【二】責任の取り方(★)
目が覚めた高良は、真っ裸のままリビングの座布団の上で寝ていた。
「……」
夢、かと思った時、足の間から垂れている、自分のものと明らかに青波のものだろう精液に気がつき青ざめた。
上半身を起こせば腰も痛い。俯けば、キスマークだらけなのも分かる。
おぼろげだった記憶が戻ってくる。
気絶して目を覚ませばまだ繋がっていて泣きながら嬌声を上げ、何度も果てさせられ、中出しされ、そしてまた気絶し、の繰り返しの夜だった。時計を見れば既に朝の十時である。視線を彷徨わせたが、青波の姿は無い。
「……なんだったんだ? ……え? レ、レイプ……?」
状況だけ抜き出してみれば、いきなり襲われたのだから強姦である。
しかし引く手あまただろうモテモテのはずの青波が、どうしてわざわざ自分を訪ねてきて事に及んだのか、さっぱり分からない。
「訴えても、誰にも信じて貰える気がしない……それに……」
気持ち良かったし、いやではなかった……と、考えて、高良は一人で赤面した。
その後のろのろと起き上がりシャワーを浴びた。どうやって中の処理をするかは、スマホで検索してからシャワーを浴びた。
鏡に映っている白い体には赤い痕だらけで、噛み傷も見える。
まだ肌に、青波の手の感触が残っているような気がした。
幸い土曜日、休日である。この日高良は、体が重かったのでベッドに向かい、ダラダラと寝ていた。
食欲はなかった。が、夕方、冷凍のパンを解凍して食べた。
考えるのは、青波のことである。
そうしていたら午後八時頃、インターホンが鳴ったからビクリとした。
まさかと思いながら両腕で体を抱き、静かに玄関へと向かう。
「……!!」
モニターには青波が映っていた。
何故あんなことをしたのか聞きたい気持ちもあったが――相手は強姦魔。
もう関わらないべきである。居留守だ。居留守しかない。そう思って、音を立てないように後ずさった時だった。バンと音がした。見れば鍵とチェーンが破壊されていた。陰陽力で物理的に破壊されていた。
「あ……」
「部屋で具合を悪くしているのかと思ったから開けた」
「そ、そ、そうですか……お、俺は今……出ようかなと」
笑顔を必死で浮かべたが強ばった顔で、高良は言い訳した。青波が顎で頷く。悪びれた様子もない。中へと入ってきた青波は、陰陽力で扉を直してから、ブーツを脱いだ。高良は、その場でオロオロしていた。すると室内に入り隣にたった青波が、口布を下げてから、不意に高良の顎を持ち上げた。
「!!」
そして唇を奪った。入り込んできた青波の舌が、高良の舌を追い詰め、絡め取る。最初は目を見開いていた高良だったが、あんまりにも巧みなキスにゾクリとし、息が苦しくなって、ギュッと目を閉じた。崩れ落ちそうになった高良の腰を、片腕で青波が抱き寄せる。
「ぁ、ハ……」
唇が離れた時、高良がトロンとした瞳をしていると、青波が高良の着ていたシャツのボタンを外し始めた。
それに気付いて、高良は逃れようと体を反転させる――が、そこには壁しかなかった。 その状態で下衣もぬがせられ、ボクサーも取り去られた。
「あ、ああ……く」
直後、慣らすでもなく、青波が押し入ってきた。巨大で長い剛直が、一気に高良を後ろから貫く。掴む場所のない壁に必死で手をついた高良は震えた。意図せず突き出す形になった臀部、華奢な高良の腰をギュッと掴んでいる青波。
「ああ、あ……あ、ア……っ、ぁ……ああ!」
昨日の今日でまだほぐれていたようで、痛みもない。昨夜覚え込ませられた快楽が甦ってくる。昨日とは異なる角度で、前立腺、そして最奥の結腸を刺激され、チカチカと高良の瞳に情欲が宿る。
「う……う、ぁ……あ……ア、あ……ああああああ!」
最初はゆっくりだった青波の動きがどんどん激しくなっていく。それにあわせて、触れられた訳でもないのに、高良の陰茎も反応した。
「あ、あ、あ」
「……っ」
「あ――!!」
青波が中に出した時、高良も放って崩れ落ちそうになった。その体を抱き留めるようにして、青波が床に座る。既に硬度を取り戻している青波の陰茎が深く突き刺さる形で、後ろから抱きしめられるようにされ、高良は今度は下から貫かれた。
「や、あ、待って、待って、あ……まだ、あ、あああ」
しかし青波は高良の制止など聞かず、下から激しく突き上げる。そうしながら高良の陰茎を扱いた。
「あああああああ!」
何度もそのまま果てさせられ、青波が次に放って陰茎を引き抜いた頃には、青波の胸板に体を預け、高良がぐったりとしていた。
青波は絶倫だ。巨根の絶倫だ。そう確信しながら、汗ばんだ体で高良はぼんやりとしていた。もう体に力が入らない。
そんな高良を後ろから青波が抱きしめている。
「……」
気持ち良かったが、そういう問題ではないし、体力がごっそりと持って行かれてしまった。
この状況は、一体何だ……?
混乱しながら、チラリと高良は青波を見た。
「あ、あの……」
「なんだ?」
「一体どうしてこんな……」
「? お前が望んだんだろう?」
何を……?
完全に頭の中が疑問符で埋まり、高良は曖昧に笑うしか出来ない。
「正直驚いた。お前から『好きだ、付き合ってくれ』と言われるとは」
「――は? 俺が一体いつそんな事を?」
「金曜日の夕方、メールをよこしただろう? その上、会いに来いと」
「え、え? そんなメールしてませんけど……? そもそも俺、青波隊長のメールアドレスなんて知りませんし……」
高良が困惑しながら首を振ると、青波が息を飲んで目を丸くした。だがすぐにいつもの冷静な表情に戻る。
「……本当にお前はメールをしていないのか?」
「誓って! メールボックスを確認してもらっても良いです! むしろ相手のアドレスが俺のか見せてください!」
「だとすると――何故無抵抗で俺に抱かれた?」
「!? 青波隊長に抵抗可能な人間って世界に存在するのかな!? 俺必死に押し返そうと試みたんだけどな!?」
「……」
青波が沈黙した。目が細くなっている。それを見て高良は唇を尖らせた。すると、青波が深々と息を吐いた。
「ならば――俺が無理矢理強姦したという事になるな」
「え、あ……それは、その……」
「責任は取る」
それを聞いて、高良は軍法会議について思い浮かべた。これはなにかの手違いか誰かの悪戯が悪いのだ。それで誇りに思っている教え子が刑務塔に行くなんて可哀想である。
「じ、事故です。こ、これは、事故!! 俺忘れるし、誰にも言いません!」
「いいや。それでは俺の気が済まない」
「で、でも……」
「付き合おう」
「……へ?」
「責任を取って、恋人になる」
「は?」
いやいやいや、責任の取り方がおかしいだろう!
と、高良は考えながら、引きつった顔で笑った。すると青波にギロリと睨まれた。
「嫌なのか?」
「え」
嫌か否かと言われたら、咄嗟のことでよく分からないが、別に好きじゃないし……と言う感覚である。
「俺は付き合うと言ってる」
「……」
「俺が嫌なのか?」
嫌なわけがないよなぁと言うかのような顔をしている青波を見て、笑顔はかろうじて浮かべていたが、高良は泣きそうになった。
怖いという意味では嫌かもしれない。
しかし小心者なのでそんな事を言う度胸もない。
「俺と付き合え。答え」
「は、はい!」
このようにして、高良は青波と付き合うことになったのだった。