【9】青と白の快楽(★)
セミダブルのベッドの上に促され、俺は静かに座った。
右の唇の端を持ち上げて、残忍な笑みを浮かべ、ローラが俺を見ている。
それからローラが歩み寄ってきて、俺の右の足首を掴んだ。ベッドの上で、俺はもがいた。上半身は起こしたままだ。
「やぁああっ」
その手の感触だけで、俺の体は熔けた。
「あ、あ、あ、ああああああ、待ってくれ」
俺はもうダメだった。頭を振って泣き叫んだ。
太ももが自然と震え、全身が青く染まっていく。出る、と、そう思った時には涙がこぼれた。何故なら、果てる事が出来なかったからだ。
俺の全身に冷や汗が浮かぶ。びくりと体を震わせた。
「イかせてくれ、ああああああ」
「どうやって?」
「挿れてく――、ッ、ひ!!!」
するとローラが、乱暴に俺を脱がせ、指を進めてきた。
それが狂おしいほどの快楽を俺にもたらした。既にドロドロに溶けきっていた俺の内側が、歓喜しながらローラの指を受け入れた。俺はその衝撃だけで果てた。
「あああ――、足りな、い……あああああ!!」
ぐちゃぐちゃと音がする。ローラは片手で俺の腰を掴みながら、激しく指を動かしている。
「やぁ、あ、あ、待って、あ、うあああああ」
「淫乱だな、住職様? ご高尚な考えのもと、俺に血液提供に来ているはずなのになぁ」
「ああ、ああ」
俺はもう意味のある言葉を紡ぐことができなかった。
理性の糸が、プツンと途切れてしまいそうになる。
「ぁ」
その時、牙を突き立てられ、俺は声を漏らした。
「あああああああああああああああああああ」
全身を灼熱が襲った。無我夢中で藻掻く。
そんな俺を見ながら、ローラがのしかかってくる。そして俺の乳首に噛み付いた。
「ああっ、あ、あ、やぁっ」
左乳首を甘噛みされ、俺はむせび泣いた。右の乳首は、強めに摘まれる。残酷なほどの快楽だった。しかし――はっきりと俺の脳裏に欲望が浮かんだ。足りない、貫かれたい。
「うわああああああああああああああああああ」
その時――前立腺を刺激されると同時に、俺の中に快楽が入り込んできた。
全てを、快楽の白で塗り替えられた。稲妻に似た痺れる快楽が、全身を走り抜ける。血管が全て、快楽を流す回路に変わってしまったかのような感覚だった。ジュクリジュクリと音を立てながら、指を抜き差しするローラは、非常に楽しそうに、そして残忍な笑みを浮かべて見ている。
「あ、ああ」
そして俺が求めていたもの、大きな先端を、ローラが俺の中に進めた。その肉の感触に、俺の内側は歓喜で震えた。
しかし――そのままでローラは動きを止めた。違う、ダメだ、俺はもっと奥に欲しい。
「どうして欲しい?」
意地悪く聞かれる。俺はボロボロと涙を零していた。
「ひっ、ああっ、あ、あっ、ああっ、アっ――!!」
すると先端だけをゆるゆるとローラが動かした。俺は耐え切れなくて、涙をこぼした。そうしながら、何とか中へと誘おうと、必死で体も動かしていた。もう自分では止められなかった。
「もっと、あ、奥に、う、あ、ァ、うあああっ」
俺の言葉に喉で笑うと、ローラが、ググッと奥深くまで挿入した。
そして先程までよりも激しく強引に腰を打ち付けた。ローラ自身の快楽を優先するように、俺の体を貪った。乱暴だというのに――それにさえ、俺の体は快楽から泣き叫んでいた。
何をされても、どんなに酷くされても、熱い体は感じてしまうらしい。肌の内側全てに快楽が満ちている感覚で、例えば時折首筋に触れるローラの吐息にすら俺は感じた。
その時ローラが、俺の背中に体重をかけた。
そして耳の中へと息を吹きかけながら、囁くように言った。
