【五】翌朝(★)
翌朝――リオンが目を覚ましたのは、扉の開閉音が聞こえた時だった。
横たわったままでゆるゆると視線を向けると、白衣姿のガイが入ってきたところだった。ぼんやりしたまま眺めていると、ガイがベッドに上がってくる。
「起きたか」
その言葉に、リオンはハッとした。
そして自分の痴態を思い出しリオンが呆然とした時、その正面でニヤッと笑ったガイが、不意に親指でリオンの唇をなぞった。瞬間、背筋を快楽が這い上がる。もう今では理解できる。これは、粒輝力を注がれた感覚だ。
「い、一回と言っただろう……?」
リオンは怯えるように、力なく呟いた。
恐怖が強い。なにせ唇に触れられただけで、散々果てたというのに、また己の陰茎は反応を示したからだ。すると全裸のリオンの体の反応に、即座にガイが気がついた。そして右手で、ゆっくりとリオンの陰茎をなで上げる。無論その手からも、粒輝力が流れ込んでくる。すぐにリオンの陰茎は、完全に勃起した。
こうなってしまえば、もうダメだった。既にリオンは、自分の体が何を欲しているのか理解している。少し粒輝力を注がれると、自分の内側が満ちたと感じるまで、それを注がれなければ、体が持たない。ずっと熱いままになる。その事実に気づいて、リオンは震えながら目を潤ませた。呼吸すれば、その吐息にすら感じ入ってしまう。
「リオン、どうする? 俺は相手をしてやれるが、本当に昨夜の一回でいいのか?」
「っ」
「随分と反応しているようだが? たった一晩で回復するとは、若いってすごいな――リオン。言え」
「……」
欲しくて欲しくてたまらない。それが現実だ。だが言えない。それはプライドからではなく、羞恥からだった。リオンが沈黙していると、スッと目を眇め、ガイが冷ややかな顔をした。
「やめるか? 俺はそれでも構わないぞ」
その言葉が本音だというのは、ガイのこれまでに見た事が無いような冷徹な眼差しから明らかだった。リオンは羞恥をかなぐり捨てる。今、ガイに手を離されたら、この体がどうにもならないことを、よく理解していたからだ。
「し……してくれ……」
「じゃ、自分で俺に乗れ」
「!」
ガイはそう言うと、寝台の上に座した。おずおずと気怠い体を起こしたリオンは、困惑しながらガイを見る。そこには、既に張り詰めた剛直があった。
「……っ」
リオンは、意を決して、ガイの両肩にそれぞれの手をのせた。
早く行為を終えてしまおうと考えた結果だ。
そしてここから離脱しなければ、自分の体はおかしくなってしまうという危機感があった。ゆっくりと菊門を、ガイの尖端にあてがう。そして腰を下ろそうとすると、ガイが支えた。
「慣らさなくていいのか? 昨日の今日だから、解れているとは思うが」
リオンは無視した。そのような気遣いをするのならば、もっと優しく粒輝力を注いでくれればよかったと言いたくてたまらなかったが、その声も飲みこむ。
「ん、ぅ」
「良い眺めだな。男前が俺の上でこうしてるってのは」
「ひ、っぁ!」
その時、ぐっとガイが両手で、リオンの腰を下におろした。心の準備が出来ていなかったリオンが露骨に声を上げる。すると吐息に楽しそうな笑みを載せたガイは、己の陰茎から粒輝力を大量に注ぎ込んだ。
「んン――!!」
ビクンとリオンの体が跳ねる。果てたため、力が抜けた結果、弛緩した体が重力に従って下におち、結果ガイのもので深々と貫かれる形となった。力が抜けたリオンは、思わずギュッとガイの服の胸元の服を掴む。そして額を押しつけた。その全身が、小刻みに震えている。何度も息を吸っているのは、快楽が強すぎて、酸素が上手く吸えないからだ。
「やぁァ……あぁ……ァあ……あっ、ンあ……深い、深いっ、ン――!!」
根元まで受け入れる形になり、最奥をずっと押し上げられている状態なものだから、リオンは泣きながら喘ぐこととなった。ガイは突き立てた陰茎から容赦なく粒輝力を放っている。だから繋がっているだけで、幾度もリオンは果てている。必死に首を振り、リオンがすすり泣く。
「待って、待って、もうイけない、あ、辛い……辛い、無理だ……」
「まだ粒輝力、足りてないだろ? 今回は、本当にまだ足りてないはずだ」
「で、でも、でも……こ、これ以上されたら、無理だ。あ、あ、頭真っ白で、ダメ、ダメだ、あああああ! やだ、っぁ、嫌だ、もう嫌だ、怖い、助けてくれ、もうこんな、うああ」
