【*】閑話(SIDE:青波)





「……」

 一階への階段を降りながら、黒い口布の上から、青波が唇を押さえた。口布をしていなかったら頬が朱く唇が震えていることに皆が気付いただろうが、幸いそれに気付いたのは副隊長の東雲だけである。

「青波は本当に高良先生が好きだよね」

 二人は高良を覚えている。というか軍人で高良に習っていない生徒は一人もいない。正直みんな覚えている。学校が出来ると同時に、高良は先生となったからだ。一期生の二人が十八歳だった時、高良は二十三歳。青波はその頃からずーっと高良の事が大好きである。今でこそ最強の軍人などと言われているが、それもこれも動機は邪で、単純に高良に褒められたかっただけである。

「……今日も可愛いかった」
「うーん。それは否定はしないよ」
「東雲。高良先生をまさか――」
「ないない。僕だって親友の好きな人を奪うとか無いから」
「はぁ……年々艶っぽくなっていく」
「それも否定はしない。高良先生、昔は可愛いなって感じだったけど、最近艶っぽいよね」

 なお、二人は非常にモテる。東雲は美人だがバリタチなので、よってきたガチムチなどを適当に食い散らかしているし、青波も溜まった時誘われれば適当に抱く事はある。が、二人とも周囲には、「青波隊長と東雲副隊長は付き合っている」と囁かれている上、本人達も面倒だから特にそれを否定しないので、双方ともに恋人はいない。そもそも青波は恋人にするなら高良以外は考えられないと思っている。

「……」
「今何考えてるか当てようか?」
「ああ」
「高良先生とヤりたい――当たりでしょ?」
「当たり前だろうが……しかし接点がゼロなんだ。廊下ですれ違う以外、顔さえ見られない」
「もういっそさ、部屋に訪ねていけば?」
「口実は?」
「そんなものいらないでしょ。強いて言うなら、告白?」
「……振られたら立ち直れない」
「普段接点ゼロなんだから振られても会うことは無いじゃん」

 確かにそれはそうである。青波は決意した。明日は土曜日だ。学校は休みだ。軍人に休みは正確には存在しないが、一応青波も急な仕事が入らない限りは自宅待機――即ち休暇と言って良い。

「今夜、告白に行ってみる」
「行動早いな。まぁ、それでこその青波だよね」

 そんな話をしながら、二人は一階に到着した。
 ――メールが届いたのは、その日の午後の事だった。


 ◆◇◆


 ブーツを脱ぎながら青波が、高良の鎖骨や、石鹸の匂いに、欲情しまくっていた事には、全く気付いていなかった。