【七】騎士と服装
俺もそう身長が低い方ではなく、174cmほどはあるのだが、キースさんは俺よりもずっと長身だった。並んで歩くとそれを露骨に感じながら、無言で一つ目の通りへの道を過ぎる。もう一つ過ぎる間に、大通りで別れる言い訳をひねり出さなければ。職務とは言え、俺を送るなんていう雑用をさせるのも可哀想である。
茶褐色の騎士団の第二師団の正装を見る。縁取りは白練色だ。手袋の色は白で、ブーツは黒に近い茶色である。師団によって色が違うが、騎士の制服は、皆形は同じだ。多くの例に漏れず、キースさんも腰に剣が見える。
「あの」
俺は意を決して声をかけた。すると顔だけをこちらに向けたキースさんが、小さく首を傾げる。ダークブロンドの髪が揺れた。
「俺は昼食を王都でとる予定なので、大通りまでで結構です」
「――どの店に予約を?」
「え、えっと……見て考えようかと思って、まだ入れてません」
ふらりと入るつもりでいた。すると、僅かに呆れたような顔をしてから、不意にそれまで無表情だったキースさんが、苦笑するように唇の右端だけを持ち上げた。
「危険だな」
「いやいや、第二師団のおかげで、王都の治安はとてもよいじゃないですか」
お世辞を交えて、俺は述べた。俺にだって、ある程度の社交性はある。貴族に生まれると、上辺のやりとりは、幼少期に家庭教師からそれなりに教わる。十三歳から十八歳になる年の初春まで、毎日ではないが通学する王立学院はあるものの、貴族の子息は、それまでは家庭教師や乳母とよばれる育ての親から礼儀作法や教養を学ぶのが一般的だ。
「だからといって、町人風の服を纏って、街に紛れ込んで、平民のフリをしてふらりと外食するのは、決して推奨された行いではないと思うけどな」
キースさんの口調が、少しだけ砕けたものに変わっている。
痛いところを突かれて、俺は顔を背ける。
実際、今の俺の服は、エヴァンスに用意してもらった、平民の服だ。この国では平民差別があるわけではないが、貴族はやはり特別視される。街でアルマ殿下からの頼まれごとを解消する時、貴族だと露見すると動きづらいという理由で、服装を変えるようになったのが始まりで、俺は実を言えば学院時代から、ちょくちょくお忍びで街に出かけていた。
供をつけずとも、貴族というのは服装でもすぐに露見する。シャツ一つとっても生地が違うからだ。特に魔術糸を練り込んだような上質な衣類は、貴族しか着用しないから、すぐにバレる。今の俺は長袖の薄手のサマーニット姿で、首元には紐がついている。下衣は細身の黒いデニム生地のものだ。靴もわざと履き古したものを選んだ。