、リオンを抱き上げると、寝室へと運び、ベッドに横たえた。