「本来俺には、淫乱を相手にする趣味はないんだけどな」
そのまま押しつぶされるようにされ、俺は身動きを封じられた。そうして繋がったまま、動かれないでいるうちに――カッと全身が熱を帯びた。
「あ」
小刻みに体が震える。繋がっている場所からずっと熔けてくる快楽が、どんどん染み入ってきて、俺の全身の隅々にまで、水のように広がっていく。
「や、やだっ……あ、あ……あ……ひっ、う、動いてくれ、動いて」
「……」
「動いてくれ」
「……」
「動いて、うあ、あ、ああああっ、待って、待ってくれ、体熱い、いやあっ」
俺は咽び泣いた。涙がボロボロと溢れる。もどかしさで気が狂いそうになった。だが、動かれていないというのに、どんどん絶頂感が高まっていく。体がおかしかった。このまま繋がっていたら、それだけで果ててしまいそうな恐怖、俺はそれに怯えた。
しかしローラは動いてくれず、俺はそのまま結局果てた。
「すごいな、絡み付いてくる。まだ足りないのか」
俺が果てても、ローラが陰茎を引き抜くことはない。体の奥深くで、ローラの形を俺は覚えこまされるように理解させられていた。既にローラの形に馴染んでいる内部は、自分でも締め付けているのがよく分かる。
「……ぁ……あ、ああっ、ン、ま、またクる、また……また、体が……熱、っ」
「気持ち良さそうだな」
「あ、あ……ローラ……っ……」
俺は、乖離した理性で、己の体は異常に甘ったる声で、ローラの名を呼んでいるのを聞いた。尋常ではなく求めていた。完全に思考と体が分断されている。
するとその時、ローラが舌打ちをした。
そしてギュッと俺の腰を両手で掴んだ。
「うああああああああああああああああああああああああ」
激しい抽挿が始まった。皮膚と皮膚がたてる乾いた音と水音が同時にする。
「あ、ああっ、あ――!! 待ってくれ、あ、あ、壊れる、深い、あ!!」
滅茶苦茶に暴かれ、激しく貫かれ、俺は逃れようとシーツを掴んだのだが、すると後ろから首筋に噛み付かれた。
「いやあああああああああああああああああ」
決して逃がしてはもらえない。何度も打ち付けられ、中に精を送られる。内部に白い液が飛び散るたび、俺の体は快楽が強まっていく。
その内に、俺は理性を飛ばし、いつから意識がなかったのかも覚えていない。
――次に目を覚ますと、俺にローラが言った。
「もしもお前が望むなら、血を貰う時に、抱いてやるよ」
「……」
「お前が俺に、抱いて欲しいと言うんならな。俺は別に、藍円寺に手を出す趣味は無いけどな」
その言葉に、俺は何も言えなかった。
無言でトボトボと寺に帰ると、既に夜が明けていた。
じっくりと考えてみる。
恥ずかしくて言えるわけがない。でも……言えば、ローラは俺を抱いてくれるのか……。
一日中それについて考えていた。
結果、除霊のバイトにはさっぱり身が入らなかった。
こうして、その日も俺は、ローラの所へと向かった。
「ひっ……うあ、ぅ……ぁ、ァ」
全身を舐められながら、俺はすすり泣いた。昨日強い快楽を与えられたせいなのか、体が反応してしまう。どこを舐められても辛い。
「いや、いや、いやだ、あ、あ、ああっ、うあ」
薔薇の強い香りと、ローラの存在以外、何も認識できなくなっていく。
気づくと俺は、懇願していた。
「ローラ、俺を抱いてくれ」
「――良いだろう」
こうして、この日から俺達の間に、行為が加わるようになった。
いつもローラは、自分からは手を出してこない。最近では、適当に俺の手を噛んで吸血も終えてしまう。
だがずっと俺の体の内側では、快楽の灼熱が渦を巻いている。
欲しい、欲しくてたまらない。無茶苦茶にされたいと、体が切望している。