「そんなに気持ちが良いのか?」
ガイがニヤニヤと笑っている。顔を上げたリオンは、それを見てコクコクと頷いた。頬を涙で濡らす姿が、これもまた色っぽい。目には欲望の色を浮かべているというのに、口だけで止めろと繰り返しているように、ガイには見えた。だから容赦なく、粒輝力を大量に注ぐ。
「いやぁぁあ、気持ちよすぎて、もうダメだ、あ、あ、おかしくなっ――ンあ!!」
「なれよ。それに、もっと本当は、粒輝力が欲しいんだろ? 染め上げられたいんだろ?」
「いや、いや、それは嫌だ。ダメだ。これ以上は止めてくれ。そうされたら、また気持ちよくなっ――またイっ……俺、もうそんな――うあああ!!」
「そんなに嫌なら、自分で動いて抜いていいぞ。見ててやるから」
「っ」
その言葉に、一縷の望みをかけて、リオンは腰を浮かせることにした。ガイの肩に再び手を突き、必死で腰を持ち上げ、ガイの陰茎を抜こうとする。だが、途中まで行くと、力が抜けてしまう。それは無論、ガイが粒輝力を放っているせいだ。
「うあぁ……」
すると力が抜けて、一気に腰が落ちる。
「あああ、深いっ、だめ、っ、ぇ」
結腸を責め立てられる形になり、ボロボロと泣くしか出来なくなる。それでも、二度・三度とリオンは頑張った。しかし無情にもガイが粒輝力をたたき込むせいで、五度目に挑戦した時、また力が抜けて深々と貫かれた瞬間、プツンと理性が途切れた。震えながら、真っ白な思考で、震える手を伸ばしてガイの胸元の服を掴む。そしてガイの着痩せする厚い胸板に上半身を預け、ガクガクと震えた。思考能力が完全にとんでしまった。ガイがそれを見て、口角を持ち上げて、また粒輝力を解放する。
「ああああああああああああ」
その強烈な快楽で、強制的にリオンは思考能力をたぐり寄せられた。戻ってきた思考で状況を確認して泣き叫ぶ。先程までとは異なり、激しく下からガイが突き上げてくる。仰け反ってなんとかリオンは無意識に離れようとした。だがその腰をガイがしっかりと掴んでいるので、上手く動けない。
「お前、腰は細いんだな。綺麗に筋肉がついた体をしてるが」
ガイがそんな感想を述べる。その直後だった。
「あ」
またリオンは中だけで果てた。
「あぁああ、もう、いやだああ」
号泣しながらリオンが果てる。強すぎる快楽に呼吸が苦しくなる。するとリオンの中が蠢き、ガイの陰茎を締め付けるようにしながら収縮した。
「っ」
堪えきれずに、ガイが激しく動く。それが奇しくも、リオンの絶頂に追い打ちをかける形になった。
「止めて、待って、今動かれたら――アああああああああ!!」
絶叫して、リオンが気絶した。
そのすぐ後、ガイが射精した。ガイが荒く吐息をする。そして少し驚いたような顔をしながら、額の汗を手の甲で拭った。
「持ってかれるとは思わなかった」
ガイはそう呟いてから、リオンの体を寝かせた。
己が陰茎を引き抜いた時、大量の精液が零れたのを見た。ばつが悪い心地になって、髪を右手で掻く。それから涙のあとが残る頬をシーツに預けているリオンを見る。
「寝てると、ちょっと幼く見えるな」
そんな感想を述べてから、白衣のポケットから、ガイは腕輪を取り出す。
勿論、折角捕まえる好機を得た、敵組織の幹部を、みすみす逃すつもりなどない。
意識のないリオンの左手首に、ガイは腕輪を嵌めた。それには、粒輝力を封じる効果と、位置の特定、また指定した範囲から出ようとした場合に、電流が走り気絶させる効果がある。今回は、ガイが管理用の腕輪を左手首に嵌めているので、この家の外に出た場合、ガイから一定距離離れると、気絶する事になる。家の中は自由に動ける。
「目が覚めたら、色々聞かせてもらわないとな」
腕を組み、ガイはそう独りごちる。ただ困るのは、体を重ねて情がわいたからなのか、元々リオンが端正な顔立ちをしているからなのか、妙に艶っぽく見える事である。いつも敵対的で冷徹な印象を与えていた、実力派の男前が、自分の腕の中では、か弱い草食獣のように逃げようとし、さらには泣く様は、なんともたまらない。快楽に怯える姿、反して快楽を求める体、理性が本能に追いついていない様子を見ているのがとても楽しい。
「俺も大概鬼畜だな」
そんな事を呟いてから、ガイはリオンの横に寝転がり、抱き寄せて、腕枕をしながら眠りについた。少し休もうと決めたのである。