俺は、悶えながら熱い体を、なんとか制御しようとするのに、どんどん熱はくすぶっていく。ただ普通に呼吸をしているだけでも、次第にそこに嬌声じみた喘ぎが交じるようになり、瞬きのたびに、生理的な涙が頬を濡らすようになるまで、そう時間を要しなかった。
「ローラ……」
気づけば無意識に、俺はローラの名を呼んでいた。
するとローラは溜息をついてから、グイと俺の顎を掴んだ。
「っ、ん、ふ……」
そして俺の唇を塞いだ。ひたすら乱暴に貪られた。
歯列をなぞられるだけで、まるで直接性器を触られているかのような快楽を覚えた。体がゾクゾクして、頭が真っ白に染まっていく。
「……くれ」
「ん?」
「抱いて……くれ……」
俺が涙をこらえながら言うと、うっすらとローラが笑った。
「俺、お前で勃つかなぁ? 飽きてきた。んー、咥えろ」
「っ」
「藍円寺さんの、お手並み拝見ですね」
わざとらしい敬語で、嘲笑するようにそう言われた。胸がグサリと痛んだ。
そのまま、俺はローラのものを咥えさせられた。
逆向きで、俺の太ももを両手で広げているローラは、ぴちゃぴちゃとわざとらしく音を立てながら、後孔を熱心に舐めている。襞を解すように、皺をなぞるように、ローラの舌がずっと蠢いている。その刺激が気持ちよくて、全身の力が抜けると口の中にローラの陰茎が深々と突き刺さる。息ができない。何故なのか、口の中も気持ち良くて気が狂いそうだった。
「口が止まっているぞ」
「っ、は……ン……」
既に欲情しきっていた俺は、早く中に欲しくて仕方がない。
それから三十分ほどしてからの事だった。
「お前は下手だな。今度じっくり仕込んでやる。もう良い」
「……」
ローラの陰茎から口を離し、俺は必死で息をした。
ローラはあからさまに侮蔑混じりの溜息を吐くと、左手で俺の後ろの双丘をつかみ、右手の指を中に押し入れてきた。一気に三本だ。自然とすっかりほぐれきっていた俺の体は、絡みつくようにそれを受け入れた。俺の全身が、歓喜していた。
「あ、ああっ……あ、ああっ……は、あ、ン……んンぅ」
「今日は自分で上に乗れ」
そう言うと、指を引き抜き、ローラが俺の体を起こした。
俺はローラの肩に手を置き、すぐに跨った。俺の腰に手を置き、ローラが支えてくれる。
気持ち良すぎて声を抑えることなどできなかった。
俺は自然と体を揺らしていて、無我夢中で快楽を追いかける。
「うっ」
この時、もう俺にはプライドなど無かった。欲するままに奥までローラを受け入れる。入りきった時、俺は望むがままに腰を振った。気持ちの良い場所に当たるようにと、必死に腰を動かす。だが、自分では上手くできない。
「動き方はまだ躾が足りないようだな」
「あ、あ、ああっ、あ――!! ローラ、あ、やっ、待って、動いてくれ」
「堪え性が足りない部分も同じだ」
「ひあっ」
「まぁ良い。一度果てさせてやる。夜は長い」
その言葉を聞くのとほぼ同時に、俺は果てた。
ここの所――俺は、朝帰りばかりしている。
目が覚めた後は、過去のマッサージ後と同じで、体が爽快になっているから、一度寺に戻ってから、そのままバイトに行く形だ。
ローラが、「抱かれたいんなら、早く来い」と言うから、ほぼ今では、着替えや所持品を取りに帰るだけで、俺はバイト以外の時間は、ほとんどローラの所にいる。
ずっと一緒にいられるから……幸せなんだと思う。今も俺は、変わらずローラが好きだ。、
ただ……最近では、胸が痛む日が増えた。心が痛い日だ。時々、ローラと一緒にいると、苦しくなる。
「恋愛って、辛いんだな」
歩きながら、俺は思わず呟いた。